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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2023.10)

「国内外の図書館情報学分野の書誌500点を確認して「書誌の書誌」を作ってみた」

伊藤 民雄氏(実践女子大学図書館)


日時:
2023年10月28日(土)14:30〜16:00
会場:
(Zoomミーティング)
発表者:
伊藤 民雄氏(実践女子大学図書館)
テーマ:
国内外の図書館情報学分野の書誌500点を確認して「書誌の書誌」を作ってみた
荒木のりこ(大阪大学附属図書館)、安東正玄(立命館大学)、石橋進一(同志社女子大学嘱託講師)、伊藤真理(愛知淑徳大学)、今野創祐(東京学芸大学)、加藤信哉(NPO法人知的資源イニシアティブ)、川口祐子(株式会社マイトベーシックサービス)、工藤彩(久留米大学御井図書館)、柴田正美(三重大学名誉教授)、下山朋幸(国立精神・神経医療研究センター図書館)、高久雅生(筑波大学)、田口靖子(大学図書館)、長瀬広和、中道弘和(堺市立図書館)、中村健(大阪公立大学)、西田紀子、福永智子(椙山女学園大学)、藤倉恵一(文教大学越谷図書館)、前川敦子(大阪大学外国学図書館)、森原(秀明大学図書館)、和中幹雄、他14名、伊藤<36名>

1. 自己紹介

発表者から自身の経歴と研究テーマに関する自己紹介があった。図書館情報学文献目録の拡充をおこなっており、古い資料の掘り起こしにつとめている。今回の発表は2年前(2021年10月23日)の続編的な位置づけにあたる。

2.『探すツール』とは?

図書館情報学分野(出版学等の周辺領域含む)に特化した「書誌の書誌」である。こうしたものはありそうでなく、冊子体としては、『図書館学・情報科学文献の検索および特殊資料の利用』(国立国会図書館総務部企画教養課, 1983)以来、40年振りの出版である。

日本以外に、中国、台湾、韓国、インド、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、ロシア、スペイン語圏は詳述したが、全領域を扱う総合的な書誌類を対象とした。レファレンスや分類などに特化したような主題書誌まで網羅した「書誌の書誌」ではない。

本書では、収録書誌は「図書」と「雑誌記事」の書誌で分けている。例外として、日本の学校図書館、児童図書館、読書学の書誌類については、1節を設けて詳述した。冊子で取り上げた書誌類の合計523である。整理番号あり(短評あり)は388書誌、文章中で言及した書誌+データベースは135書誌等となる。

3.作成の経緯と目的・目標

2019年まで、発表者自身、図書館情報学の書誌に関する知識は乏しいものであった。

2020年1月、『図書館情報学文献目録データベース』BIBLIS PLUSの構築時に、データ拡充・強化のために知人からの助言として『図書館学文献目録』1971を推薦されたことが契機となった。

CiNiiや国会デジタルを利用し、明治期から現在までの図書館情報学LISの索引、書誌、文献目録、単独の雑誌総目次を多数調査した。雑誌の総目次・総索引は、古書店の在庫を全点買いした。2020年後半に、一部の書誌に関係性や継続性が見られ、面白いと感じ、電子パスファインダーLibGuidesで書誌を並べてみた。2020年に、電子パスファインダーを作成し、日本以外の各国別も作成した。

2021年夏頃に、K.G. SaurのInternational Bibliography of Bibliographies in Library and Information ScienceとLibraries Unlimitedの「Reference sources in the humanities series」のような書誌の出版刊行を意識した。その時点では社会人大学院に進学した図書館員のための文献案内を企図し、日本以外、どの国の図書館情報学を対象でも研究を始められるように、中国、台湾、韓国、インド、米英、ドイツ、フランス、ロシアの書誌を扱うこととした。加えて先人達の貴重な遺産の継承と活用も考えた

2021年10月23日、情報組織化研究グループ例会で、研究助成により本を執筆すると明言した。2021年11月から2月にかけて、掲載候補書誌のリスト化を進め、LIS200種、出版60、データベース40をリストアップした。2021年11月、中国、台湾、韓国の書誌の購入を開始した。

2021年11月に日本図書館協会へ出版を打診し、2022年1月23日、『図書館情報学・出版学書誌の書誌』(仮題)で出版企画書およびリストを日本図書館協会に提出し、続けて1月31日、サンプル原稿を協会に追加提出し、同年2月15日、日本図書館協会・出版委員会から出版了承との回答があった。

4. 頭を悩ました書誌現物確認と収集

掲載書誌の選定とリストアップには、様々な先行研究や書誌を参考にした。

中国やロシアのように、現地の文献ガイドを入手して、選定の参考にした。困ったのはフランスで、「フランスの図書館情報学文献の探し方」みたいな本、論文、サイトも見つからずInternational Bibliography of Bibliographies in Library and Information Scienceを見ても、これと言ったものが少ししか見つからず、戦前の文献については協会誌、戦後の文献についてはデータベースのPASCAL T205を本書に記載したが未だに現地の方がどのように文献を探しているのか全く見当がつかなかった。

書誌の現物確認を行って執筆するとしたが、日本の書誌は、所属している大学の図書館(2館)、近隣の都立多摩図書館、日野市立や府中市立図書館で何とかなった。欧米の書誌は、所属している大学の図書館(2館)では1割程度所蔵で、残りはどうするか、という問題が発生した。Internet Archive、Google Books、HathiTrustに7〜8割程度、電子化・掲載されているのが分かった。こうしたものがなければ10年前だとこの図書は書けなかったかもしれない。日本の所蔵は、筑波大学(春日)と京都大学の図書館に集中しており、筑波大学は、卒業生登録して利用した。京都大学には、2022年9月に訪問調査を行った。

日本に所蔵がないアジア諸国、ロシアの書誌は、購入代行業者を利用し、現物入手に努めた。

書誌の現物入手について、インドの書店の対応には問題が生じた。代金を支払ったのに届かなかった書誌2点が生じた。運営元には既に100回以上の苦情申し入れを行ったが最終的には無視された状態が続いている。

5. 書誌項目と執筆

2022年1月 日本図書館協会に提出したサンプル原稿の時点では、書誌(出版情報)と解題(解説)のみで、10項目はなかった。2022年6月の本格的執筆開始時に、天野敬太郎の「図書館学書誌の書誌」(『図書館界』20(6) 1969)の10項目にほぼ合わせた。外国語書誌の場合、汎用翻訳支援ツールを利用して、序文、凡例、本文、後書きを翻訳した。PC画面上の言語を読み取って、テキスト化し、AI翻訳を利用して自動翻訳表示をしてくれるシステムである。

作業の基本としては、図書館で各書誌の序文、凡例、本文、後書きをコピーし、外国語書誌については、それらを翻訳する。翻訳から10項目に相当する箇所を探し抜き出すという執筆の流れとなった。

(項目は、1.領域, 2.言語, 3.種別, 4.期間, 5.配列, 6.点数, 7.解題, 8.索引, 9.所蔵情報, 10.短評)

翻訳で困った用語に以下の3つがある。
 Librarianship  Library economy  Library science

図書館学と訳したものもあったが、Librarianshipは、図書館学、図書館職、等の訳し分けが必要だった。例えば、図書館職(Librarianship)と()を補記した。Documentation については情報学(information science)以前の概念としたが、それで良かったのか分からない。翻訳ではないが、「書誌学」と「国文学」、「書誌学」と「書物学」の概念整理も困難であった。

6. 書誌間の関係性・継続性

同一出版社による正統的な続編、あるいは出版社・編者は異なるが、序文にて続編を明示するものをどう整理するかが課題となった。例として、「読書学」、中国の図書館文献目録を挙げた

7. 第2部「出版学、書誌学、書物学、ジャーナリズム、マスメディア、マスコミ」の問題点 

世界的に「出版学」(publishing studies)が確立されているわけではないため、書誌の選択が困難だった。箕輪茂男『出版学序説』日本エディタースクール出版部, 1997, 232 pの考え方を参考にした。箕輪の整理によると、出版学の関連する学問は以下の通りである。

上記に加えて、デジタルアーカイブ、デジタルコンテンツやオープンアクセス、漫画等も加えた。読書学は、学校図書館/児童図書館の項目へ移した。

箕輪によれば、出版を研究する学会が存在するのは、日本、中国、韓国の3ヶ国のみだが、これらの国々にはしっかり書誌がある。欧米は未分化のため、複数の書誌を利用し選択し、以下の構成で分類配置した。

 第1節 印刷、製本、出版
 第2節 電子出版、デジタルコンテンツ
 第3節 書誌学
 第4節 書誌学関係雑誌記事索引
 第5節 書誌学者
 第6節 書物学:書物と書物史
 第7節 ジャーナリズム
 第8節 マスメディア、マスコミ
 第9節 その他の書誌

原稿完成後(2023年1月2日)に、再調査により10程度の書誌を増やしたので、このカテゴリに再配置した。最善ではないかもしれない。

8.なかなか決まらなかった書名

当初想定書名は『図書館情報学書誌の書誌』としたが、日本図書館協会から、一般受けする書名を求められた。紆余曲折の結果、最終的にこの書名となった。

9. 出版後 出版流通と所蔵

日本図書館協会から6月末に出版予告が出た。2023/6/30に楽天、honto、紀伊國屋で登録され、2023/7/7にAmazonで登録された。TRC『週刊新刊全点案内』No. 2316 (7/18)に掲載され、お薦め度は「2つ星」となった。『丸善新刊案内』8月第3週 (7/21)と丸善ナレッジワーカーに同日登録され、お薦め度は「3つ星」となった。

図書館所蔵はどうなったかをカーリルで調査した。参考図書ではなく、貸出可の一般書登録が多かった。8/29時点では317館(内大学33館)の所蔵であったが、9/28時点では499館(内大学98館)の所蔵となった。

日本図書館協会から初刷の在庫が100部を切る連絡があった。

10.今後の展開

三田図書館・情報学会(11/11)にて発表、日本出版学会秋季研究発表会ワークショップ (12/2)で司会を行う予定である。

以上の発表を受けて、以下の質疑があった。
・作り終えてみて、新たな発見があったか。

なお、今回の月例研究会については、Zoomの映像を録画し、開催後一週間に限り、出席を申し込んだものの欠席された方にも、映像を配信した。

(記録文責:今野創祐)

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追記
 当日・録画の聴講者から寄せられた情報及び追加情報です。

(1)ドイツの図書館情報学文献の発見について
Bibliographienkunde : ein Lehrbuch mit Beschreibungen von mehr als 200
Druckschriftenverzeichnissen
und allgemeiner Nachschlagewerken / Helmut Allischewski. Wiesbaden :
Reichert, 1976.
NCID:BA02975435
 上記は、ドイツの参考図書ガイド。 本書『探すツール』と類似の図書館学文献探索チャートが付与されているとのこと
 せっかくなので、日本の図書館未所蔵の第2版(1986)を入手してみることにします。

Bibliographienkunde: Ein Lehrbuch Mit Beschreibungen Von Mehr Als 300
Druckschriftenverzeichnissen
Und Allgemeinen Nachschlagewerken, Reichert Verlag; 2nd Revised and
Expanded, 1986, 400 p.

(2) フランス図書館情報学文献について
 各方面からあるのではないか、という話があり、もう一度しっかり探してみたところ、フランスの図書館・情報学関係の雑誌記事索引である「Bulletin bibliographique INTD」(1976年創刊)が1985年から検索可能となっていました。
 https://portaildoc-intd.cnam.fr/Main.htm

情報をお寄せください。
宛先:実践女子大学図書館:伊藤宛 (ito-tamio[at]jissen.ac.jp)