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整理技術研究グループ月例研究会報告

国際標準記録史料記述一般原則:ISAD(G)

−その基本構造・考え方と問題点

田窪直規(近畿大学短期大学部)


日時:
2001年10月27日(土) 14:30〜17:00
会場:
大阪市立大学医学部医療研修センター
発表者 :
田窪直規氏(近畿大学短期大学部)
テーマ :
国際標準記録史料記述一般原則:ISAD(G)−その基本構造・考え方と問題点
出席者:
渡辺隆弘(神戸大学図書館)、堀池博巳(京大大型計算機センター)、蔭山久子(帝塚山大学図書館)、山野美贊子(大阪府大総合情報センター)、光斎重治(愛知大学)、村井正子、杉本節子(大阪市大学術情報総合センター)、浜田行弘(関西学院大学)、藤本ますみ(聖母被昇天学院女子短期大学)、城下直之(エスオーファイリング研究所)、吉田暁史(帝塚山学院大学)、田窪直規(近畿大学)

 本研究会は、整理技術研究グループと記録管理学会との共催である。
1.ISAD成立の経緯
・1989年国際文書館評議会(ICA: International Council on Archives)による記録史料記述標準化作業の事業計画作成。ICAは図書館界でいえばIFLAに相当する組織である。
・1992年に「記録史料記述に関する原則についての声明」(Statement of Principles regarding Archival Description)(マドリード原則)が出され、国際標準の依拠すべき原則が制定された。
・1994年ISAD(G)初版刊行。
・1996年「団体、人、家のための国際標準記録史料典拠レコード」(ISAAR(CPF): International Standard Archival Authority Record for Corporate Bodies, Persons and Families)というアクセスポイントのための標準が出された。
・1998年「コード化記録史料記述」(EAD: Encoded Archival Description) Ver.1.0の刊行。SGML/XMLベースで書かれている。ICAとは別の流れで策定された。カリフォルニア大学のグループが開発に着手したもので、当初SGMLで書かれその後XMLとなる。ISADとEADの関係は、ISBDとMARCの関係に相当する。
・2000年ISAD(G)2版の刊行。
 ISADとISAARは5年ごとに見直すことになっており、基本構成は同じだが、内容に若干の変更が加えられ、例示の拡充が行われた。
2.ISADの構成
 序文(成立過程)、序章(概要、考え方)、0章(用語解説)、1章(マルチレベル記述)、2章(マルチレベル記述規則)、3章(記述要素:7エリア26記述要素)(図1参照)、付録という構成になっている。マルチレベル記述がISADの特色である。フォンズ編成レベルのモデルを図2(文献1p.54より引用)に示す。
3.マドリード原則・ISADのポイントと考え方
3.1 コンテクスト、出所、フォンズとマルチレベル記述
・コンテクスト
 コンテクストとは、どこから、もしくは、どのような経緯で記録史料が現れ、伝わってきたのかを示すものである。記録史料の記述においては、内容のみならず、コンテクストをも明らかにする必要がある。記録史料はコンテクストによって、資料としての意味づけがなされる。
・出所(provenance)
 ISAD初版の定義によれば、出所とは「個人、団体の活動という行為のなかで文献(documents)を作成し、蓄積し、維持し、使用した組織または個人」であり、コンテクストエリアでこれを記述する。
・フォンズ(fonds)
 特定の人、家、団体によって、記録作成者の活動や機能のなかで、形式やメディアにかかわらず、有機的に作成され、蓄積され、利用された記録の総体のことで、同一出所の記録史料の総体とみなされる。記録史料全体は、フォンズというまとまりで記録され、フォンズは階層構造を持ち、マルチレベル記述を必要とする。フォンズという記録史料のまとまりを重視し、これを崩さずに記述することになる。
・マルチレベル記述
 コンテクスト・出所を重視し、それゆえフォンズを重視する考え方から実現した記述様式であり、ISADにおいて最も特色ある部分である。文献4では図書館の世界との違いも述べられている。フォンズを頂点とした全体−部分関係による記録史料の階層構造が記述(単位)のレベルを構成している。
 マルチレベル記述における4原則は次のとおり。
1)上位の記述単位から下位の記述単位へ。下位の記録史料は上位に位置づけられて始めて意味を生起する。
2)記述レベルに適合する記述内容。各レベルの記述はそれぞれのレベルに関する情報に限定される。
3)記述のリンク付け。下位の記述単位は上位の記述単位にリンクされる。記述レベルの同定のためである。
4)記述内容は重複させない。適当な最上位レベルで、各構成部分に共通する情報を与える。
 マルチレベル記述と記述要素は、どのレベルの記述にも使用され、記述単位の特徴や記述レベルに応じて取捨選択して使用される。
・コンテクスト・出所とISAD・ISAAR
 コンテクスト・出所情報の重視ということから、出所情報をコントロールし、記録史料記述への出所典拠レコード組み込みの必要性がある。統制され、それゆえ信頼できる出所情報(コンテクスト)の参照可能性を保証する。ISADとISAARのパッケージ開発が行われた。しかし図書館の典拠とはかなり違ったものである。
3.2 その他のポイント
・ISADの位置付け
 一般原則が定められており、詳細な記述規則ではない。国ごとにISADに基づく規則を作成する必要性がある。しかし日本では規則を作る母体がない。
・記録史料記述標準の目的
1)一貫した、適切で自己完結的な記述を確立する
2)記録史料に関する情報の検索、交換を容易にする
3)典拠データの共有を可能にする
4)さまざまな保管所からの記述を統合し、単一の情報システムにする可能性を開く。
・ISADが対象とする記述の段階、時点
 受入、補修、編成、といった記録史料管理の各段階で記述が発生する。対象とする記録史料は、永年保存のため選別され、編成された段階を想定している。
・データ交換のための必須要素
1)参照コード、2)タイトル、3)作成者、4)年代、5)数量、6)記述レベル

4.日本の現状
 安藤正人は、「・・・全国的に見ると、史料目録の主流は依然として主題目録、それも記録史料群の現物にメスを入れてしまった生体解剖的分類目録であり、原実序を無視した機械的史料整理法も相変わらず唱えられ続けている」と要約し、フォンズというまとまりを重視すべきであるとする。

5.発表者の立場からの疑問
5.1 発表者の立場
 メディアは、メッセージとキャリヤーからなり、メッセージ、キャリヤーそれぞれに階層がある(詳しくは6月月例研究会参照)。
5.2 マルチレベル記述にみる混乱
・記録史料群の階層は以下のように考えられる。
 フォンズ、サブフォンズ→出所作成レベルであり、メッセージに注目
 シリーズ、ファイル  →管理レベルであり、キャリヤーに注目
 アイテム       →メッセージに注目?
 メッセージとキャリヤーが混同されている。
 記録史料の管理から見ると、次のような例が考えられる。「あるところで作成された記録史料が分散し、いくつかのところで他の記録史料と一緒に蓄積された場合」「一つのファイルの中に、何らかの理由で他の組織単位の記録史料がまざった場合」。このような場合、キャリヤーとメッセージを同一平面で扱うと、いずれかを重視すれば、他方が論理的に扱いきれないという問題が起こる。
・マドリード原則(preface)の混乱
 [フォンズの階層とは]対照的に、保管所は時々、ある保管所内でのフォンズのグループ(ガイドのためのもの)や、一度の受入で一緒に受け取られた個別の文書の集積体のように、特定の管理ニーズに資するため他の記述グループを導入せねばならないこともありうる。これらの「管理レベル」は、現在の関心外である。
 これに見られるように、メッセージと物の管理を分けるという段階にはまだ至っていない。
5.3 共同目録作業とメッセージ、キャリヤーの把握
 WWWによる総合目録共同作成の可能性はありうるが、メリットがないと考えられる。物としての記録史料はどのように管理されていても、フォンズのまとまりで記述可能である。ただし典拠管理の問題があり、また各キャリヤーをまとめる作業が必要であろう。
6.まとめ
・記録史料記述のコンピュータ化という流れの中で、標準化の必要性が強く意識され、記述標準であるISADと、典拠レコード標準であるISAARが相次いで制定された。一方では、これらの流れとは別に、EADという記述マークアップ標準も開発されている。
・ISADの特徴は、マルチレベル記述という点である。これは、記録史料のコンテクスト・出所を重視し、フォンズ単位で上位から下位へと、階層的に記述単位を設定して、その順序で記述する方法である。残念ながら日本ではこの記述方法は根付いていない。
・発表者の目からは、ISADはメッセージとキャリヤーという次元の違うメディアの両側面を混同しているように見える。少なくとも共同目録作業という観点からは、フォンズ概念をメッセージ・キャリヤーという観点から見直す必要があろう。

【参考文献】
1)アーカイブズ・インフォメーション研究会編訳 『記録史料記述の国際標準』北海道大学図書刊行会, 2001.2
2)International Council on Archives. ISAD(G) : General International Standard Archival Description. Adopted by the Ad Hoc Commission on Description Standards. Stockholm, Sweden, 21-23 January 1993, Final ICA approved version. Ottawa, 1994.
3)International Council on Archives. Committee on Descriptive Standards adopted. ISAD(G) : General International Standard Archival Description. 2nd ed. Stockholm, Sweden, 19/22 September 1999. Ottawa, 2000, 91p.
  http://www.ica.org/biblio/com/cds/isad_g_2e.pdf
4)Dahlin, Jan. Archival Description Standards. Fontes Arts Musecae. Vol.43, no.3, p.272(1996)