情報組織化研究グループ月例研究会報告(2008.5)
<服装・身装文化データベース>の概要:
インターフェース、入力規則、統制語彙表を中心として
高橋晴子(大阪樟蔭女子大学)
- 日時:
- 2008年5月17日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪樟蔭女子大学
- 発表者 :
- 高橋晴子氏(大阪樟蔭女子大学)
- テーマ :
- <服装・身装文化データベース>の概要:インターフェース、入力規則、統制語彙表を中心として
- 共催:
- アート・ドキュメンテーション学会関西地区部会、情報知識学会関西部会
- 後援:
- 情報科学技術協会
- 出席者:
- 稲葉洋子(大阪大学図書館)、大場利康(国立国会図書館関西館)、蔭山久子、川崎秀子(佛教大学)、川原亜希世(近畿大学)、光斎重治、斎藤仁夫(科学技術振興機構)、佐藤毅彦(甲南女子大学)、佐藤弘行(佼成出版社)、城下直之(エスオーファイリング研究所)、末田真樹子(神戸大学図書館)、末吉敬子(凸版印刷)、田窪直規(近畿大学)、苗村英幸(堀内カラー)、松井純子(大阪芸術大学)、八木敬子(相愛大学図書館)、山野美贊子(帝塚山学院大学非常勤)、吉川直樹(京都府)、吉田暁史(大手前大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、高橋 <21名>
発表者が約30年にわたって関わってきた身装情報のドキュメンテーション、データベース(以下、「DB」)構築について、デモも交えて発表された。
1.身装情報のドキュメンテーション:その草創期
- 「身装」とは、衣服やアクセサリーといったアイテムそのものに加えて、各種アイテムを身体につける行為、化粧をする行為、身体と外見についての意識、さらにはこれらを支える社会的背景・現象までを含んだ概念である。
- 大阪樟蔭女子大学で、大丸弘氏(現・国立民族学博物館名誉教授)が中心となり、発表者も関わって「衣料情報室」が設置されたのは1975年である。その目的は、身装に関する国内外の資料の組織的収集、資料(文献・標本・画像など)の整理・加工・利用・提供に関する研究、関連情報の学内外への提供サービス、学生への関連情報利用教育などであった。
- 資料の組織的収集を開始した。国内では、家政学分野の文献だけでなく、企業の調査研究も重視して収集した。国外では、パリ国立図書館(現・フランス国立図書館)、パリ装飾美術館図書室、英国図書館などで、資料の存在の発掘につとめた。この際、パリ国立図書館における件名目録の整備や非図書資料の情報加工を実地に見聞し、大きな刺激を受けた。
- 1977年には、身装文献の抄録索引誌である『衣料情報レビュー』を創刊した。大学等の研究紀要および学会誌1,300誌、商業雑誌約300誌を索引対象とし、大学等研究紀要については著者抄録をも収録した索引誌である。年間約3,500件を収録し、年2回の発行を2000年まで続けた(以降はDBに)。
2.MCD(服装・身装文化DB)の四半世紀
- 民博では1984年から、大阪樟蔭女子大学と協力して、身装情報のDB化に関わる研究を開始した(大丸氏が1979年に民博に異動)。MCD(Minpaku Costume Database)プロジェクトとして現在も活動を続け、成果は「服装・身装文化(コスチューム)DB(以下、「身装DB」)」として一般公開している。2007年10月現在のデータは総計250,000件である。7本のファイルから成るが、大きくは「身装文献DB」(約114,000件)と「衣服・アクセサリーDB」(約136,000件)に分けられる。
- 身装文献DBは、日本語雑誌記事(1880〜1945、1967〜)、日本語図書(1868〜)、外国語雑誌記事(1930〜1980)、外国語民族誌のデータからなる。日本語雑誌記事情報は、『衣料情報レビュー』(1977〜2000年)収録情報に新着分、遡及分を加えたものである。日本語図書情報は、明治期以降の図書について国会図書館等で調査を行い、専門図書のみならず一般図書の一部を占める身装関係記述をも抽出したものである。標準的な書誌事項に加えて、地域、時代、専門分類、身装概念コードなどの分析項目を入力し、検索可能としている。
- 衣服・アクセサリーDBは、民博の標本資料を中心とする「アイテム」を対象とするもので、地域名・現地名などの他に、標準衣服名などの分析項目を入力している。
- 個別のDBの検索に加えて、人間文化研究機構「研究資源共有化DB」による横断検索も可能となっている。また、同機構ではDB定義からウェブ公開までをサポートする集中型システムnihu-oneも構築しており、この環境での検討(試用)も行っている。
3.身装概念のコード化
- 『衣料情報レビュー』以来、体系的な分類や概念コードの作成・付与に力を入れてきた。身装研究の推移を先取りして、独自に作成したものである。
- 1977年に「服装専門分類表」を作成した。アイテムとその「流れ」(物流、デザイン、技術など)の二軸で文献を整理するものである。家事技術の「被服」から産業としての「衣料」、という研究動向に対応したものであった。
- 1985年に「身装概念コード表」を作成した。社会心理、文化論としての身体論的観点という研究動向にも対応して、関連概念を収録して階層関係、関連関係を示したものである。とりあげる概念は、実際に出現した、実用的なものを尊重した。文献のタイトル等に現れた語を素材としたほか、各種の件名標目表等も参考にして構築した。標準的なシソーラスと異なる点は優先語を定めなかったことである。各概念はアルファベットと数字からなる記号で識別され、同義語を並列的に列挙する形をとる。
- 標本資料(アイテム)については、「MCD標本シソーラス」を作成した。形態・標準衣服名・布地特性・構造技術の各側面からなるものである。
- 近年は、近代日本の身装画像(挿画や写真)に関する研究を行っている。その過程で、2003年に「身装画像概念コード表」を作成した。景観や屋内などの背景情報(ポジション1)、からだの問題と着装態様(ポジション2)、衣服等のアイテム(ポジション3)の三軸で分析を行うものである。
4.おわりに
- 多くのDBは専門研究者とコンピュータ技術者によって構築され、図書館員やドキュメンタリストは関係していないことが多い。身装DBでは発表者がドキュメンタリストとして関わってきた。研究者とドキュメンタリストの間には志向や考え方の違いがあるが、相互に補完しあってDBが構築されてきた。
- 約30年にわたり、科学研究費補助金や民博の研究予算によって、研究レベルでDBを構築してきた。しかし、DBは成長すればするほど手がかかり、特定の研究者がいつまでも面倒を見ていけるものではない。身装DBはいま、研究DBから事業DBへ移行しようとしている。著作権・所有権などの問題はあるが、必然のことと考えている。。
- 参考:国立民族学博物館「服装・身装文化(コスチューム)DB」
- http://htq.minpaku.ac.jp/databases/mcd/
(記録文責:渡邊隆弘)