整理技術研究グループ月例研究会報告(2007.11)
Web2.0と図書館目録の将来:OPACの進化を中心に
林賢紀(農林水産研究情報センター)
- 日時:
- 2007年11月17日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立浪速人権文化センター
- 発表者 :
- 林賢紀氏(農林水産研究情報センター)
- テーマ :
- Web2.0と図書館目録の将来:OPACの進化を中心に
- 出席者:
- 飯沢篤志(リコー)、石原敏滋(高松市図書館)、一場史行、大場利康(国立国会図書館関西館)、蔭山久子、川崎秀子(佛教大)、河手太士(大阪樟蔭女子大図書館)、久保恭子(元・神戸松蔭女子学院大)、塩見橘子(大阪市立大大学院)、末田真樹子(神戸大学生)、杉本節子(相愛大)、田窪直規(近畿大)、田村俊明(大阪市立大学術情報総合センター)、中川正己(松山大)、則武孝志郎(福井大図書館)、韓相吉(韓国・大林大)、藤原誠(国立国会図書館関西館)、堀池博巳(摂津市施設管理公社)、松井純子(大阪芸術大)、村井正子(日本アスペクトコア)、村上健治(京都大図書館)、吉間仁子(国立国会図書館関西館)、山野美贊子(帝塚山学院大非常勤)、山本知子、吉川直樹(京都府立総合資料館)、吉田暁史(大手前大)、渡邊隆弘(帝塚山学院大) 林<28名>
- 後援:
- アートドキュメンテーション学会関西地区部会、情報知識学会関西部会
農林水産研究情報センターにおける実際の運用もしくは試行を中心に、Web2.0の考え方を生かした目録サービスの新たな展開の可能性について発表された。
1.Web2.0と図書館目録
- Web2.0には明確な定義がなく様々な要素を含むが、図書館サービスの今後を考えるうえでは、ネット上でのコミュニケーション(データの共有や利用者の参加)が重要であろう。一方的な「情報発信」だけではなく、利用者参加型の新たなサービスへの転換が求められる。
- 書誌情報を扱うWeb2.0的なサービスとしては、まずAmazon.comがあげられよう。そこではレビューなどの利用者参加が行われ、またAPIによって書誌情報や書影などが提供されている。後者は「書誌データプロバイダ」ともいえるもので、第三者がこれを活用して付加価値を付けたサービスを展開することを可能にしている。
- 一方OPACは、機能面での進化はあったが、「端末からサーバにアクセスして検索し、結果を受け取る」という基本は変化していない。次世代のOPACでは、書誌情報を「だれでも」「どこでも」利用できるように、APIによって公開することが重要である。司書によってメンテナンスされ、市販されていない資料をも幅広く含む図書館の書誌情報は、「公共財」として開放される価値がある。
2.農林水産研究情報センターの挑戦
- 農林水産研究情報センター(以下、センター)では、既存のOPACのインターフェースに依存せず書誌情報を取得できる環境を構築し、単なる検索サービスから「データプロバイダ」への転換をめざしている。そのためには、汎用性・高可用性を備えたフォーマットでの出力が必要である。
- RSSによるデータ配信は広く行われており、汎用性の高い流通形態である。センターではRSS配信の周知・利用促進と利便性向上を企図して、ポータルサイト(MAFFIN News Feeds Center)を運用している。また、新着雑誌目次のRSSに埋め込まれているDOIなどを利用してOpenURLを生成し、リンクリゾルバへのリンクを生成している。
- OPACからXML形式でデータを出力できれば、利用者側での加工が容易であり、第三者によるサービス構築の可能性が高まる。現在でもWebcat
Plus等の検索結果をGoogle mapを用いて地図上に表示する「所蔵図書館マップ(myrmecoleon氏作成)」などが個人ベースで試みられているが、HTMLによる検索結果の出力を解析することを余儀なくされている。APIによってXMLでの出力がサービスされれば、このようなシステムは格段に作りやすくなる。
- センターでは、APIの整備とXML出力から生まれる新たなサービスについて、いくつかの試みを進めている。例えば、新着図書の書誌情報から形態素解析によってキーワードを抽出すれば、出現頻度を視覚的に表現する「タグクラウド」表示が可能である。既存のOPACで困難だったブラウジング機能を実現する補助的なインターフェースとして利用可能と考えている。また、RSSフィードからプログラムを介してブログへ自動投稿することも可能である。新着図書情報などをブログで提供すれば、コメントやトラックバックが可能であり、既存のOPACでは困難な「感想の共有」を実現できる可能性がある。その他、OPACサーバからRSS2.0形式で検索結果を返す設定を行うことで、横断検索サービスa9.comのOpenSearchにも対応できる。
- OPACを身近にするには、その検索フォームを利用者になるべく近いところに置くという視点も重要である。利用者に「一番近い場所」は究極的には利用者のWebブラウザそのものであろう。そこでセンターでは、GoogleツールバーやFirefoxのアドオンとして、ブラウザ上へのOPACへのリンクや検索フォームの組み込み機能を開発している。このうち、Firefoxのアドオンの一つであるLibXを利用すれば、リンクリゾルバの検索や自動リンク生成も可能である。
3.まとめ:最近の動向と展望
- 10月にリリースされた国立国会図書館のPORTA(デジタルアーカイブポータル)では個々のデータに対するソーシャルブックマークや、OpenSearch等のAPIの実装が行われている。図書館から「データプロバイダ」「デジタルコミュニティ」への変貌の可能性が感じられる。また、最近発行のいくつかの報告書類でも、図書館システムのWebサービス化や相互の連携が取り上げられている。
- 書誌情報をXMLで提供することで、今までにないサービスを提供する可能性が広がる。図書館の目録情報が図書館以外の場で活用される可能性が増大するとともに、「本」を媒介としたコミュニケーション基盤としての役割も期待される。目録情報・書誌情報が「公共財」としての利活用に耐えうるか、が問われているともいえる。
発表資料(PDF形式 3.4M)
参考:林賢紀「Web2.0と図書館サービス」『現代の図書館』45(2), 2007. p.119-123
農林水産研究情報センター
http://ss.cc.affrc.go.jp/ric/home.html
(記録文責:渡邊隆弘)