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整理技術研究グループ月例研究会報告

記述対象と書誌記述−研究大会発表へ向けて−

吉田暁史(帝塚山学院大学)


日時:
2002年1月26日(土) 14:30〜17:00
会場:
神戸市市立東灘区民センター
発表者 :
吉田暁史氏(帝塚山学院大学)
テーマ :
記述対象と書誌記述−研究大会発表へ向けて−
出席者:
蔭山久子(帝塚山大学学園前キャンパス図書館)、光斎重治(愛知大学)、村井正子、堀池博巳(京大大型計算機センター)、渡辺隆弘(神戸大学図書館)、田窪直規(近畿大学)、吉田暁史

1.ディジタル資料およびネットワーク情報資源の出現にともなう目録規則の変化
(1)ISBD(ER)の刊行
ISBD(ER): International Standard Bibliographic Description for Electronic Resources. Revised from the ISBD(CF) International Standard Bibliographic Description for Computer Files. Recommended by the ISBD(CF) Review Group. 1997.
http://www.ifla.org/VII/s13/pubs/isbd.htm
扱う資料の範囲:パッケージ系電子資料(ローカルアクセス)とリモートアクセス資料の両方を対象とする。
特色
1)特にリモートアクセス資料の場合、何を対象として記述するかという規定はどうも見当たらない。
2)パッケージ系資料は、従来どおり形態的記述エリアを使用する。
 リモートアクセス資料は、形態的記述エリアを使用せず、第3エリアを特に設定し、ここで数量範囲やファイル形式等を記録する。
3)実例(多段階によるリモートアクセス資料記述)
City of bits [Electronic resource] : space, place, and the infobahn / William J. Mitchell. - Electronic online service. - [Cambridge, Mass.] : MIT, cop. 1995.
System requirements: Web browser; video viewer such as QuickTime or MPEGPLAY required for video applications.
Mode of access: Internet. URL: http://mitpress.mit.edu/CityofBits/.
Title from title screen.
Description based on resource as of: Aug. 10, 1996.
Contents: 1. Pulling glass. - 2. Electronic agoras. - 3. Cyborg citizens. - 4. Recombinant architecture. - 5. Soft cities. - 6. Bit biz. - 7. Getting to the good bits.
ERに対するコメント:従来のISBDの枠組みに無理に合わせるため、リモートアクセス資料に対し第3エリアを設定し、かつURLなどを注記で処理するという手法をとったようである。

(2)ISBD(CR)
World-Wide review of "International Standard Bibliographic Description for Serials and Other Continuing Resources (ISBD (CR))"
http://www.ifla.org/VII/s13/pubs/isbdcr-final.pdf (正式版)
 Comments on the ISBD(CR) are now being sought. Please submit your comments to me by JUNE 30, 2001とあるから、まもなく正式刊行か。
 従来の単行資料か逐次刊行物かという区分に代えて、終結(finite)か継続(continuing)かという区分に変える。新ISBD(S)ではcontinuing resourceという名称を採用し、ISBD(CR)となる。continuing resourceは、統合資料(integrating resource)と逐次刊行物(serials)の2つを含む。serialsの定義はほぼ従来どおり。統合資料は、更新中のルーズリーフやWebサイトなど。規則中では、随所で逐次刊行物と統合資料の両者別立ての規定がある。例えば記述の基盤では、逐次刊行物は原則として初号により、統合資料では最新状態に基づく。逐次刊行物だけを捉えれば、あまり大きな変更はなさそう。
CRに対するコメント:統合資料と逐次刊行物がなぜ同じ枠組みなのか。内容の不安定性と、刊行の継続性とは別次元の話であろう。
(3)ISBD(ER)とISBD(CR)全体としてのコメント
 ISBD(ER)の処理を見ていると、ISBD出現前夜の1960年代に、視聴覚資料や逐次刊行物をどう扱うのかという問題が起こったときの混乱状態を想起させる。これを切り抜けるため、ISBD, AACR2では10章以上を費やして、各資料種別ごとの整合性のある記述体系を作り上げた。今回は、記録の内容(メッセージ)、記録の種類(テキスト、音声、静止画像、動画、マルチメディア、...)、記録の様式(活字、フォント、文字コード、ファイル形式、アナログ、ディジタル、...)、記録の容器(キャリア)、および統合資料の不安定性、さらにメッセージとキャリアそれぞれにおける階層構造、異なる記録間の関係性、といったものをどうやって切り分け、表現するかという至難の事態が起こった。

2.FRBRの分析
(1)実体、属性、関係という手法を用いて、記述対象の把握を行ったこと。
(2)実体をwork、expression、manifestation、itemの4種に分けたこと。
 workに対しては明確な定義を避けたが、関連著作の集合体。expressionは同じ内容を持つ著作の固まり、manifestationはexpressionを特定の物的な出版物に固定したもの、itemは複数部作成された出版物の中の1つの物理的存在。
 現在の記述規則では、事実上manifestationを記述の対象とする。変化自在のディジタル資料の出現によって、同じ内容が多様な媒体によって出版されている。どの媒体に納められた資料であっても、それらを同じものとして把握したい要求に応える必要が起こってきた。その結果manifestationに基づいて記述を行うのでは不十分であり、expressionレベルに基づく記述が要請される。つまり内容と容器を分けて記述する必要が起こってきた。

【参考】ウィルソンの主張 (5)A
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 もし著作が主たる関心の対象であるなら、記述されるべき単位は著作であろう。つまり単位となるレコードは著作レコードであって、図書レコードではない。このようなレコードの中身は、どのような形態でもとれるだろうが、必然的に2つの部分から成るだろう。最初の部分は、正確な名称、著者性、内容の記述、想像に関する歴史的情報あるいは前後の関係を表す情報といった著作そのものについての情報を示すだろう。2番目の部分は、その出版物の様々な現れや、当該著作の実際に所蔵するコピーや、実質的に所蔵するコピーに関する情報を示すだろう。多分、最初の部分は、少なくとも、著者名の標準化された形と、著作そのものの標準化された名称を含むことだろう。2番目の部分は未完のままで、我々に、当該著作がかくかくしかじかの図書に、雑誌に、またマイクロフィッシュ等に発表されたことを告げる潜在的に成長する所在レコードになろう。
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 要するに、資料の内容部分と、物的部分を分けて記録する必要性を説いている。しかし内容と物的部分といっても単純ではない。ISBDでいえば、出版・頒布等エリアのうちのある側面と形態的記述エリアが物的部分を表現する。ところがISBD(ER)の場合、パッケージ系電子資料の場合は、形態的記述エリアを用い、ネットワーク情報の場合は、第3エリアを用いるとする。これは結局、容器と記録の種類あるいは記録の様式等の切り分けが出来ていないのではないか。第3エリアで規定するようなことは、ネットワーク情報特有のものではあるまい。またURLにしても、資料の所在情報なのか、ISBNのようなものなのかを考える必要があろう。その上で、注記(不定型な情報)ではなく、何らか定型的な記述位置が求められる。

3.NCRにおける記述対象の把握
・集合書誌単位、単行書誌単位、構成書誌単位
 内容的な観点から階層関係を考えれば、本来基準面など存在しないが、NCRでは単行書誌単位を基本に据え、物的に独立した最小の書誌単位を単行書誌単位としている。すなわち「原則として1冊の本、それが固有のタイトルを持たなければ、固有のタイトルを持つような最小の冊数」の単位を基本としている。従来どおりの「物としての図書」を把握するという図書館の方針を継承している。これは「物」としての側面を把握しがたいネットワーク情報資源には適用が困難。また2冊の図書のうち、1冊ともう1冊の半分にAという作品がまたがり、残りの半分にBという作品が入っているときなどは、「物的に独立した最小の書誌単位」を定義できないという問題が起こる。これは要するに本来内容の単位であるはず(?)の書誌単位に物的な要素を混在させることから起こった。

4. Fattahiらのsuperwork−著作の関連性の把握−
 パリ原則により図書館目録は、1.特定図書の検索、2.ある著者のすべての著作の検索、3.ある著作のさまざまな版の検索、という3段階に応じるべきであるとなった。問題は第3段階であり、「さまざまな版」とは何かを明らかにする必要がある。すなわち著作間の関係性を分析し、どこまでの範囲で関連する著作を指し示すのか、という問題である。関係性の分析に関しては、FRBRが行っている。superworkでは、関連著作の範囲を非常に広範に拡げ、それらを一括するような書誌レコードの作成を試みた。

 ここでは、統一著者名と統一タイトルの組み合わせで、関連著作を括るという手法を用いている。しかしこういう方法では、関連著作の範囲は恣意的で、また関係性の種類が必ずしも明確になっていない。検索者によって、関連著作の範囲は異なるであろう。それを何らかの恣意的な基準でひとくくりすることは無理があろう。それよりも、著作の関係をベクトルとして捉え、関係の種類(方向)と関係の段階(距離)に分けて把握し、必要な関係性を必要な距離で把握できるようにするのが望ましいのではないか。リンク情報の定式化。

5.まとめ
(1)記述の対象とレコード作成の単位
(2)内容と容器
(3)記録間の関係性

【輪読文献および関連文献】
(1)古川肇『英米目録規則』に関する改訂の動向−一つの展望−『資料組織化研究』43号 p.15-29, 2000.7
(2)Tom Delsey. Modeling the Logic of AACR : The Principles and Future of AACR. -- Chicago : ALA, 1998.
(3)Functional Requirements for Bibliographic records : Fianl Report / IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Records. -- Munchen : K. G. Saur,1998.
(4)Ramat Fattahi's Ph.D Thesis: The Relevance of cataloguing Principles to the Online Environment : An Historical and Analytical Study
(5)「著作」関係
A.パトリック・ウィルソン 目録の第2番目の目的『整理技術研究』 29,p.41-52.(1991.12)
B.パトリック・ウィルソン 目録の第2番目の目的を解釈する『整理技術研究』 30,p.7-20.(1992.6)
C.Martha M. Yee 著作とは何か『整理技術研究』39(1998.1)
D.古川肇 目録の構造に関する試論『資料組織化研究』44(2001.1)
(6)輪読予定にないが関連文献
E.丸山昭二郎 「日本目録規則」の総則(案)と書誌階層について『図書館雑誌』79(8)1985.8 p.466-468
F.岩下康夫 “著作単位”“書誌単位”と“書誌階層”−日本目録規則本版案批判試論−『図書館界』38(3)(1986.9) p.148-154
(6)田窪直規 メディア概念から図書館情報システムと博物館情報システムを解読する『人文学と情報処理』4, 1994.5, p.9-15
(7)田窪直規 情報メディアを捉える枠組み−図書館メディア、博物館メディア、文書館メディア等、多様なメディアの統合的構造化記述のための− 所収:『アート・カーカイヴズ/ドキュメンテーション』 慶応義塾大学アート・センター, 2001.3, p.16-31