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整理技術研究グループ月例研究会報告

記述対象の分析的研究

吉田暁史氏(帝塚山学院大学)


日時:
2001年12月22日(土) 14:30〜17:00
会場:
大阪市立大学医学部医療研修センター
発表者 :
吉田暁史氏(帝塚山学院大学)
テーマ :
記述対象の分析的研究
出席者:
蔭山久子(帝塚山大学学園前キャンパス図書館)、前川和子(堺女子短期大学)、山野美贊子(大阪府大総合情報センター)、坊和華、村井正子、堀池博巳(京大大型計算機センター)、吉田暁史

1.Tom Delseyの主張(勉強会記録より)
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◎AACR2の第1部において目録規則を適用するための基本原則は,「記述の出発点は手元にあるItem(資料)の物的形態であって,その著作が出版されたもとの形態でも,以前にあったどのような形態でもない」(0.24)
・キャリアーの物的形態はitemが属する資料種別決定のための第1基準であるとしているが,第1部の構造と各資料種別がどのように定義されているかを見ると,物的形態はすべての種別において第1基準であるとはいえず,複数の基準があり,キャリアーの物的形態はその定義基準の一つである。
・AACR2の第1部の資料種別(class)の概念は表面に現れているより複雑であり,0.24の原則に反して,item(記述対象)が属するclass(資料種別)を決定することは、itemの物的形態を決定することと同義語ではない。
◎標目の選定の規則は著作の具象化物(physical manifestation)には適用せず,出版物に含まれる著作に対して適用することになっている。
・著作の概念と手元の資料(in hand)には乖離がある。
・記入の選択やアクセス・ポイントの選択には手元にある記述対象(item)から主要なソースの用語やレイアウトから情報を抽出し,決定しなければならない。
・それは著作に対する責任性(Responsibility)のあり方や著作の構成のあり方で区分される。
・(1)一著者による著作,(2)責任性が分担(shared)されている著作,(3)責任性の混合(Mixed)した著作、(4)異なる著作で区分できる。また構成(configuration)のあり方では(1)一著作からなる出版物,(2)コレクション/抜粋,(3)混合物(composite)から構成されるもので区分される。
・また,各々先行する著作(翻訳,改訂版,翻案)がある場合はその関連からも影響を受ける。
・基本記入の標目の実体(entity)は著作のあり方で変化する。すなわち,責任性の分担されたものは4つ(表2)で責任性の混合のものは20(表5)まで拡大する。
・著作の識別の適用範囲はマルチメディアを考慮しなければならない。
・AACRは責任性の分担(shared)と責任性の混合(mixed)との間を明確に区分しなければならないだろう。
・混合著作集(composite works)の追加形式をカバーするためのルールの拡張も必要かもしれない。
◎Reflecting Change in Content and Form over Time
 時間における内容と形態の変化に反映する
・電子化時代の技術革新に伴うAACRの見解と適用は他のメディアや技術の場合より複雑な問題がある。
・電子メディアの出現によって,記述の均一性の保証は従来の仮定ではできなくなってしまった。
・それはホストコンピュータに蓄積された電子文献にアクセスする時に,特に問題になり,物理的対象物(the physical object)の概念はやや弱くなる。
・規則で示す手元の記述対象物とは,物理的対象物というよりも事実的であり,物理的特性というより時間的特性と関連している。物理的対象物のこの弱まりは,目録規則に反映される論理構造とその構造方法とも関係してくる。
◎デジタル資料に関する問題は,従来の資料に関する問題と類似していて,時間とともに形態や内容の変化を受けやすい。
・スナップショット(snapshot)を電子資料に適用するのは難しい。スナップショットは時間的にある断面を切り取る。電子資料の場合はその切り取った断面は元のものとは一致しない。
・論理的属性を明確にし,実体とオブジェクト間の関係のモデル化について,この問題を検討するなら,時間とともに変化しやすい属性を持っている可能性を認めることが大切。
●結論(Conclusion)
・ネットワークは拡大・発展を続け,データベース管理システムの進歩は,書誌構造を形成していく方法に影響を与え続け,書誌データを構造化する方法を考え直すように要求される。
・AACRについて,最初の原則に戻り,目録規則の根底にある論理をはっきり理解することが大切。
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(1)DelseyはAACR2規則の内部的な矛盾に関し、特に資料の物的形態と中味の関連に関し多くの指摘を行っているが、結局のところ何を主張したいのかが分からないし、どうすれば整理できるのかを言っていない。問題点の羅列というところで終わっているようだ。
(2)物理的側面といっても、容器(キャリア)の問題、記録の様式(音声や文字など)等のさまざまなレベルで捉えることが出来る、という指摘が唯一参考になった。
(3)また電子メディアの変化しやすい性質をどう把握すべきかに関し、具体的な提案は行っていない。
2.Ramat Fattahiの学位論文について
(1)FRBRのドラフトに基づいて、Work, Expression, Manifestation, Itemという4実体を設定。しかしItemの下にさらにCopyとReproductionという実体まで設けており混乱。どうもFRBRにおけるManifestationやItemを理解していないようだ。
(2)オンライン環境下における実体や実体の属性、実体間の関係等を考察→あまり傾聴すべきものがない。
(3)SuperworkとSuper record
 Superwork:単独では実体とはならない。著作の集合体(totality of a work)。Svenoniusは「オリジナルな著作のすべての実現形、およびそこから派生したすべての実現形の集合」と定義。Superworkはまた、レビュー、批評、索引、書誌といった同じ著作に基づくすべての新しい著作を包含する。この文脈では、多くの書誌(例えば作家や哲学者など)は、一つの著作のすべての表現形と実現形および他の関連著作を一緒に引き連れるSuperwork的なアプローチを行っている。
 Super record:特定の著者による異なった著作のコレクションをより完全に検索するためのもので、特定著作の種々の版と実現形の検索を行い、より意味のある配列でこれらを表示する。スーパーレコードは、スーパーワークを表現するための現実的な一つの手法と位置づけているようだ。

Shakespeare, William, 1564-1616
Works by this author available in/through this catalogue are:

Complete works
Selections
Individual plays:
All's well that ends well
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Hamlet
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Winter's tale
Poems
Sonnets
Lyrics
Epic poems
Other poems
Apocrypha

図1 多作の著者に対するスーパーレコードの例

Shakespeare, William, 1564-1616

Hamlet
This work includes the following editions/manifestations, etc.,
available in/through this catalogue
Editions(by date; by editor)
Translations(by language)
Versions(by physical form)
Adaptations and arrangements(by type of modifications)
Changes of genre(music performance, operas, novelisation, etc.)

図2 古典著作のスーパーレコードの例

5.「著作」について
(1)岩下氏、古川氏の「著作単位優位」の主張
・岩下氏の「著作単位」
 著作単位とは、「記述対象としての著作の質量的な固まりの単位」のことで、「著作の同一性に基づき、統一著者名と統一タイトルで括られる集合体」と混同してはならない、とする。後者はヴェローナのいう「文献単位」(literary unit)に相当する。また著作単位には絶対的な単位は存在せず、全集レベル、個々の作品レベル、構成的な内容レベルのどの段階にも著作が認められるとし、相対的なとらえ方が現実的だとする。固有のタイトルの存在に基づく書誌単位は著作単位に近い概念であるとする。
・古川氏の著作単位
 岩下氏の見解に賛同し、著作単位を記述の基礎に据えるべしとする。そしてウィルソンの下記を引用しつつ、物的な側面と内容的な側面とを分離し、内容的な著作単位を中心とする記述を作成し(これは構成単位までのさまざまなレベルを含み、とりわけ構成単位を重視する)、さらにそれら著作を統一タイトルでひとまとめにして、諸版、諸形態の集中検索を実現すべきとする。
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『ハムレット』、『マクベス』と呼ばれる著作はあるが、『ハムレットおよびマクベス』は、いかに両者が頻繁に一緒に1冊にして刊行されることがあったとしても、それは著作ではない。
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 また著作に絶対単位を設けるのが困難だと認めつつ、一つのまとまりのある著作をばらばらにしてよいわけではないとも警告する。
(2)著作概念のFRBRとの対応
 質量的な固まりとしての著作単位→expression
 統一タイトルでくくられる諸版の集合体としての著作(文献単位)→work
 しかしウィルソンにせよ、Yeeにせよ、両者の混同が見られる。
 両者ともに、物理的な出版物としての現れは含まない。電子メディア時代の目録にあっては、ウィルソンや古川氏の言うように、expressionに記述の基盤をおき、出版物としての物理的な現れ(manifestation:ISBDでいえば、出版エリアや形態エリア)は、別の次元として表現すべきであろう。
 そして古川氏はさらに、workの集中機能をも果たすべきとする。ここでworkとは何で、どこまでをworkとするかという解決不能な問題が横たわる。これは理念としてはともかく、現実作業としては、非常に控えめにとどめざるを得ないであろう。ところが一般に、expressionには確固としたタイトルは存在しない可能性がある。workをくくるためには標目としての統一タイトルが必要であり、expressionを記述するためにも何らかのタイトルを必要とする。
(3)同じ内容が異なるキャリアに存在するということは、それほど単純なことではない。
 Yeeによれば、「元の著作(および複製)が聞いたり(聴覚的)読んだり(テキスト的)して鑑賞される著作を著す場合は、異なる物理的媒体への複製は、新しい著作を想像したことにはならないように思われる。しかし、元の著作(および複製)が見る(視覚的)ことによって鑑賞される著作を表す場合は、新しい著作を創造したことになると論じてもよい。」
 同じ内容を異なるキャリアに移し替えた場合、同じexpressionではなく、異なるexpressionになることもある、というわけである。
(4)日本目録規則における書誌単位と著作単位
 岩下氏のいう著作単位を実際に目録作業として確定するのは困難を極める。その意味で、「固有のタイトル」という便法で、事実上「著作」を認めようという方針はやむを得ないと思われる(ただし、古川氏の指摘するように、タイトルのない著作の存在は認めなければならないが)。またこの書誌単位の方向は著作をより相対的に扱うことにもなる。NCRにおける書誌単位はこのようなものと解釈したい。しかし、書誌単位に単行書誌単位という「物」とからめた基準面を設けたのは不合理であった。書誌単位には本来基準線は存在しない。
6.最近の改訂動向 serialrityの問題と電子媒体資料
【参考文献】
(1)Tom Delsey. Modeling the Logic of AACR : The Principles and Future of AACR. -- Chicago : ALA, 1998.
(2)Ramat Fattahi's Ph.D Thesis: The Relevance of cataloguing Principles to the Online Environment : An Historical and Analytical Study
(3)古川肇 『英米目録規則』に関する改訂の動向−一つの展望−『資料組織化研究』43号 p.15-29, 2000.7
(4)古川肇 目録の構造に関する試論『資料組織化研究』44(2001.1)
(5)丸山昭二郎 「日本目録規則」の総則(案)と書誌階層について『図書館雑誌』79(8)1985.8 p.466-468
(6)岩下康夫 “著作単位”“書誌単位”と“書誌階層”−日本目録規則本版案批判試論−『図書館界』38(3)(1986.9) p.148-154
(7)パトリック・ウィルソン 目録の第2番目の目的『整理技術研究』 29,p.41-52.(1991.12)
(8)パトリック・ウィルソン 目録の第2番目の目的を解釈する『整理技術研究』 30,p.7-20.(1992.6)
(9)C.Martha M. Yee 著作とは何か『整理技術研究』39(1998.1)

◎研究会終了後、忘年会を天王寺(味いちもんめ)で開催。
出席者:蔭山、前川、村井、堀池、浜田、吉田暁
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