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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2020.01)

「戦前日本の目録を巡る学説史 
―明治・大正期を中心に―」

今野創祐氏(京都大学工学研究科吉田建築系図書室)


日時:
2020年1月11日(土)14:30〜17:00
会場:
京都大学附属図書館
発表者:
今野創祐氏(京都大学工学研究科吉田建築系図書室)
テーマ:
「戦前日本の目録を巡る学説史―明治・大正期を中心に―」
出席者:
石田康博(名古屋大学)、川崎秀子(京都女子大学)、田窪直規(近畿大学)、中道弘和(堺市立図書館)、藤倉恵一(文教大学)、和中幹雄、今野<7名>

1. はじめに

 発表者から,本日の発表は,自身の博士論文の完成に向けた中間発表であることが説明され,博士論文全体の構成の予定が示された。序論(研究の背景・意義),先行研究及び研究方法,明治期,大正期,昭和初期から終戦までの各時期の日本における目録を巡る学説史,考察,結論という構成となっている。研究の目的は,戦前日本において,目録を巡ってどのような議論が行われ,また,学説が示されていたかを整理し,分析し,考察することである。また,昭和初期以降に起きた,目録規則の翻訳を巡る議論を整理し,現在の目録規則翻訳を行う上でそれらの議論を参考にできるようにすることである。研究の背景としては,目録規則や目録の概念モデルを翻訳する際,その訳語については現在も議論が発生していること,現在も戦前に作成された冊子体目録およびカード目録によって資料を検索しなければならない場合があること,日本の図書館情報学の学説史に関する研究は十分ではなく,特に目録に関する学説史研究はほとんどなかったことが挙げられた。先行研究として,目録及び図書館史に関する研究の近年の傾向が示され,やはり目録の歴史に関する研究はほとんどないことが示された。研究手法は文献調査であり,天野敬太郎が1939年に作成した文献リスト「我ガ国ニ於ケル目録法ノ研究」を文献検索の基礎資料とする。研究の対象とする時代区分について,研究全体としては戦前を対象とすることの妥当性が説明され,さらに元号による時代区分を暫定的に行って研究を進めたものの,この細分化した時代区分については今後,見直す予定であることが説明された。

2. 明治期日本の目録を巡る学説史

 発表の詳細は,次の論文にまとめられている。今野創祐「明治期日本の目録を巡る学説史」『図書館界』71(1), 2019.5, p.2-15.
 ここでは,日本における目録を巡る議論の源流として,明治期,日本に,西洋の目録や目録規則,目録に関する学説が入ってきたことが示された。また,西村竹間,田中稲城,和田万吉,太田為三郎,その他の図書館関係者の目録に関する学説が示され,冊子体目録かカード目録かという目録の形態,分類目録か辞書体目録かという目録の形式が明治期の目録を巡る議論の中心的テーマであり,新しいツールであるカード目録,辞書体目録が比較的肯定的に捉えられていた傾向があることがわかった。

3. 大正期日本の目録を巡る学説史

 発表の詳細は,次の論文にまとめられている。今野創祐「戦前日本の目録を巡る学説史:大正期を中心に」『日本図書館情報学会誌』65(4), 2019.12, p.147-161.
 ここでは,人物ごとの学説をまとめる構成の論文とせず,天野による文献リストで示された分類項目に従って文献をまとめ,テーマごとに,(テーマ内では)時系列順で文献について論じた。目録法一般,形式ヨリ観タル目録,記載事項ト形式,索引,排列というテーマごとに文献を整理し,分析した結果,大正期も辞書体目録が肯定的に捉えられる一方,「分類目録か辞書体目録か」という対立の構図をとらず「著者目録,書名目録,件名目録に加えて分類目録をも組み込んだもの」として辞書体目録を捉える傾向となったことがわかった。また,カード目録を肯定的に捉える動きが引き続き見られ,主記入論争へとつながる動きとして,和漢書,洋書に対して異なる目録規則を統一するべきであるとする主張と,標目を著者で統一するべきであるとする主張が見られた。
 目録の目的として,基本的には利用者の利便性の向上を目指すものであることが明示されるようになり,その背景として,図書館,蔵書,利用者の数が明治期と比べて増加し,各図書館は明治期以上に,利用者を重視する姿勢を見せたことがある。また,目録に関する学説を発表した人物らも開放的で民衆的な図書館を提唱する運動を始めるなど図書館の運営について利用者本位の考え方を有するようになり,そうした考え方が,目録を巡る思想において,利用者を重視する姿勢につながったのではないかと考えられる。

4. 今後の研究計画

 博士論文全体として主要な分析のテーマを何にするかについて,今のところ,以下の論点について着目し,今後の研究を進めることを考えている旨,示された。

 以上の発表を受けて,戦前の人々は主記入と副出記入の関係についてどのように考えていたのか,当時の分類目録と件名目録の実態,英米の目録思想と実践の乖離,中国の伝統的な書誌学・目録学と西洋の目録思想との関連,戦前における「標準目録」という言葉には「推薦図書リスト」という意味もあったこと等に関する質疑があった。

(記録文責:今野創祐)