情報組織化研究グループ月例研究会報告(2008.6)
図書館目録をめぐる最近の動向:
勉強会報告を中心に
吉田暁史(大手前大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)
- 日時:
- 2008年6月14日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立浪速人権文化センター
- 発表者 :
- 吉田暁史氏(大手前大学)、渡邊隆弘氏(帝塚山学院大学)
- テーマ :
- 図書館目録をめぐる最近の動向:勉強会報告を中心に
- 出席者:
- 石定泰典(神戸大学図書館)、一場史行、伊藤祥(科学技術振興機構)、猪俣裕子(システムズデザイン)、江上敏哲(国際日本文化研究センター)、川崎秀子(佛教大学)、北野康子、久保恭子(元・神戸松蔭女子学院大学)、佐藤毅彦(甲南女子大学)、塩見橘子(大阪市立大学大学院)、新谷祐香(千里文化財団)、末田真樹子(神戸大学図書館)、杉本節子(相愛大学)、高城雅恵(大阪大学図書館)、堀池博巳(摂津市施設管理公社)、松井純子(大阪芸術大学)、村井正子(日本アスペクトコア)、村上健治(京都大学図書館)、山野美贊子(帝塚山学院大学非常勤)、山本知子、吉川直樹(京都府)、和中幹雄(国立国会図書館関西館)、吉田、渡邊<24名>
情報組織化研究グループでは、前年度に引き続いて「図書館目録の将来設計」を年間テーマとし、月例研究会に加えて、最近の関連文献を輪読する勉強会活動も行っている。今回は、勉強会報告に別途の情報整理も含め、国内外の最近の動きを概観する内容であった。なお、各回の勉強会報告はグループWWWサイトに掲載している(→勉強会報告一覧)。
◆図書館目録をめぐる最近の動向−2007年からの1年半(渡邊)
2007年及び2008年前半の、図書館目録をめぐる内外の動きを概観した。
1.書誌コントロールの将来
- 国立国会図書館で「書誌データの作成・提供の方針(2008)」が策定・公開されている。書誌データの見直しや検索システムの向上などが方針として掲げられ、概ね5年間を対象とした具体的施策も列挙されている。
- OCLCには各国からの大規模な参加・データ提供が相次ぎ、データベースは拡大している。また、xISBN(FRBR化情報のAPI提供サービス)やWorldCat Local(参加機関向けカスタマイズサービス)など、サービス面でも拡大が見られる。
- 国立情報学研究所(NII)では「次世代目録WG」においてNACSIS-CATの将来を検討しており、2008年3月には「中間報告」が出された。情報環境が大きく変化しているとの認識のもとに、電子情報資源に対応する新しいシステム、書誌データとデータ構造の見直しの必要性、Web APIによるデータ提供の検討、運用体制の抜本的見直しの必要性、などが述べられている。
2.OPACと検索システムの改良
- 2006年ごろから米国を中心に次世代OPACについて実践や実験が重ねられ、標準的な方向性は固まりつつあるように思われる。すなわち、レレバンスランキング、FRBR化、ファセットクラスタリング、利用者参加、などである。さらに、オープンソースの新しいOPACシステム開発や、各機関での様々な試みがある。
- 国内では、2007年秋に登場した国立国会図書館のPORTAが注目を集めた。また、実践女子大学や市川市立図書館などで、青空文庫等のオープンな電子リソースをOPACに取り込む動きがある。
3.目録標準の動向
- IFLA書誌調整部会の管轄事項では、「国際目録原則」の策定が終盤にさしかかっている。また、ISBD「予備統合版」の刊行など他にもいくつかの動きがあった。
- AACR2を全面改訂する新規則RDA(Resource Description and Access)の策定については、他のメタデータ標準との接合を意識してダブリンコア(DCMI)関係者との協働の枠組みが作られ、作業が進められている。また、2007年10月には、従来の2部14章構成を全面的に見直して10セクション37章に再構成することが決定された(2009年刊行予定は不変)。
- NCR、NDC、BSHといった国内の諸ツールについては、各委員会で検討が重ねられているが、目に見える成果物の形にはなっていない。
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レジュメ(渡邊)(PDF)
◆「書誌コントロールの将来に関する米国議会図書館ワーキンググループ最終報告」輪読報告(吉田)
この領域での最近の最大の話題といえる上記文書について、勉強会の報告を行った。
1.経緯と概略
- LCにWGが設置されたのは、2006年11月のことである。2006年は、LCSHの廃止などを提言した「カルホーン報告書」が議論を呼び、またシリーズ典拠の廃止問題でLCの書誌コントロールに関する姿勢が問われた年である。約20名の委員によるWGは、3度の公開ミーティング等を経て、2008年1月に報告書 On the Record (http://www.loc.gov/bibliographic-future/news/lcwg-ontherecord-jan08-final.pdf)を発表した。
- 報告書は、Introduction、Background、Guiding principles、Findings and recommendations という構成となっている。勧告部分は5領域に分けられ、LCだけでなく多方面に向けた具体的勧告が列挙される形となっている。
2.報告書の状況認識(Background等から)
- LCは米国の書誌コントロール活動に大きな役割を果たしてきたが、本来「国立図書館」としての法的な地位を与えられていない。いわば「自発的」な活動であって今後も持続できるものではない、との認識が根底にある。
- Webを通じて様々な情報資源がアクセスされる時代には、コミュニティを越えて、異なる環境の間の関係を構築することが重要である。図書館目録のように、単一の環境の中での記述の一貫性を追求する重要性は薄れてきている。
- これからの書誌コントロール活動は、分散的なものとして捉えられるべきである。共同目録作成計画(PCC)等の活動が、より拡大されるべきである。
- 従来公共財と考えられてきた情報アクセスは、経済活動を行う機関にとって利益を生み出す商品となってきた。そうした機関との共同分担が重要である。
3.勧告の考察
- 「書誌レコード作成および維持における効率性向上」として、重複作業の排除(出版社メタデータの活用、CIPプロセスの自動化など)、書誌・典拠レコードに関わる責任分担の分散拡大が勧告されている。
- 効率化によって生み出された余力も用いて、「貴重資料、唯一資料、その他特殊な資料へのアクセス向上」の推進が勧告されている。
- 次いで「将来的な技術の位置づけ」として、MARCフォーマットの見直しやRDA開発の見直し(一時中止)などが勧告されている。
- 「将来的な図書館コミュニティの位置づけ」として、従来の目録を越えたデータ(主観的情報を含む)、FRBRの実現、LCSHの最適化、等が勧告されている。発表者は、従来の目録はあまりにも伝統的な事項にとらわれすぎてきたと考えている。コンピュータ目録普及後も、目次や抄録が正式に位置づけられることはなかった。
- FRBRについては、まず著作レベルのクラスタリングを実現するとの勧告となっているが、範囲を明確に絞り込めない著作よりは、内容の同一性を識別する表現形レベルが重要ではないだろうか。例えば目次を入力して比較すれば、ほぼ機械的に同定できるのではないか。
- LCSHについては主題ストリングの分解(すなわち事後結合化)等が勧告されている。これについては事前/事後結合方式の得失を考察した報告書も最近出ているが、方向性ははっきりしない。発表者は、ストリング索引は基本的にページ印刷型の機能であり、これを固守してきたことが個々の概念の把握や階層関係の管理に大きな問題をもたらしてきたと考えている。
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レジュメ(吉田)(PDF)
(記録文責:渡邊隆弘)