整理技術研究グループ月例研究会報告
オープンソース図書館システムの実現を目指して
原田隆史(慶應義塾大学)
- 日時:
- 2007年6月16日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立弁天町市民学習センター
- 発表者 :
- 原田隆史氏(慶應義塾大学)
- テーマ :
- オープンソース図書館システムの実現を目指して
- 出席者:
- 赤澤久弥(京都大医学図書館)、池田孝司(リッテル)、大場利康(国立国会図書館)、蔭山久子、門昇(大阪大)、川崎秀子(佛教大)、河手太士(大阪樟蔭女子大図書館)、清田陽司(東京大学情報基盤センター)、久保恭子(神戸松蔭女子学院大)、佐藤毅彦(甲南女子大)、田窪直規(近畿大)、田村俊明(大阪市立大学術情報総合センター)、中川正己(松山大)、中村健(大阪市立大学術情報総合センター)、則武孝志郎(福井大図書館)、林豊(京都大図書館)、韓相吉(韓国・大林大)、堀池博巳(摂津市施設管理公社)、松井純子(大阪芸術大)、圓目美和(神戸夙川学院大図書館)、村井正子(日本アスペクトコア)、村上健治(京都大図書館)、村上泰子(関西大)、村山光昭(日本電気)、吉川直樹(京都府立総合資料館)、吉間仁子(国立国会図書館)、若松克尚(京都造形芸術大芸術文化情報センター)、渡邊隆弘(帝塚山学院大)、原田<29名>
- 共催:
- 情報知識学会関西部会
- 後援:
- アートドキュメンテーション学会関西地区部会
オープンソース図書館システムが求められる状況の認識と、発表者を中心に活動を開始しているProject
Next-Lについて、発表された。
1.図書館パッケージシステムをめぐる諸問題
- 図書館パッケージシステムの登場により、それまで大規模館しかできなかった図書館電算化が急速に普及した。NACSIS-CATによる標準化とともに、日本の図書館の発展を牽引してきた存在といえる。要求仕様作成や開発後のテストの省力化が、パッケージシステムの代表的な利点である。
- しかし一方で、個別図書館の独自機能の追加や既存機能の改変が困難だという問題点もある。個別館からみれば不必要な機能が多い、新たに必要とされる機能追加への対応が鈍い、大学と社会の現状が反映されていない、など既存システムに対する図書館員の不満は強い。
- これまで個別館の要求は、予算の範囲内でカスタマイズを行うという形で反映されてきたが、後のシステム更新に影響を与えるなどの問題点がある。海外の図書館システムは、個別要求に応じたカスタマイズは極力行わないものが多い。機能の不足に対しては、ユーザの意見を集約してメインシステムの更新を要求するほうが効率的である。パッケージシステムの使いにくさや価格高騰は、そうした対応ができない図書館の側にも原因の一端がある。
- 図書館をとりまく環境の変化は激しく、電子ジャーナル、機関リポジトリ、Google Book Searchへの対応、レファレンス協同データベースなど、新たな対処を要求される事項が次々と出てくる。必要な機能は早いタイミングの投入が命であるが、往々にしてリース切れに伴うシステム更新を待つほかないのが現状である。他の業界と比較しても、図書館システムの動きはいかにも遅い。
2.オープンソース図書館システム
- 求めるシステムがないなら自分たちで作ろう、という発想のプロジェクトはこれまでにも例があるが、個人ベースのプロジェクトでは限界がある。評価すべきものであっても、自館で一時的に使うシステムにとどまる場合がほとんどで、広がりを持つのは難しい。そこで、オープンソースソフトウェアの精神に沿ったコミュニティの生成を目指す。
- 図書館界におけるオープンソースシステムは、統合図書館システムからちょっとしたTipsまで、海外では数多く開発されている。日本では、日本医師会のORCA(レセプトシステム)など他業界には注目すべき例があるが、図書館業界ではほとんど存在していない。
- 2000年にニュージーランドで開発されたKohaは、代表的なオープンソース統合図書館システムであり、欧米では利用が広がっている。Kohaと代表的な日本の図書館システムを比較したところ、雑誌管理機能と予約機能が弱いが、基本的機能は全て備えていることがわかったので、日本語化プロジェクト(日本語化やMARC取り込み機能など)を実施した。日本語化等は比較的容易に実現できたが、精査によってセキュリティ対応などの面でKohaそのものの脆弱性も明らかとなった。
- 価格の安さや安全性などが利点としてあげられることが多いが、オープンソースでありさえすればこれらが実現するわけではない。あくまでビジネスモデルの転換というだけである。
3.Project Next-L
- 使ってもらえるシステムを作るため、(1)既存のメーカーをあてにしない、(2)プログラムのコーディングはプロに任せる、(3)図書館、ソフトウェア両面で専門家を多数巻き込む、(4)JLA等の専門団体にも協力をお願いする、(5)拙速であっても、結果を早く出す、が重要と考えた。実現のためには、プロがのってくることができるビジネスモデルであること、実験台の側面を持つ初期導入館に過度の負担をかけないこと、が必要である。
- Project Next-Lは、新しい図書館システムの設計を、図書館に関わる人の力を結集して行うプロジェクトである。プロが自信をもって売り込めるための仕様を作成し、また初期導入館が困らないだけの十分なディスカッションを行っていく。
- 具体的には、開発者と図書館の両方が理解できる言語としてUML(Unified Modelling Language)の使用を考えたが、図書館員にはやや敷居が高いことがわかった。若干の方針変更が必要で、もっと大勢の人が書き込みやすい環境を探っている。システム設計の最も重要なところは細かなチェックであり、集中的な起草で大枠を作成したうえで、より広いメンバーの目で細部を練っていくことを考えている。
- 2年間程度で結果を出すことが重要と認識している。2008年度中には、特定館種などの範囲で一定の完成品を出すことを決意している。
<参考> Project Next-L
(記録文責:渡邊隆弘)