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整理技術研究グループ月例研究会報告

情報メディアの構造化記述枠:

図書館資料を対象として

田窪直規(近畿大学短期大学部)


日時:
2001年6月23日(土) 14:30〜17:00
会場:
難波市民学習センター
発表者 :
田窪直規氏(近畿大学短期大学部)
テーマ :
情報メディアの構造化記述枠:図書館資料を対象として
出席者:
太田智子(京都外大図書館)、蔭山久子(帝塚山大学図書館)、尾松謙一(奈良県立奈良図書館)、堀池博巳(京大大型計算機センター)、村井正子(システムズ・デザイン)、前畑典弘、前川和子(堺女子短期大学)、渡辺隆弘(神戸大学図書館)、笠井詠子・吉田暁史(帝塚山学院大学)、田窪直規

1.発表の端緒と経緯
 まず書誌記述ということばに違和感をおぼえる。Bibliographyということばが、その内実が一体何なのかを突き詰めることなくあまりにも安易に使われている。そこで書誌記述ではなく、構造化記述ということばを用いることにした。1983年図書館情報大学に入学し、目録法の講義を受けた。ところがそれは実務解説の話であり、記述をモデル化・理論化するような内容ではなかった。目録法とコミュニケーション論とを組み合わせるような構想を抱いた。当時の記述の枠組みではメディアを過不足なく記述することはできない。メディア概念の追求と明確化が必要と判断した。

2.奈良国立博物館勤務時期
 1987年整理技術研究グループに本格参加し、目録法の文献や目録研究者と出会ったが、先の疑問は解決せず、深化した。自分の考えはなかなか周囲に理解してもらえず、1994年にアイデアをまとめた(文献1)。1990年代中盤になるとこの疑問点を理解できるような客観的素地が生まれてきた。それはデジタル・メディアの出現である。それを契機として、記述の分析的研究とモデル指向の研究が始まった。谷口氏の研究(文献2)やCC:DAの案(付図)等がある。谷口氏の研究は自分の見解に近づいている。

3.メディアの構造・特徴を素直に反映する記述枠のモデル
・メディアの構造
 ギローによれば(文献3)、「・・・《媒体》には、記号の実質とその実質の支持体すなわち乗りものが含意されている。」とする。記号の実質はメッセージ、実質の支持体(乗りもの)はキャリヤーと称される。そしてメッセージとキャリヤー両者を含めた概念がメディアとなる。メディアにおけるメッセージとキャリヤの関係は、ソシュールが主張した記号におけるシニフィエ(意味)とシニフィアン(表現体)の関係に相似している。このような定義からメディアを捉えなおすと、このことばづかいの混乱が整理できる。例えば「CD-ROMなどのニュー・メディア」という場合のメディアとは、実はキャリヤーのことであり、「マルチ・メディア」の場合は、メッセージの形式を表すというように。
・図書館メディアの特徴
 図書館メディアは出版文化の所産、つまり複製物ということに特徴がある。したがってメッセージが固定せず、単行本が文庫になったりというように、メッセージとキャリヤーの結びつきが可動的である。またキャリヤーが複数に分割されることもあり、メッセージとキャリヤーが1対1に対応するとはかぎらない。図書館利用者は、基本的にメッセージに注目する。すなわちメッセージが同じであれば、キャリヤーは何でもかまわないというケースが多い。しかし利用者にとっても、大型本と文庫などの小型本では使い勝手に影響するなど、キャリヤーの要素も無視はできないし、図書館の管理的な側面では、キャリヤーが重要な要素となる。つまり図書館メディアはメッセージとキャリヤーの両側面が重要であり、両者の結びつきを解明することが必要である。
・求められる記述枠:階層的2次元記述系モデル
 メディアの記述は、メッセージとキャリヤー両者間の関係を意識して、うまく記述できる枠組みが求められる。そのためには、両者を別々に扱った上で関係づけるしかないと思われる。メッセージ成分を単位としこれを記述する枠組みと、キャリヤー成分を単位とし
これを記述する枠組みに分けて、両者を関連づけるということである。メディアの階層性を考えるためにはそれぞれの階層性を分析しなければならない。例えば以下のようになろうが、両者をパラレルに扱うという視点が重要である。
メッセージの階層は文字資料を例にすれば、次のようになろう。
 単語→文→段落→項→節→章→部→完結的まとまり→より高次のまとまり
これに対しキャリヤーの階層は図書を例にすれば、次のごとくとなる。
 文字→行→ページ→冊→冊の集合

4.従来の記述方法の欠点:記述単位に注目して
 従来の記述単位は下記のようになる。
○物理単位
 多くの目録規則が物理単位に基づいている。キャリヤーのまとまりを単位とする記述である。
○著作単位
 目録法理論家の議論ではこれに基づくべきという考え方も出現している。NCR87においては、第2次案までこの考え方が打ち出されていたが、第3次案で放棄された(文献4)。これは、メッセージのまとまりを単位とする記述である。そしてどのようなメッセージの単位をも対象とするのではなく、便宜的に一つのメッセージとして完結したレベルを採用している。
○書誌単位:NCR87、NACSIS-CATが採用
 NCR87によれば、書誌単位の定義は、「同一の書誌レベルに属する、固有のタイトルから始まる一連の書誌的事項」となっている。本来ここでは、対象(メディア、キャリヤー、メッセージ)による定義をしなけらばならないのに、記述を行った結果としてのまとまりから定義を行っている。まずここに無理がある。
 書誌単位という単位を導入し、実務的方便として「固有のタイトル」の有無をもって、何らかのまとまりがあると判断している。以下に3つの記述対象例を考える。
例1.『日本史』というセットものが『古代史』『中世史』『近世史』の3冊からなる。
例2.『日本史』というセットものが『古代史・中世史上』『中世史下・近世史』の2冊からなる。
例3.『日本史』が上中下3冊からなる。
・物理単位による記述
 例1の場合
 『古代史』『中世史』『近世史』ごとに3レコードを作成。メッセージ、キャリヤーともに把握できており、問題なし。
 例2の場合
 『古代史・中世史上』『中世史下・近世史』の2レコードを作成。2分冊というメディアのうちの、物としての把握は成功しているが、メッセージの把握ができていない。
 例3の場合
 『日本史上』『日本史中』『日本史下』の3レコードを作成。例2と同様、物としての把握はよいが、メッセージの把握ができていない。
・著作単位による記述
 例1の場合
 『古代史』『中世史』『近世史』ごとに3レコードを作成。メッセージ、キャリヤーともに把握できており問題なし。
 例2の場合
 「古代史」「中世史」「近世史」ごとに3レコードを作成。メッセージの把握には成功しているが、キャリヤーの把握ができていない。
 例3の場合
 『日本史』の1レコードを作成。例2と同様の問題あり。
・書誌単位による記述
 例1の場合
 『古代史』『中世史』『近世史』ごとに3レコードを作成。問題なし
 例2の場合
 『古代史・中世史上』『中世史下・近世史』ごとに2レコードを作成。キャリヤーの把握には成功しているが、メッセージがうまく処理できない。
 例3の場合
 『日本史』の1レコードを作成。3冊に分かれているキャリヤーの把握がうまくできない。
・結論
 物理単位、著作単位、書誌単位のどの方法を利用しても、メッセージのまとまりとキャリヤーとしてのまとまりにずれが生じない場合は、問題は生じない。しかし、両者にずれが生じる場合(例えば1つのメッセージが2分冊に分かれる)、これらの方法では、メッセージとキャリヤーのどちらかがうまく把握できないことが分かる。物理単位を用いた場合は、メッセージの把握に無理が生じ、著作単位を用いた場合は、キャリヤーに無理が生じ、著作単位を用いた場合は、メッセージに無理が生じたり、キャリヤーに無理が生じたりする。
 この無理は、キャリヤーとメッセージを1レコードで記述しようとすることから起こった。どの方法が良いとか悪いとかではなく、両者にずれが存在する場合には、必ず無理が起こるということである。

5.2次元記述系による記述
・例1の場合
 キャリヤーについては、『古代史』『中世史』『近世史』という単位で3レコードを作成し、メッセージについては、「古代史」「中世史」「近世史」という単位で3レコードを作成し、両者を対応づける。
・例2の場合
 キャリヤーについては、『古代史・中世史上』『中世史下・近世史』という単位で2レコードを作成し、メッセージについては、「古代史」「中世史」「近世史」という単位で3レコードを作成し、両者を対応づける。
・例3の場合
 キャリヤーについては、『日本史上』『日本史中』『日本史下』の3レコードを作成し、メッセージについては、「日本史」の1レコードを作成し、両者を対応づける。
 このように、2次元記述系モデルでは、キャリヤーとメッセージとを分離して、両者に別々の2レコードを作成するので、キャリヤーとメッセージの間にずれが生じても、無理が起こらない。このような2次元系モデルでしか、メディアを無理なく記述することは望めない。

6.おわりに
 結論として以下のようにまとめることができる。
・従来の目録記述法・書誌情報論では、記述対象の構造を明らかにし、これを過不足なく捉えるための記述モデルを構築するという発想が薄かった。
・出版物よりもさらにメッセージの可動性が強いものがディジタル・メディアである。目録法理論家たちは、ディジタル・メディアへの対応に右往左往しているうちに、やっと分析指向、モデル指向になり、メッセージとキャリヤーの問題を重視するようになってきた。
・正確には、従来の目録理論家も記述対象の構造を意識し、メディアの両側面の問題に取り組んでいた。しかし、アプリオリに1レコードによる記述系を前提とし、その制約のもとで、両側面のどちらを優先するかという袋小路に陥っていた。これに関しては、ウィルソンの先見性があるが(文献5)、最近の議論においてもやはり限界がある。
・今後は本発表の論点をも含む議論が展開される可能性がある。
・ここでは記述の単位に注目したが、今後は、対象を構造化して捉えるための記述項目の設定法が議論されなければならない。
【参考文献】
1)田窪直規 メディア概念から図書館情報システムと博物館情報システムを解読する 『人文学と情報処理』4, 1994.5, p.9-15.
2)谷口祥一 記述目録法のための三層モデル 『図書館学会年報』36(4), 1990.12, p.149-166.
 谷口祥一 テキストに比重を置いた書誌的記録の作成法 所収:『46th 日本図書館情報学会研究大会発表要項』1998, p.43-46.
 谷口祥一 テキストレベル実体を基盤とした書誌的記録作成法のための概念モデル 所収:『47th 日本図書館情報学会研究大会発表要項』1999, p.49-52.
3)ギロー, ピエール著 ; 佐藤信夫訳 『記号学:意味作用とコミュニケーション』白水社, 1972, 160p.(p.26-27)
4)岩下康夫 “著作単位”“書誌単位”“書誌階層”:日本目録規則本版案批判『図書館界』38(3), 1986, p.148-154.
5)ウィルソン, パトリック著 ; 高鷲忠美, 岩下康夫訳 目録の第2番目の目的『整理技術研究』29, 1991,12, p.41-52.