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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2024.4)

「夢見る「書誌コントロール」」

中井 万知子氏(元国立国会図書館、日本図書館協会分類委員長)


日時:
2023年4月20日(土)14:30〜16:00
会場:
(Zoomミーティング)
発表者:
中井 万知子氏(元国立国会図書館、日本図書館協会分類委員長)
テーマ:
夢見る「書誌コントロール」
石橋進一、今野創祐(東京学芸大学)、江上敏哲(国際日本文化研究センター)、加藤信哉(NPO法人知的資源イニシアティブ(IRI))、川口祐子(株式会社マイトベーシックサービス図書館部)、木村麻衣子(日本女子大学)、小林康隆、佐藤久美子(国立国会図書館)、柴田正美(三重大学名誉教授)、下山 朋幸(国立精神・神経医療センター図書館)、白川満純(帝塚山大学)、鈴木正紀(紀伊國屋書店)、高畑悦子、高柳紅仁子(株式会社トッカータ図書館情報部)、田島克実(株式会社トッカータ)、田窪直規(近畿大学)、徳原靖浩(公益財団法人国際文化会館)、長瀬広和、林賢紀(国際農林水産業研究センター)、藤倉恵一(文教大学越谷図書館)、松岡美佳、村上一恵(国立国会図書館)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄、他18名、中井<43名>

1.はじめに: なぜ“夢見る「書誌コントロール」”か

発表者は著書『夢見る「電子図書館」』(郵研社2023.9)を刊行した。その出版の経緯について説明があった。また、当月例研究会は、注釈抜きで「書誌コントロール(書誌調整)」を語れる場ではないかという思いもあり、この度の発表依頼を受けた旨、説明があった。書誌コントロール(書誌調整)の一応の定義として、『図書館情報学用語辞典』(第5版 丸善出版,2020)における以下の定義が紹介された。

「資料を識別同定し,記録して,利用可能な状態を作り出すための手法の総称.書誌調整ともいう.(中略)
 各館における資料組織化処理から始まって,国家や国際的な規模で標準的な書誌的記録を作成し,共同利用するための仕組みに至るまでの全体を書誌コントロールという.(後略)」

2.「書誌コントロール(書誌調整)」との出会い

2.1 第2次世界大戦後の米国議会図書館(LC)とユネスコ

藤野幸雄『アメリカ議会図書館:世界最大の情報センター』(中公新書,1978)などの記述を参考に、大戦中のLC館長マクリーシュとユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の設立の経緯について語られた。「ユネスコ憲章」第1条に掲げられた任務の一つ、各国の刊行物に関する国際的な情報交換が、その後の書誌に関する活動につながった。用語“Bibliographical control”の発案者でもあるLC館長エヴァンズらによる「ユネスコ/議会図書館文献書目計画班」が編成され、1950年の書誌サービス改良会議の討議原案となる『書誌サーヴィス:その現状と可能性』が作成された。その過程における “Bibliographic(al) control”という用語の扱い、並びに “Bibliographic control”に置き換わる概念としてシエラらによって示された“Bibliographic organization”について、根本彰『文献世界の構造』(勁草書房,1998)を参考に紹介された。次いで1950年に開催された書誌サービス改良会議の決議の内容とその後の状況が述べられた。

2.2 国立国会図書館(NDL)

第二次世界大戦後のNDLの設立(1948年)と、LC・ユネスコ等との書誌コントロールに関連した歴史的な動きの概略が説明された。

「NDLデジタルコレクション」所収の書誌サービス改良会議関係資料の一覧が示され、LCが作成した資料がユネスコからNDLにも送付されたこと、NDLによって翻訳が行われ、国内の図書館等に送付されたことなどの経緯が述べられた。日本からは『日本における全国的書誌調整の改良とその国際的書誌調整との関連』と題する意見書をユネスコに提出しており、NDLがここで「書誌調整」(という用語)に「出会った」との発表者の見解が示された。NDLは職員を1950年の会議に派遣し、1951年には館長の諮問委員会として「書誌サーヴィス改良委員会」を設置したが活動自体は短期間に終わった。

3.MARCからメタデータへ

3.1 NDLの書誌情報提供に見るいくつかの時代的局面

草創期(機械化以前、1950〜70年代)、MARC(Machine Readable Catalog=機械可読目録)の時代(1970〜80年代)、オンライン目録の時代(1990年代後半〜2000年代)と、時代ごとに区分してその書誌関連業務およびサービスの変遷の概略が述べられた。MARCの開発期においてIFLAによるUBC(国際書誌コントロール)が提唱され、日本においてもJAPAN/MARC開発という画期を迎え、1990年代以降はOPACの公開によって蔵書へのアクセス手段としての目録の意義が再確認された。

さらに2010年代以降は「サーチの時代」と呼べるとの考えが示された。「電子図書館中期計画2004」 が柱の一つとして “日本のデジタル情報全体へのナビゲーションの統合サイトを構築する”ことを掲げ、2007年に「PORTA」、2012年に「NDLサーチ」が公開され、書誌情報がメタデータとして活用されることになった。2024年1月には、「NDL-OPAC」を2018年に引き継いだ「NDLオンライン」を統合し、書誌情報関連システムは「NDLサーチ」に一本化された。

3.2 「書誌部」の遺産

次いでNDLの組織面から見た書誌関連業務の推移が述べられた。1986年に「図書部」・「逐次刊行物部」・「専門資料部」といった資料区分を基本とした部編成になり、整理業務は分散し、書誌関連の体制を強化したいとの問題意識が強まった。2002年4月の関西館設置に伴う機構改革によって、整理部門を集約した「書誌部」が誕生し、筆頭の課は「書誌調整課」となり、書誌調整を名称とする組織が初めて設置された。書誌部は2008年4月に収集部と統合した「収集書誌部」に再編されたが、その間、館内の書誌情報作成体制の整備、Web NDL AuthoritiesにつながるNDLSHのシソーラス化、国際的な動向への対応、「書誌データの作成・提供の方針(2008)」の策定などの成果があった。

4.おわりに 「NDLサーチ」からのアプローチ

最後に、現在の状況に対する発表者の見解および感想が次のように示された。

書誌情報がある限り、書誌調整は続く。NCR改訂の目標である目録の機能の向上が、提供面においてどのように反映されるのか、は今後長く続く課題となるだろう。今、その舞台となるのは「サーチ」だが、「サーチ」を従来の方法で書誌コントロールすることはできない。現時点においては、「サーチ」を舞台として、どのように有効なフレームワーク(Framework)を形成するか、というアプローチが見られるように思う。

2024年3月1日の「書誌調整連絡会議」では「全国書誌サービスの現状と将来」がテーマであった。2024年1月から「サーチ」で「全国書誌データ検索」「全国書誌(電子書籍・電子雑誌編)」のサブ画面が公開され、書誌情報(メタデータ)のダウンロードを主目的として、検索の範囲を4つにパターン化した。これらによって、従来よりも「全国書誌」の枠組が明確化した。さらに、「NDLサーチは拡張された全国書誌」(日本図書館情報学会編『図書館情報学事典』(丸善出版, 2023.7)中の「全国書誌」の項目)といったより大きなフレームワークを適用することも示唆されている。

「デジコレ」時代の「拡張された書誌コントロール」、「メタデータの機能拡張」が考えられるとしたらなんと呼ぶべきであろうか。その機能自体には思い及ばないので、Expanded(Enhanced) Bibliographic Control、Metadata Organization、Access Controlなど、せめて「書誌コントロール」に代わる表現をいくつか挙げることで、今回の発表を終えることにする。

以上の発表を受けて、主に、以下の質疑があった。

参考:
当日の配布資料(PDF)
参考文献

なお、今回の月例研究会については、Zoomの映像を録画し、開催後一週間に限り、出席を申し込んだものの欠席された方にも、映像を配信した。

(記録文責:今野創祐)