情報組織化研究グループ月例研究会報告(2008.7)
国立国会図書館の書誌データの今後:
新方針を策定して
中井万知子(国立国会図書館)
- 日時:
- 2008年7月19日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立浪速人権文化センター
- 発表者 :
- 中井万知子氏(国立国会図書館収集書誌部司書監)
- テーマ :
- 国立国会図書館の書誌データの今後:新方針を策定して
- 出席者:
- 伊藤祥(科学技術振興機構)、猪俣裕子(システムズデザイン)、上田洋(大阪市立大学大学院)、上野芳重、上村孝子(大阪大学図書館)、江上敏哲(国際日本文化研究センター)、奥田倫子(国立国会図書館関西館)、蔭山久子、門昇(大阪大学)、川瀬綾子(大阪市立大学大学院)、北克一(大阪市立大学)、北野康子、久保恭子(元・神戸松蔭女子学院大学)、塩見橘子(大阪市立大学大学院)、篠田麻美(国立国会図書館関西館)、末田真樹子(神戸大学図書館)、杉本節子(相愛大学)、高城雅恵(大阪大学図書館)、田窪直規(近畿大学)、藤原誠(国立国会図書館関西館)、堀井睦(大阪市立大学大学院)、松井純子(大阪芸術大学)、明星恭子、八木敬子(相愛大学図書館)、山野美贊子(帝塚山学院大学非常勤)、山本知子、吉川直樹、吉田暁史(大手前大学)、吉野敬子(田辺三菱製薬)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄(国立国会図書館関西館)、中井<32名>
本年策定された「国立国会図書館の書誌データの作成・提供の方針(2008)」(以下、「新方針」)について、策定にいたる背景や今後の問題点等も含めて発表された。
1.NDLの書誌60年:方針を遡る
- 書誌サービスという観点から、国立国会図書館(以下、NDL)の60年を顧みて、4期に整理してみる。1948年制定の国立国会図書館法で、納本制度と全国書誌、書誌データの頒布、総合目録といった国立図書館としての仕掛けの根拠が与えられた。印刷カードの頒布や『全日本出版物総合目録』などが開始された1960年代までの時期を第1期とする。
- 1970年代〜1980年代の第2期においては、機械化が大きく進展した。70年代の業務機械化や1981年のJAPAN/MARC頒布等である。また、全国書誌の位置づけの整理もこの時期のことである。
- 1980年代〜1990年代の第3期は定着の時期であり、遡及入力の推進や典拠ファイルの整備などが行われた。一方でこの時期にはNACSIS-CATや民間流通MARCの進展が急であった。また、NDLにおける電子図書館構想や総合目録ネットワーク事業も1990年代にはじまる。
- 2000年以降の第4期は、インターネットの本格的な活用が進められた。Web-OPACの提供や雑誌記事索引の公開が行われ、2007年公開のPORTA(デジタルアーカイブポータル)のようなさらに広い動きもあった。また、2002年の組織再編で「書誌部」が発足し、書誌コントロール業務を一元的に扱えるようになったことも大きい。
2.新方針の背景
- 書誌部発足後の2002年に定めた「書誌部中期行動計画」(5カ年の部内計画)の計画期限が満了となった。2008年4月には書誌部が収集部と統合されて「収集書誌部」に再編されることもあり、2007年度中の新方針策定が求められた。また、NDL60周年にあたって策定されたNDL全体のビジョン(長尾ビジョン)を具体化するという目的もあった。
- Google等のウェブ検索サービスの発達、Web2.0の潮流、デジタルアーカイブの進展、といった情報環境の大きな変化が進んでいる。新たな情報環境のもとで図書館目録はどのような役割を果たしていけるのか、コスト削減圧力等も含め「目録の危機」に対応していく必要がある。
- 新方針策定にあたっては、2007年4月に方針策定班を設置し、内外の動向調査を踏まえて案を練っていった。NDL内での意見聴取、「書誌調整連絡会議」への提示、パブリックコメント募集を経て、2008年3月末に決定、5月に公開した。従来のような部内計画ではなく一般公表することとし、そのためには簡潔で明瞭な文章を心がけた。
3.新方針のあらまし
- まず「国立国会図書館の書誌データ」と題して、その役割・要件と現状認識を述べている。役割については、提供の観点を重視して述べている。要件としては、信頼できる品質、資料・情報へ導く確実性、入手可能性、二次利用の活用性、を挙げている。そのうえで現状の問題点として、(1)書誌データの範囲(全国書誌としての収録範囲やネットワーク情報資源の扱いなど)、(2)提供するプロダクツ(JAPAN/MARC等)としての書誌データ(需要の減少や迅速性の問題など)、(3)NDLの所蔵資料の検索手段としての書誌データ(OPACの改良等を進めているが不十分さも)、(4)ウェブ上の情報サービスと書誌データ(集合知の活用など)、を挙げている。
- ついで「方針の設定」と題して、(1)データの開放性の向上、(2)情報検索システムの機能向上、(3)電子情報資源を含む多様な対象へのシームレスなアクセス、(4)書誌データの有効性の向上、(5)書誌データ作成の効率化・迅速化、(6)外部資源、知識、技術の活用、の6方針を揚げている。
- さらに「具体策」と題して、概ね5年間を対象とする具体方策(約30項目)を7つのカテゴリーに分けて列挙している。すなわち、(1)書誌データ提供の改善(ダウンロードやAPI公開など)、(2)情報検索の改善(内容情報の充実やナビゲーションの改善など)、(3)多言語対応(ユニコード対応など)、(4)書誌データと所蔵電子情報のリンク(雑誌記事索引と記事本文のリンクなど)、(5)横断的な検索(デジタルアーカイブや契約電子ジャーナルなど)、(6)書誌データの新しい基準及び枠組みへの対応(NCR改訂への協力やMARC形式の見直しなど)、(7)外部資源の導入・協力(外部MARCの導入など)、である。最後に今後の「進め方」を述べている。
4.これからの工程といくつかの論点
- 新方針の「進め方」では、2008年度から、列挙した具体策を中心に実現可能性、内容、時期等を精査するとしている。現在、ロードマップ作りを開始しているところである。
- 2008年度に実現する方策としては、外部MARCデータの導入、雑誌記事索引の新着情報配信、NDL-OPACの若干の機能改善(簡略データのダウンロード機能など)がある。これらは昨年度から検討していたもので、現行のシステム改修の枠内で実現を予定している。ただ、ダウンロード機能等はデータ提供に関わる内部規定との関係を調整する必要がある。
- 2011年に想定される次期システムでは、統合図書館パッケージの導入、多言語対応、情報検索・提供機能の改善、電子情報との連携、などを考えていく。一方で、業務やデータフォーマットの見直しも必要と考えている。
- 新方針は書誌データの機能に着目していくつかの具体策をあげているが、書誌サービスの全体像をはっきりさせる必要がある。全国書誌、蔵書目録(NDL-OPAC)、総合目録(総合目録ネットワーク)の関連づけと一体的なサービスが求められる。特に、これまで全国書誌と総合目録は切り離されて存在してきたが、納本制度が完全無欠ではない現状を考えれば、総合目録の範囲こそが真の「日本全国書誌」だという考え方もありうる。また、総合目録ネットワークも現状の集中型か分散型(統合検索)かという選択肢があり、これも次世代の全国書誌のあり方に影響を与える。
- 書誌調整の側面も重要である。国際的な標準化が進展する中で、NCR等の基準の改定に継続的に対応していきたい。関心を共有するコミュニティの弱まりへの対処が必要である。
その後の質疑では、PORTAとNDL-OPACとの関係、総合目録ネットワークの将来像(特に全国書誌との関係)、雑誌記事索引の強化の可能性、等について活発なやりとりがあった。
- 参考:
- 当日の配布資料(PDF)
国立国会図書館「書誌データの基本方針と書誌調整」http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/kihon.html
(記録文責:渡邊隆弘)