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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2022.02)

「TRC MARCにおける日本目録規則2018年版への対応」

横山英子氏(株式会社図書館流通センターデータ部)


日時:
2022年2月19日(土)14:30〜16:20
会場:
(Zoomミーティング)
発表者:
横山英子氏(株式会社図書館流通センターデータ部)
テーマ:
「TRC MARCにおける日本目録規則2018年版への対応」
出席者:
新出(富谷市図書館開館準備室)、荒木のりこ(大阪大学附属図書館)、石黒充((株)図書館流通センター電算室)、石澤文(国立国会図書館)、石田康博(名古屋大学法学部アジア法資料室)、石村早紀(株式会社樹村房)、井上昌彦(関西学院大学図書館)、今野創祐(京都大学)、浦部幹資、江上敏哲(国際日本文化研究センター)、岡田大輔(相愛大学)、岡田智佳子、小黒浩司(作新学院大学)、小野塚由希子(国立国会図書館)、加藤信哉(国際教養大学図書館)、蟹瀬智弘(藤女子大学)、川畑恵美(北見市立中央図書館)、川本真梨子(慶應義塾大学)、木下直(東京海洋大学)、木村麻衣子(日本女子大学)、栗生育美(吹田市立中央図書館)、小池信彦(調布市立図書館)、坂下直子(京都女子大学)、佐藤久美子(国立国会図書館)、塩見橘子、柴田正美(三重大学名誉教授)、島村聡明(京都府立図書館)、下山朋幸(国立精神・神経医療研究センター図書館)、須永和之(國學院大學)、高久雅生(筑波大学)、高野真理子(IAAL)、高橋安澄(株式会社図書館流通センター)、田窪直規(近畿大学)、谷合佳代子(エル・ライブラリ―)、谷口祥一(慶應義塾大学文学部)、戸枝良太(株式会社MOCHI)、鴇田拓哉(共立女子大学)、コ田恵里((株)紀伊國屋書店)、徳原靖浩(東京大学附属図書館U-PARL)、呑海沙織(筑波大学)、長瀬広和、中道弘和(堺市立図書館)、中村健(大阪市立大学)、野村知子(久留米大学非)、橋詰秋子(実践女子大学短期大学部)、長谷川和美(東京都立中央図書館)、原直実(慶應義塾大学メディアセンター本部)、Hideyuki Morimoto(Columbia University Libraries)、平井孝典(藤女子大学)、平川陽子(中村学園大学メディアセンター(図書館))、福田一史(大阪国際工科専門職大学)、松井純子(大阪芸術大学)、松川隆弘、松崎裕子(アーカイブズ工房)、松田泰代、松山巌(玉川大学)、萬谷ひとみ(新宿区立中央図書館)、光富健一(情報科学技術協会)、村上一恵(国立国会図書館)、村上幸二(神戸松蔭女子学院大学)、村上由美子、森原久美子(秀明大学図書館)、矢崎美香(九州女子大学)、谷嶋正彦、山岡直子(大阪府立中央図書館)、山本知子、横谷弘美、Yoko Rigby(大英図書館アジア・アフリカ・中東蒐集処理南班)、李東真、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄、他40名、横山<112名>

1.TRC MARCの概要

 株式会社図書館流通センター(TRC)は、社団法人日本図書館協会整理事業部が全国の図書館向けに行っていた「図書館資料の書誌作成」を継承するために1979年に生まれた企業である。1982年には、それまで作成していた目録カードに加えて、MARC(機械可読目録)の提供を開始し、それから40年にわたってMARCを作成し続けている。
 TRC MARC提供先は主に公共図書館だが、学校図書館、大学図書館、専門図書館にも提供実績があり、NACSIS-CAT(NII)には参照MARCとして週次で提供し、WorldCat(OCLC)にも週次で提供している。
 TRC MARCの基本データだが、基礎書誌レベルは物理単位であり、フォーマットは旧JAPAN/MARCフォーマットをベースに独自の項目を加えて拡張したものである。常にデータのメンテナンスを行い、最新の情報を更新データとして提供している。周辺ファイルを使ったより充実した検索が可能である。
 TRC MARCは77フィールド355サブフィールドを設定して作成し、さまざまな角度からの検索を可能にしており、典拠ファイル、内容細目ファイル、目次情報ファイルの周辺ファイルがある。典拠ファイルは、個人名、団体名、出版者、件名、学習件名、全集、シリーズの典拠ファイルで構成されているが、新たに著作典拠ファイルが加わった。

2.NCR2018への対応

 2015年のFRBR/RDAの社内勉強会開始から約7年をかけて、2022年1月、NCR2018対応TRC MARC/Tタイプの提供が開始された。NCR2018適用に向けた改定方針は以下の通りである。まず、現行のMARCフォーマットと典拠ファイルを中心とする周辺ファイルという構造は維持した。次に、提供済みのMARCとの継続性・整合性に配慮すべきとの考えから、提供している項目は原則として提供を継続した。今回の改定で提供終了となる項目はない。提供開始時期は2022年1月からだが、2021年以前に作成したMARCに対しても、可能な範囲でNCR2018対応項目を追加した。以下、その詳細な対応の在り方について紹介する。

2-1. 表現種別・機器種別・キャリア種別の提供開始

 NCR2018:#5.1 #2.15 #2.16に基づき、「表現種別」「機器種別」「キャリア種別」および「付属資料のキャリア種別」の項目を新設し、コード化情報として提供を開始した。NCR1987で規定されていた「資料種別」と重複する内容があるが、多くの図書館システムで「資料種別」が使われている現状を考慮し、「資料種別」もこれまで通り提供を継続する。

2-2. 著作の典拠コントロールの開始

 NCR2018:#4に基づき、新しい典拠ファイルとして「著作典拠ファイル」の提供を開始した。原則として、単行単位で2以上のMARCが存在するものを対象に著作典拠ファイルを作成する。古典作品に限らず、現代の作品に対しても適用する。和書・洋書・電子コンテンツ(和書・洋書)のMARCで開始したが、視聴覚資料には未対応である。MARCのタイトル・巻タイトルに出現した作品を対象とし、内容細目レベルには未対応である。MARCに「著作アクセス・ポイント(以下、著作AP)」の項目を新設し、「著作典拠ファイル」とリンクすることで同一著作のMARCをまとめる。
 単行本に対しての文庫や大活字本、原書に対しての翻訳本、改訂版や新装版などが同一著作としてまとまる。一方で、ノベライズやコミカライズなど他の形式への改作や、パロディ等の大幅な改作は同一著作とはしない。児童向け翻案を同一著作とするか否かは意見の割れるところであったが、結論としては同一著作としてまとめることとなった。
 著作典拠ファイルの基本構造について述べる。著作の識別子として、15桁の著作典拠IDを設定した。優先タイトルの著作典拠IDは、末尾が0000となる。優先タイトルは、翻訳書であっても日本語形を採用するが、同時に原語のタイトルも記録し、MARCの著作APにも展開する。著作の形式は、「絵本・紙芝居」と「漫画」は必須で記録し、あとの形式は同一タイトルの著作と識別が必要な時に記録する。著作と個人・団体の関連として、創作者IDという項目を設定した。著作典拠コントロールの対象を図書資料に限ったため、ほとんどの創作者は著者であることから関連指示子は記録しない。別タイトルの同じ著作があるときには、異形タイトルの著作典拠ファイルを作成する。異形タイトルの著作典拠IDは、先頭11桁が優先タイトルの著作典拠IDと共通となり、末尾が4から始まる4桁となる。
 MARCと著作典拠ファイルのリンクについて述べる。タイトルに複数の作品が出現する合集には、複数の著作がリンクする。絵本のMARCには絵本としての著作がリンクする。童話作品などが絵本化されたものの場合には、童話のテキストとしての著作と、絵本としての著作の2つがリンクすることになる。
 著作の関連について述べる。著作どうしに関連がある場合、関連著作IDと関連指示子の2つの項目を著作典拠ファイルに記録した。TRC MARCでは、次の3種類の著作の関連を設定した。
@全体と部分の関連
A原作と派生の関連
B先行と後続の関連
関連指示子はコード化情報として設定し、著作の関連は、関連があるだけ複数記録する。
 @全体と部分の関連について述べる。ある著作が別の著作の部分を構成する場合、全体の著作には部分の著作の典拠IDと関連指示子「部分」を、部分の著作には全体の著作の典拠IDと関連指示子「全体」を記録する。MARCには、原則として全体の著作と部分の著作の2つの著作APを記録する。
 A原作と派生の関連について述べる。ある著作が別の著作から派生した作品である場合、原作の著作には派生の著作の典拠IDと関連指示子「派生」を、派生の著作には原作の著作の典拠IDと関連指示子「原作」を記録する。MARCには、基本的には原作/派生いずれかの著作APを記録する。原作がある絵本については、原作(文の著作)と派生(絵の著作)の2つの著作APを記録する。
 B先行と後続の関連について述べる。ある著作が別の著作の続きものである場合、先行の著作には後続する著作の典拠IDと関連指示子「後続」を、後続の著作には先行する著作の典拠IDと関連指示子「先行」を記録する。MARCには、該当する著作の著作APのみを記録する。

2-3. 体現形間の関連の記録の拡充

 NCR2018:#43.3に基づく。紙の本を底本とする電子コンテンツ(ここでいう電子コンテンツとは、TRCが提供する電子図書館用のコンテンツ)が存在する場合(またはその逆)に、紙の本のMARCと電子コンテンツのMARCに体現形間の関連を記録する。紙の本のMARCには「関連 TRC 電子 MARC No.」を、電子コンテンツのMARCには「関連 TRC 図書 MARC No.」を相互に記録する。紙:電子が1:1のときは体現形間の関連のみを記録するが、ほかにも同一著作である体現形が存在する場合には、体現形間の関連を記録するとともに著作の典拠コントロールも行なう。

2-4. 個人・団体の関連の記録の拡充

 NCR2018:#46.1、#46.3に基づく。これまで提供していた「個人名典拠ファイル同士」「団体名典拠ファイル同士」の関連に加え、個人−団体、団体−個人の関連の記録を開始する。個人名典拠ファイルには「関連団体名ID」を、団体名典拠ファイルには「関連個人名ID」を相互に記録する。個人−団体、団体−個人の関連としては、「団体とその創設者」「創作グループとそれに所属する個人」の関連を記録する。

2-5. 情報源について

 情報源の優先順は、これまで、標題紙(標題紙裏を含む),奥付,背(カヴァー背),表紙(カヴァー表紙)→図書本体の左記以外の部分→箱等→その図書以外の情報源の順であったが、タイトル・ページ,奥付,背(カヴァー背),表紙(カヴァー表紙)→図書本体の左記以外の部分→箱等→その図書以外の情報源となった。実質的な変更はない。
 情報源によってタイトルの表示が異なる場合、これまで、共通する情報源が多い表示を採用し、同数の場合は情報源の優先順に従って採用したが、変更後は、原則として、タイトル・ページがある場合はその表示を優先的に採用する。ただし、タイトル・ページの情報が不十分な場合は他の情報源の表示を選定する。出版者の情報源は変更がなく、和書では奥付を第一優先とする(他のエレメントの情報源としてはタイトル・ページを第一優先とするが、日本の出版物の出版事項に関しては奥付の表示が適切だと考えられるため)。

2-6. タイトルの記録方法の変更

 NCR2018:#2.1.1.2.3に基づく。タイトルに付された特殊なルビの扱いについて、これまで、ルビが付されている語の直後に、ルビを( )に入れた形で本タイトル(漢字形)を記録し、本タイトル(カタカナ形)はルビの読みと本来の読みの2種類を記録していた。変更後は、本タイトル(漢字形)にルビは含めない。本タイトル(カタカナ形)はルビの読みと本来の読みの2種類を記録するのはこれまでと同様である。
 NCR2018:#2.1.1.2.6に基づく。和書としてMARCを作成する、本文が外国語の図書のタイトルの記録については(本文が外国語であっても、日本の出版者が出版したものは和書として TRC MARCを作成)、これまで、日本語のタイトルが1ヶ所でも表示されていれば日本語のタイトルを採用し、採用しなかった他の言語のタイトルは並列タイトルとして記録していた。変更後は、タイトルは本文の言語に対応したものを採用する。

2-7. その他の対応

 表現形について、著作のように典拠ファイル等で管理するなど、独立して扱うことはしない。表現形のエレメントはMARCの中に含まれている。
 家族について、個人名典拠ファイル、団体名典拠ファイルと並ぶ「家族名典拠ファイル」は新設しない。すでに件名典拠ファイルとして氏族名が存在する。家族名は著者としてではなく、図書の主題として出現することが多いと考えられるため、その運用は変更しない。
 責任表示の採用については変更しない。2005年からNCR1987の別法を採用し、3以上のとき1人[ほか]で省略するルールは非適用としているが、NCR2018適用後も原則全員採用とし、同一役割に対して30人まで記録している。

3.対応検討過程での課題など

 表現種別の「G1;静止画」をなにに付与するかが意外に難航した。結局、原則として、絵本/紙芝居/漫画/画集/写真集/美術図集/建築図集/展覧会カタログ/図鑑/ぬりえ/迷路/カルタ/ポストカード/シール帳に付与する適用となった。
 表現種別の「C1;地図」 「D1;楽譜」は単独で付与すべきか迷った。たいていテキスト(文章)があるからである。地図や楽譜がテキスト(文章)とともにあるものは「A1;テキスト」と共に付与することになった。
 著作の全体と部分については、古典作品(近世以前の作品)については、作品の一部分(章のタイトルなど)がMARCのタイトルとして出現していても、作品の全体を著作とすることとなった。近現代の作品については、作品の一部分が2以上のMARCのタイトルとして出現していれば、そのレベルも著作として扱うこととし、作品の全体の著作と一部分の著作は、全体と部分の関連著作とすることとなった。
 著作の集合をどう扱うかが課題となった。歌集・句集・詩集などは世に知られた作品名・その単位を著作として扱うこととなった(厳密には和歌一首、俳句一句、詩一編が著作だがその単位では著作典拠ファイルは作成しない)。ただし、著作として扱ったものがさらに集められたものは著作として扱わない。内容レベルは著作の対象外とするが、MARCの本タイトル/巻タイトルとして出現した表題作は著作として扱う。
 すでにある全集典拠ファイルと著作典拠ファイルをどう考えるかも課題となった。TRC MARCは物理単位で作成しているが、単行単位にまとめるための全集典拠ファイルのしくみがある。複数巻単行資料のものは、2以上の全集典拠ファイルがある場合に著作典拠ファイルを作成することとなった。

 以上の発表を受けて、逐次刊行物については変更はあるか、冊子体と電子の対応において、冊子体が全3巻だが電子体は1つのファイルの場合どうするのか、NCR2018への対応についてユーザである公共図書館にはどのように周知しているか、過去のデータに対してどのように遡及の対応をしているのか等の質疑があった。

 なお、今回の月例研究会については、Zoomの映像を録画し、開催後一週間に限り、出席を申し込んだものの欠席された方にも、映像を配信した。

(記録文責:今野創祐)