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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2023.6)

「ゲームアーカイブとゲームメディア―小学館の学年誌に書かれたビデオゲーム」

毛利 仁美氏(立命館大学衣笠総合研究機構客員協力研究員)


日時:
2023年6月17日(土)14:30〜16:00
会場:
(Zoomミーティング)
発表者:
毛利 仁美氏(立命館大学衣笠総合研究機構客員協力研究員)
テーマ:
ゲームアーカイブとゲームメディア―小学館の学年誌に書かれたビデオゲーム
出席者:荒木のりこ(大阪大学附属図書館)、今野創祐(東京学芸大学)、大野理恵(筑波大学生命環境系技術室)、塩見橘子、柴田正美(三重大学名誉教授)、田窪直規(近畿大学)、中道弘和(堺市立図書館)、野村知子、福永智子(椙山女学園大学)、福田一史(大阪国際工科専門職大学)、森原久美子(秀明大学図書館)、和中幹雄、他1名、毛利<14名>

1. はじめに

1.1  ビデオゲームアーカイブの進展

ビデオゲームアーカイブの取り組みは1990年に始まり、世界的にも2010年代にその議論が活性化したが、視聴覚アーカイブのように研究が体系化されているわけではない。ビデオゲームアーカイブの「収集・保存」対象は拡大している。

1.2 ビデオゲームの出版物に関する先行研究

大きく分けて、ビデオゲーム文化史の研究と出版物の紙面構成の研究がある。

1.3 研究背景

ビデオゲーム関連資料としての様々な雑誌や書籍を、本研究では「ビデオゲーム専門メディア」と「非ビデオゲーム専門メディア」に分ける。

1.4 研究目的と方法

膨大な非ビデオゲーム専門メディアは未整理のままであるという課題がある。そこで本研究では、非ビデオゲーム専門メディアの中でも、小学館の学年別学習雑誌(以降、学年誌)に掲載されたビデオゲームの記事をビデオゲーム関連資料として捉え、その資料的価値や、ゲーム研究への学術的活用の可能性を明らかにする。より具体的には、

  1. ビデオゲームに関する記事の収集と内容の精査を経て、記事データベースを構築し、定量的な分析を行う。
  2. 既存のビデオゲーム史の先行研究と照らし合わせつつ、黎明期(1970年代〜1980年代)のビデオゲームの普及に関して学年誌が有する記事内容分析を行う。

1.5 学年誌の概要

小学館より1922年〜1925年にかけて全学年分が創刊された、男女向けの月刊誌である。先行研究によると、『小学一年生』は、1972年〜1974年には2人に1人以上が雑誌を購入しており、1980年前後においても40%前後の浸透率を維持している。学年誌の先行研究は存在するが、誌面の分析は1950年代までのごく一部にとどまっている。また、娯楽記事自体の研究も見つかっていない。

2.学年誌のビデオゲーム記事データベース構築

2.1 記事データベースの構築

以下の3段階に分けて構築した


学年誌の分析対象は、1975〜1987年に出版された『一年生』〜『六年生』の各156冊ずつ(1975年4月号〜1987年3月号)、合計936冊と、その付録冊子である。アーケードビデオゲーム、電子ゲーム、パソコンゲーム、テレビゲームといったゲーム機ごとに分類した。

2.2  (3)【記事内容分類】の作成

大きく、「遊び」「教育」「PR」に3分類し、さらにそれぞれの分類内で小分類を作成した。

2.2.1 記事内容分類:遊び

1.攻略:ゲームの進め方やより上手く遊ぶためのテクニックなどを記した記事。
2.攻略マンガ:ゲームの攻略をマンガの形式で紹介する記事。
3.カタログ:ビデオゲームとその再生機器の一覧を、カタログ式に列挙して紹介する記事。
4.態度:ゲームを遊ぶ空間や環境、ビデオゲームに対する評価といった、ビデオゲームへの接し方を説明する記事。

2.2.2 記事内容分類:教育

5. 仕組みと構造:ハードウェアやソフトウェアが動作する仕組みの解説で、パソコンやビデオゲーム機のスペックの説明などについての記事。
6. 教科学習:国語算数理科社会英語などの教科学習や、知能教育に役立つビデオゲーム、周辺機器についての記事。
7.制作(自主):自分でゲームを制作することに関する説明で、主にパソコンでのゲームプログラミングのソースコードや、そのプログラミングの実践方法の説明などの記事。
8.制作(企業):ゲームクリエイターという職業や企業でのビデオゲームの制作過程といった、ゲーム企業に関する説明の記事。
9.注意点:ゲームをプレイするときに気をつけるべき注意や、ゲーム機を取り扱う上での注意についての記事。

2.2.3 記事内容分類:PR

10.チラシ:ゲームソフトやゲームハードの販売促進を目的とした記事のうち、チラシ形式のもの。
11.イベント情報:「TDK全国キャラバンファミコン大会」などの特定の場所で行われるイベントや、読者参加型のキャンペーンといった、宣伝の記事。

3.学年誌におけるビデオゲームの記事の分析

3.1 記事ページ数の分析

1985年11月〜1987年8月の期間の『一年生』〜『四年生』は、総ページ数に対して10%以上をビデオゲームの記事が占めており、学年誌は多量のビデオゲームの情報を有している。また、1981年9月以降はビデオゲームの記事が毎月掲載されており、ビデオゲーム記事掲載の継続性は高い。

3.2 学年誌のゲーム記事の外観(学年別)

 学年誌におけるビデオゲームの記事は、以下の3期に分けることができる。

  1. 電子ゲーム期(〜1983年前半)
  2. パソコンゲーム期(1983年後半〜1984年)
  3. パソコンゲームとテレビゲーム混在期(1985年〜1987年)

4. ファミコンブーム以前のビデオゲームの記事

4.1学年誌における最初期のビデオゲームの記事

1976/9、エポック社の『テレビテニス』が他の同社のアナログゲームと共に掲載されているチラシが掲載された。しかし、1978年は『スペースインベーダー』(1978, タイトー)ブームの最中であり、青年の非行化に結びつけたビデオゲームに対する否定的な意見が広まっていたため、ビデオゲーム全般の記事が掲載されにくかったと発表者は考えている。

4.2 電子ゲームと「教育」

電子ゲームについて、最も早期に見られたのは、『一年生』〜『三年生』に掲載された算数学習用の電子ゲームの「チラシ」であった。その後、エポック社の工場における電子ゲーム制作の記事が掲載された。電子ゲームはLSI(大規模集積回路)を使用した新しい玩具ということが強調されていた。

4.3 電子ゲームと「遊び」

1979年には、『スペースインベーダー」を模した電子ゲームを紹介する記事が掲載された。『小学三年生』1979年12月号には、学年誌における初めてのビデオゲーム攻略記事が掲載された。

4.4 電子ゲームと「PR」

全学年、全期間の合計で、電子ゲームについては39回、テレビゲームについては88回、各企業のチラシが掲載されている。その中では、エポック社のチラシが最も多かった。

5. 考察

5.1 考察:記事の掲載時期

非ビデオゲーム専門メディアであるものの、学年誌は長期に渡り、多量のビデオゲームの記事を有していた。

5.2 考察:電子ゲーム

先行研究によると、日本での電子ゲームの大ブームは1979年〜1982年頃にかけてであった。「教育」の記事では、ビデオゲームの否定的なイメージの払拭が行われ、「遊び」の記事は『スペースインベーダー』とファミコンのブームの繋ぎ役の役割を電子ゲームが果たした。「PR」「教育」の記事においては、エポック社の広報戦略が目立つ。

結論として、日本でのゲーム文化の展開において、子どもというプレイヤーを視点としたビデオゲーム史という観点では、電子ゲームは黎明期のビデオゲームの普及を考える上で重要な研究対象になり得ることが、学年誌という非ビデオゲーム専門メディアを対象としたことにより示唆された。

6. おわりに

6.1 今後の課題

 記事内容分類を用いた学年誌以外の子ども向け雑誌の分析や、本研究で対象とした以外の時期のビデオゲームの出版物の調査が、今後の研究の方向性として考えられる。本研究により、ビデオゲームアーカイブの重要な課題が以下のとおり見えてきた。

7. これからの研究 ビデオゲーム資料の利活用調査

RCGS(立命館大学ゲーム研究センター)では、データベースを作成したり、多くの資料を所蔵したり、展示を企画したりしている。そのような中で、現在、ビデオゲーム資料の利活用調査が企画されている。研究背景として、1990年代後半よりメディア芸術のアーカイブの議論が活発化してきたことや、マンガ分野では1990年代に博物館の設立が始まり2000年代には国内各地で急増し始めたこと、ビデオゲームの図書館での利用が進んだことが挙げられる。ビデオゲーム分野においても、ビデオゲーム資料の利活用の方向性を検討していくことが課題の一つと言える。

本研究の目的はアーカイブとしてのビデオゲーム資料における教育利用の方向性と課題を、利用者の来館動機や利用物品、利用行動より明らかにすることである。どういった資料にニーズが高いのか、どのような利用希望があるのかという基礎的な課題を明らかにすることより始めたい。

研究方法としては、質問紙調査、検索ログ解析、レファレンス記録の分析を用い、対象としては立命館大学の大学生・大学院生・教員を考えている。RCGSの公開日を年6回設定し、第一回目を6月27日(火)に実施予定である。

本研究における主な問いは以下の通りである。

以下の仮説を考えている。

以上の発表を受けて、以下の質疑があった。

なお、今回の月例研究会については、Zoomの映像を録画し、開催後一週間に限り、出席を申し込んだものの欠席された方にも、映像を配信した。

(記録文責:今野創祐)