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図書館の中のアーカイブズの組織化を進めるために、図書館員が学ぶべきアーカイブズの目録についてその概念モデルからまずは学ぶ。そのため、ICA(国際文書館評議会)が策定する新たな概念モデルであるRiC(Records in Contexts)をいかに日本に導入するかを、典拠データに注目して考察する。具体的には、RiCと図書館界の概念モデルをマッピングし、日本版のアーカイブズ目録規則へと展開する方法について思考実験を行う。
なお、RiCはICAがこれまで策定してきた書誌情報と典拠レコードについての4つの国際標準を統合し、さらに実体関連分析を導入した概念モデルである。
この発表は、発表者が同志社大学に提出した修士論文「MLA融合型図書館におけるアーカイブズの典拠データ−RiCによる採録基準の策定−」を元に報告するものである。
発表者が勤務するエル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)はMLA融合型図書館であり、図書館(L)・博物館(M)・文書館(A)のすべての側面を併せ持つ。アーカイブズはフォンド編成という階層構造を持つ。以上を前提とした上で、研究動機は以下のとおりである。
研究の目的は、最新の国際概念モデルRiCに則った「アーカイブズの日本版典拠データ作成規則」を策定することである。
研究の手順は、以下のとおりである。
@:RiC(Records in Contexts)において目指されている典拠レコードの記述標準を図書館界の概念モデルとマッピングし、仮想規則を策定する
A:@の規則に則って典拠データの作成実験を行い、課題を剔出する
B:Aで判明した課題を解決するべく日本版のアーカイブズ典拠記述規則を提案する
アーカイブズという資料の特質を、その資料が生み出された背景・文脈の中でとらえるという考え方を基本とする概念モデルであり、RiCオントロジーとRiC概念モデルのセットから成る。ICA(国際文書館評議会)が策定している既存の4つの国際標準を統合し、実体関連分析を導入して抽象化したもので、アーカイブズ記述を構成する実体間の関連を説明することによって、資料と資料の関係、資料と作成者の関係を表現できるようにする。2021年中に正式公開される予定であり(最新版は予備版第2版)、全文は https://www.ica.org/sites/default/files/ric-cm-0.2_preview.pdf で閲覧可能である。 ICA(国際文書館評議会)が策定している既存の4つの国際標準とは、記録史料記述の国際標準、国際標準−団体、個人、家に関する記録史料オーソリティ・レコード、機能の記述に関する国際標準、アーカイブズ所蔵機関情報の記述に関する国際標準である。
RiCは概念モデルであって、レコード記述のための規則そのものではない。したがって、RiCだけを基にしてアーカイブズの目録を記述することはできないので、足りない部分は既存の規則や図書館界の規則を援用する。まずは典拠データを作成するための国際標準を策定する必要がある。それを「仮想ISAAR3」と命名する。ISAARとはアーカイブズの典拠データ作成のための国際標準であり、ISAAR(CPF) 第2版が現行の最新版である。その際、文書館と図書館、それぞれの目録に関する上位概念・原則、国際標準・概念、国内規則の概念を参照し、具現化することとする。
「仮想ISAAR3」を基に、国内規則として仮想ISAAR-JPを策定することを最終目標とする。概念間のマッピングを繰り返して策定した仮想ISAAR3を基に典拠データの作成実験を行い、その結果を分析評価してISAAR-JPを構想する手順をとる。マッピングの手順は以下の通りである。
@:RiCとIFLA LRMの項目の対応をマッピング
A:RiCとISAAR(CPF)2ndの移行項目をマッピング
B:ISAAR(CPF)2ndとFRADのマッピング
C:@〜Bの結果として仮想ISAAR3を作り、NCR2018を適用して仮想ISAAR-JPを策定する
仮想ISAAR-JPによって、藤永田造船所争議資料 (1921年)に対して典拠レコード作成実験をおこない、RiCに準拠した「藤永田造船所争議資料」の実体関連図を作成した。実験結果から、仮想ISAAR3の欠点や課題について抽出し、課題を解決して、ISAAR-JPを策定した。規則の細則部分はNCR2018を適用した。RiCが規定するAgent(行為主体)の属性の細則を策定した。これがISAAR-JPである。これにより、アーカイブズの典拠データについて、日本国内での記述基準が明確になった。以上が修士論文の内容である。
RiCを実装したシステムの作成方法として、AtoMを使ってアーカイブズ記述を行うという手法が考えられる。AtoM がRiCに対応するのを待って移行を行う。典拠データが多く作られすぎる問題を解決するための基準を作成する必要がある。RiCと図書管理システムとのデータをリンクさせる、またアーカイブズの書誌所蔵情報を図書管理システムに搭載する方法を考案する必要もある。フランス国立公文書館が実装実験を行った(参照URL:https://labarchiv.hypotheses.org/1495)。
以上の発表を受けて、RiCを用いる場合のメリットは何か、RiCを用いるのに向いている資料とIFLA LRMを用いるのに向いている資料があると思うがどのようにこの両者を分類するのか等の質疑があった。
(記録文責:今野創祐)