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整理技術研究グループ月例研究会報告

米国議会図書館における書誌コントロールの環境変化と再構築の道程

倉橋英逸(前・関西大学)


日時:
2007年4月21日(土) 14:30〜17:00
会場:
大阪市立総合生涯学習センター
発表者 :
倉橋英逸氏(前・関西大学)
テーマ :
米国議会図書館における書誌コントロールの環境変化と再構築の道程
出席者:
尾松謙一(奈良県立図書情報館)、蔭山久子、川崎秀子(佛教大)、河手太士(大阪樟蔭女子大図書館)、漢那憲治(龍谷大)、嵯峨園子(ソシオメディア)、佐藤毅彦(甲南女子大)、塩見橘子(大阪市立大大学院)、鈴木史穂(福島県立図書館)、谷口美代子、田窪直規(近畿大)、田村俊明(大阪市立大学術情報総合センター)、則武孝志郎(福井大図書館)、土居(同志社大)、藤井寛幸(大阪成蹊大)、中川正己(松山大)、難波朝子(アグレックス)、韓相吉(韓国・大林大)、堀池博巳、村井正子(日本アスペクトコア)、松井純子(大阪芸術大)、山野美贊子(帝塚山学院大非常勤)、吉川直樹(京都府立総合資料館)、吉田暁史(大手前大)、渡邊隆弘(帝塚山学院大)、倉橋<26名>

 米国議会図書館(LC)の政策を中心に、今後の書誌コントロールの方向性について、発表された。

1.はじめに

 インターネットの登場によって書誌情報の世界的流通が容易となり、国際書誌コントロール活動はその真価を発揮した。しかし一方で、図書館世界の外側で、Web情報の索引と検索を検索エンジンが担うという環境変化が起こり、図書館界は書誌コントロールの再検討を迫られた。

2.21世紀の書誌コントロール

 LCは2000年に「新千年紀のための書誌コントロール」会議を開催した。Web資料に対する目録法の問題点などが話し合われ、会議のまとめとして29の専門部会が設けられて「議会図書館行動計画」の策定作業に入った。

3.図書館利用者の変化

 21世紀に入り、利用者(特に大学生)の情報行動の変化、すなわち印刷資料から電子資料へ、図書館から検索エンジン等へのシフトが起こった。OCLC等によるいくつかの利用者調査は、ジップの最小努力原則を証明する結果となった。

4.Googleの衝撃

 Web資料の情報検索において成功を収めたGoogleは、2004年以降印刷資料の領域へも進出した。Google Scholarでは様々な機関から発行される学術文献を多くの学問分野にわたって検索できる。所蔵図書館の検索、契約する電子ジャーナルへのアクセス、英国図書館への注文、等の機能も備えている。さらにGoogle Book Search事業では、「出版社計画出版社からデータ提供)」「図書館計画(複数の大規模図書館の蔵書を対象)」の両面で、図書の全文検索索引化を非常なスピードで進めている。著作権問題は決着がついていないが、全文検索索引化から電子図書配信に至る機能の実現をめざしている。

5.欧州電子図書館構想

 こうしたGoogle主導の動きに対して、フランス国立図書館長のジャヌネ(Jeanneney)は、文化的多様性、公共財と市場原理、長期保存、といった観点から批判を加え、EUの先導によってGoogleに代わる先進的な電子化事業を進めることを提起した。これをうけて欧州委員会は、欧州の図書館・文書館の資料を電子化するための「i2010 : 電子図書館イニシアティブ」構想を採択し、実施することとなった。

6.書誌コントロールの変革

 2.で述べたLCの「行動計画」の具体策定はあまり進まなかった。一方で全国研究会議に調査を依頼した『LC21:議会図書館電子化戦略』が2000年にまとめられた。ここでは、高コストの伝統的な図書館目録は実用的でない、LCは戦略的・論理的に活動できるような十分な先見性を持っていない、などとされている。

 その後LCの准館長にマーカム(Marcum)が就任し、従来の目録業務に対して厳しい見方を示した。2006年に入り、「行動計画」のうち「変化する目録と他の検索ツールとの統合に関する研究と開発の支援」について、カルフーン(Calhoun)による最終報告が示された。これは「行動計画」全体のまとめであり、目録業務の変革を強く促す内容である。また、英米目録規則(AACR)はRDAとタイトルを変えて改訂作業の途上にあるが、マーカムやカルフーンはこれにも時代に適応した変革を求めている。

7.おわりに

 シャルチエ(Chartier)は西洋の文明史には「すべての知識を、かつて書かれたすべての書物を集めた図書館を持つという夢」が一貫してあったと述べているが、今日Googleの創業者の一人であるページ(Page)は「Googleの使命は世界の情報を組織化すること」と言っている。Google Book Searchは著作権処理や秘密主義、公共財の私有化などの問題をはらんでいるが、一方で「i2010 : 電子図書館イニシアティブ」も寄り合い所帯や資金確保等の問題をかかえており、情勢は予断を許さない。また、2006年秋、LCに「書誌コントロールの将来に関するワーキンググループ」が発足しており、2007年11月までに提出される予定の最終報告が注目される。

注)本例会の内容を扱った倉橋氏の論文を『50周年記念論集』に掲載
倉橋英逸「米国議会図書館における書誌コントロールの環境変化と再構築の道程」『整理技術研究グループ50周年記念論集』2007.9 p.84-104

(記録文責:渡邊隆弘)