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整理技術研究グループ月例研究会報告

目録に対する概念モデリングアプローチ

谷口祥一(図書館情報大学)


日時:
2001年3月24日(土) 14:30〜17:00
会場:
難波市民学習センター
発表者 :
谷口祥一氏(図書館情報大学)
テーマ :
目録に対する概念モデリングアプローチ
出席者:
北西英里(大阪府盲人福祉センター)、前川和子(堺女子短期大学)、久保恭子(大阪青山学院短大)、田窪直規(近大)、渡辺隆弘(神戸大学図書館)、尾松謙一(奈良県立奈良図書館)、門昇(大阪大学)、光斎重治(愛知大学)、堀池博巳(京大)、蔭山久子(帝塚山大学図書館)、吉田暁史(帝塚山学院大学)、谷口祥一

1.概念モデリングアプローチとは
 目録をいったん抽象化して、概念レベルで捉えていく。そして新たなモデルを提案し、それを日々の目録作業のレベルで検証し、それに基づいた実装/実現レベルで処理を実際に行い、さらに概念レベルで抽象化する、という一連の過程を言う。最近目録界では、概念レベルで検討すべし、という議論が起こっている。概念モデル記述言語にはいくつかあるが、E-Rモデルとオブジェクト指向モデルが代表的なものである。このうち、E-Rモデルは分かりやすいという長所があるが、関連とするか、実体とするか等で揺れがある、概念操作記述ができない、などの欠点がある。オブジェクト指向モデルでは、複雑な構造のモデル化に適しているという長所を持ち、データと操作を一体化して表現できる。どのモデルを用いようとも、同じモデル記述言語内で、複数のモデリング結果がありうる。しかし、モデリングそのものが重要ではなく、その過程で今まで見過ごされていたものが見えてくるという効果が大事である。
 目録に対する要求定義を考えると、目録の目的は伝統的にfindingとcollocatingと言われてきた。最近のIFLA Reportでは、finding,collocatingをより精密化し、利用者タスクという要求(目的)を設定し、具体的にはfind(探索または発見), identify(同定), select(選択), obtain(入手)の4段階とした。finding機能は、document(manifestation)レベルのfind、identifyに相当する。collocating機能は、work、authorまたはsubjectレベルのfind、identify、selectに相当する。
 目録の目的・機能の中で、さらに記述の目的・機能を考えると、同定識別はidentifyに、内容範囲指示はselectに、成立経緯指示はidentify、selectに、書誌的関係指示はfind、selctに、アクセス条件指示はselect、obtainに相当する。ただし、この対応関係は記述データ側から提供しようとするデータの機能の宣言であり、利用者側からの行為を整理したものではない。
 目録(目録DB)の概念モデリングを行うに当たって留意すべきは、まず対象とする書誌的世界/事象のモデリングは、目録に対する要求定義を反映しうるものでなければならず、これは記述対象の分析、表現の問題に等しいということであり、さらに、目録DBの基本的利用(検索)手順を含めたモデリングでなければならないということである。
2.現行処理方式の概念モデリング
 現行処理方式に対して複数のモデルを構築可能である。とりあえずは記述対象をモデル化したい。次の2通りのモデリングが考えられる。
1.著作(work)−記述対象(対象物)(item)
2.著作−具象化物(manifestation)−対象物
 著作とは、知的・芸術的内容のまとまりであり、その把握の方法については多様な理解がある。現行処理方式においては、標目の付与にともなって前面に出てくる。記述対象・対象物(item)は、一つの記述対象として捉えられたものの全体を示す。その中でも、手元のコピーに特有の部分を示す場合がある。具象化物とは、著作が具体的な資料として(特定の媒体・形態において)形をなしたものであり、これまでドキュメント(document)あるいは「図書(book)」として著作に対峙させてきたものと等価である。また記述の作成において基盤とされるものである。テキストとは、著作者による知的・芸術的創造行為によって生み出された、文字・数字、楽譜記譜、舞踊記譜、音、画像、三次元実体、演奏・演技行為等、もしくはそららの任意の組み合わせをいう。現行処理方式においては、著作に含まれる場合と具象化物に含まれる場合の両方がある。
 DelseyによるAACRの論理構造のモデル化(1998)によれば、著作と記述対象とに分けている。そして記述対象とは、ドキュメント、ドキュメントの部分、コレクション、コピー、もしくはcontent partのいずれの場合もある。つまり記述対象は具象化物レベルおよび/または対象物レベルのいずれともなりうる。このモデル化はAACRが示す論理構造をそのまま表現することを意図したものである。
3.既提案の概念モデル
(1)O'Neil & Visine-Goetz, 1987(会議発表)
 work - text - edition - printing - book というモデル化を行っている。printing, bookとあるように、これは図書に特化したモデルである。editionが具象化物(manifestation)に相当する。
(2)Svenonius, 1900(会議発表)
 概念モデリングの重要性の提案が主眼である。superwork - work - edition - impression - itemとした。全体的にO'Neilらのモデルに近似している。著者など、実体の属性、関連についても言及はあるが、網羅的ではない。
(3)谷口、三層構造モデル, 1990-
 著作(work)ーテキスト(text)ー記録媒体(medium)とした。典拠−書誌−所蔵というように、同時にレコード構造を取り上げた点に問題がある。テキストを基盤として選択し、目録の機能等を組み合わせて議論している。
(4)Leazer, 1993
 work - itemというモデル。USMARC書誌レコードフォーマットにおいて設定されているフィールドをいずれかの実体に割り当てている。統一タイトル典拠レコード、所蔵レコード、それらのフォーマットについては言及がない。
(5)Heaney, オブジェクト指向目録法, 1995
 オブジェクト指向モデリングの目録への適用が主眼であり、厳密なモデルの提示にはいたっていない。text - publication - copyという3つのオブジェクトを設定している。textがworkをも含むようである。publicationはmanifetationに相当する。
(6)Green, 1996
 uniform work - bib.set - bib.copyとする。大規模リレーショナル書誌DBの設計を意図しており、目録DBの範囲にとどまらない。uniform workは谷口モデルのworkに、workは谷口モデルのtextに、bib.setがmanifestationに相当する。
(7)Fattahi, 1996
 work - edition - version - itemを提示する。superworkの提案が眼目である。
(8)IFLA FRBRモデル, 1996(draft), 1997(final)
 work - expression - manifestation - itemを提示。
 著作 − 表出物 − 具象化物 − 対象物
 著作 − 表現形 − 実現形  − 記述対象(JLA訳)
 重層的設定をおこなっており、具象化物が基盤である。加えて、person, corporate bodyおよび主題関連実体として、concept等を設定している。完成度が高く、他領域からも参照されている、実体、属性、関連の網羅的な設定をおこなっている、利用者タスクを導入し、それによる属性設定の検証を行う、という長所がある。一方問題点としては、テキストレベルの実体「表出物(expression)」の位置付け・役割のあいまいさ、著作の位置付け・役割に伴うあいまいさ、概念(データ)操作記述が不十分、といったことがある。

 あと、下記の発表項目が用意されていたが、発表時間が残り少なく、ほんの概略だけの説明があった。レコード構成のところでは、具体的な実装事例の紹介があったが、興味深いのは、国立音楽大学図書館LS/1システム(1993年頃)である。著作−書誌−媒体−所蔵、というモデルに対応したレコード構成を実装し、かつ実用運用されているとのことである。
・レコード構成等(具体的なレコード構成として提案または実装されたもの)
・書誌的関係の分析・類型化
4.テキストレベル実体を基盤にしたモデルの提案