情報組織化研究グループ月例研究会報告(2019.12)
「"IFLA Library Reference Model"訳解」
和中幹雄氏
- 日時:
- 2019年12月28日(土)14:30〜17:00
- 会場:
- 同志社大学新町キャンパス
- 発表者:
- 和中幹雄氏
- テーマ:
- 「"IFLA Library Reference Model"訳解」
- 出席者:
- 荒木のりこ(国際日本文化研究センター)、石田康博(名古屋大学)、石村早紀(樹村房)、今野創祐(京都大学)、大塚栄一(樹村房)、岡田大輔(相愛大学)、蟹瀬智弘(紀伊国屋書店)、川崎秀子、佐藤久美子(国立国会図書館)、柴田正美(三重大学名誉教授)、島村聡明(京都府立図書館)、高畑悦子(紀伊國屋書店)、田窪直規(近畿大学)、田村俊明(紀伊国屋書店)、徳田恵理(紀伊国屋書店)、中道弘和(堺市立図書館)、松田泰代、宮田怜(元・京都大学)、村上健治(神戸大学)、横谷弘美、李東真(JST)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中<23名>
今年度の日図研研究大会(第61回,2020年2月22日)で行う予定のグループ研究発表についての中間報告として行われた。
はじめに
二つの目録規則と二つの書誌・典拠情報の概念モデルを、そこで使用されている術語(technical term)を比較することにより、目録と目録作成の変遷と将来の課題を明らかにすることが本論の目的である。
まず、『日本目録規則 1987年版』(NCR1987)が30年ぶりに改訂され、2018年12月に「『日本目録規則2018 年版』(NCR2018)が刊行された。渡邊隆弘日本図書館協会目録委員会委員長は、「NCRの歴史の中でも最大といってもよい抜本改訂となった」(2019年度全国図書館大会目録分科会での報告)と述べている。この抜本改訂の内容を、規則中に用いられている術語(technical term)の変遷の観点から論じる。これが、「二つの目録規則」の比較の内容である。
次に、FRBRファミリーと言われる三つの概念モデルFRBR、FRAD(典拠情報の機能要件)およびFRSAD(主題典拠情報の機能要件)とそれらを統合した新たな概念モデルIFLA Library Reference Model(IFLA LRM)(2017年8月公表)の二つの概念モデルの異同を、そこに現れる術語を中心に比較検討する。IFLA LRMは、RDAのインターネット上の利用サイトであるRDA Toolkitにおいて、現行の規則とは別に、2018年6月から公開されている新RDAのベータ版(試用版)に実装されている。そのため、このFRBRの後継モデルであるIFLA LRMはわが国でも今後重要になると考えられたので、この分野の専門家15名による共同翻訳作業が実施され、その成果が2019年12月に邦訳版として刊行された。これを機に、FRBRとIFLA LRMの訳語の決定方針を示した上で、IFLA LRMで新たに登場した術語を中心に紹介し、今後の目録作成の課題を示すのが、「二つの書誌・典拠情報の概念モデル」の比較の内容である。
1.戦後日本の目録規則と国際標準等の邦訳の変遷
わが国の目録規則は、戦前戦後を問わず、米国(ないしは英米)の目録規則の影響を大きく受けてきた。戦後は、さらに、英米目録規則のみならず、ISBDなどの国際標準をもその基礎としている。術語の観点から述べると、目録委員会が目録規則を策定ないし改訂を行う場合には、直近の英米目録規則および国際標準の邦訳版における訳語を使用する場合が大半である。「戦後日本の目録規則と国際標準等の邦訳の変遷」と題した年表を示した。
今回は、NCR1987とNCR2018の変遷を扱う。
- (NCR1987)
- 日本目録規則 / 日本図書館協会目録委員会編. -- 1987年版. -- 東京 : 日本図書館協会 , 1987.9. -- x, 324p. 以後、改訂3版(2006.6)まで改訂版あり。
- (NCR2018)
- 日本目録規則 / 日本図書館協会目録委員会編. -- 2018年版. -- 東京 : 日本図書館協会 , 2018.12. -- xi, 761p.
2.NCR2018がNCR1987の抜本改訂である意味
NCR1987は、「第I部 記述」「第II部 標目」「第III部 排列」という構成が示すように、「記述」と「標目」を基本的な枠組みとしているのに対し、NCR2018はFRBRが示す「実体」「属性」「関連」を基本的な枠組みとしている。用語解説に現れる術語の観点から見た場合、これが抜本改訂の第一の要因である。それとともに、NCR2018は、AACR2の後継規則であるRDAの「翻案」とも言っていい規則であることも第二の大きな要因であると考えられる。次の8点にまとめて、異動を示した。
- (1) NCR2018から消えた術語(記入と標目に関わる用語)
- (2) NCR2018から消えた術語(データ提供時の提示方式に関わる用語)
- (3) 定義が変更された基本用語(記述ないし書誌記述(description))
- (4) 書誌階層構造に関わる用語
- (5) 資料種別を示す用語
- (6)「資料と個人・家族・団体との関連で使用する関連指示子」の用語
- (7) 漢語からカタカナ語へ
- (8) FRBR由来の新語の登場
3.RDA toolkitベータ版の構成と重要な術語について
- (1) RDA Toolkitの再構成
- (2) RDAベータ版の構成
- ENTITIES、GUIDANCE、POLICIES、RESOURCESの4部構成。
- (3) ENTITIES(実体)
- 規則の本体部分。IFLA LRMの10個の実体を中心に下記の13個の実体を規定する13章で構成。
- (4) GUIDANCE(ガイダンス)
- IFLA LRM等、新しい考え方の理解にとって重要と思われる概念の手引き。15章で構成。
4.IFLA LRMの成立とその概要
- (1) FRBRとは何(だった)か
- (2) FRBR承認後のIFLAの活動
- @ FRBRの再検討
- A 概念モデルの拡張(1):FRBR Familyの形成
- B 概念モデルの拡張(2):Harmonisation
- C FRBR、FRAD、FRSADを統合した概念モデルIFLA Library Reference Model(IFLA LRM)の策定(2017年8月)
- (3) IFLA LRMの全般的特徴
- @ 機能要件から概念モデルへ
- A ハイレベルの概念参照モデル
既存の3つのモデル(FRBR、FRAD、FRSAD)を抽象化・一般化の方向で統合
- B Library Resourceに限定したモデル
- C 表形式による記述
- D FRBRのモデル化のプロセスを踏襲
- E「拡張実体関連モデル」によるモデル化
5.IFLA LRMの邦訳と訳語決定の方針
- (1) FRBR邦訳における訳語決定の方針(『書誌レコードの機能要件』訳者まえがきより)
- (FRBR)
- Functional requirements for bibliographic records : final report / IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Records. München : K.G. Saur, 1998. (UBCIM publications ; new series, vol. 19). As amended and corrected through February 2009. Available at: http://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frbr/frbr_2008.pdf (accessed 2019-12-14)
- (FRBR邦訳)
- 書誌レコードの機能要件 : IFLA書誌レコード機能要件研究グループ最終報告 : IFLA目録部会常任委員会承認 / 和中幹雄, 古川肇, 永田治樹訳. -- 東京 : 日本図書館協会 , 2004.3. -- 121p.
- (2) IFLA LRM邦訳における訳語決定の方針
- (IFLA LRM)
-
Riva, Pat; Le Bœuf, Patrick; Žumer, Maja. "IFLA Library Reference Model: a conceptual model for bibliographic information". 2017-08. As amended and corrected through 2017-12.
https://www.ifla.org/files/assets/cataloguing/frbr-lrm/ifla-lrm-august-2017_rev201712.pdf
- (IFLA LRM邦訳)
- IFLA図書館参照モデル : 書誌情報の概念モデル / Pat Riva, Patrick Le Bœuf, Maja Žumer著 ; 訳者代表:和中幹雄,古川肇. -- 樹村房, 2019.12. -- 104p.
FRBRとIFLA LRMにおける訳語決定の方針は、@直近の訳語を重視する、A斯界の慣習を重視する、B一般的な語を優先する、の3点にまとめることができる。
6. IFLA LRMにおける実体、属性、関連の特徴
FRBR、FRAD、FRSADを統合したIFLA LRMの内容を、それぞれの術語の対応関係を示しながら紹介。
- (1) 11個の実体と実体の階層化
- res、著作(work)、表現形(expression)、体現形(manifestation)、個別資料(item)、行為主体((agent)、個人(person)、集合的行為主体(collective agent)、nomen、場所(place)、時間間隔(time-span)
- @ すべての実体のスーパークラスresの導入
- A 実体としてnomenを導入
- B 実体としてnomenを設定した理由
- C 究極の簡略化モデルの許容
- (2) IFLA LRMの実体(LRM-E1〜LRM-E11)とFRBR、FRAD、FRSADの実体の比較
- (3) 属性の特徴
- (4) 関連の特徴
7.今後の目録および目録作成にとって重要となる概念
- (1) 集合体現形(aggregates)
- (2) 通時的な著作(diachronic works)
- (3) 体現形表示(manifestation statement)
- (4) nomenと呼称について
- (5) 代表表現形属性(representative expression attribute)(著作の属性)
8. まとめ
- (1) FRBRはAACR2をベースとして目録の機能要件を抽出したものである。
- (2) FRBRのWEMIモデルは、AACR2の基本記入規定の分析に由来している。
- (3) RDAはFRBRを媒介としたAACR2の改組である。
- (4) NCR1977から始まった記述独立方式の導入が、わが国におけるAACRの伝統からの
乖離を招いた。
- (5) 記述独立方式による目録規則の規定の基礎にはISBDがあるが、この規定内容(エレメントとその記述順序)は、西洋の記述書誌学と1970年代初頭の情報技術の折衷によって生み出されたものである。この観点から見ると、わが国の今後の目録作成のあり方としては、西洋からの受容だけではなく、和書を対象とした「転記」についての課題も検討すべきである。アルファベット文字文化で重要な大文字・小文字の扱いだけではなく、新旧漢字、冠称、文字間の空白、元号表示年、複数情報源からの組み合わせ、縦書き・横書きの記録の重要性なども検討してゆくべきではないか。
- (6) 「記述」と「標目」という図書館目録の情報概念の枠組みは、上述の歴史によって確立してきたものであるが、現在の情報技術との乖離を招いているため消え去ろうとしている。このような概念枠組みや目録作成技術を吹っ飛ばして、IFLA LRMの概念モデルで目録を捉えればどうなるかを、図書館教育の観点から検討することも重要になると考える。
質疑の時間はほとんど取れなかったが、IFLA LRMの究極の簡略化モデルを許容するとして、実体1(res)と実体2(nomen)を例として示したが、まずはresのみのモデルを例として挙げるべきであるという意見が出された。
(記録文責:和中幹雄)