情報組織化研究グループ月例研究会報告(2009.10)
EAD,EAC,EAG,そしてDACS
アーカイブズ情報の共有・交換は実現するか
五島敏芳氏(京都大学総合博物館)、
坂口貴弘氏(国文学研究資料館)
- 日時:
- 2009年10月17日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立浪速人権文化センター
- 発表者 :
- 五島敏芳氏 (京都大学総合博物館)、坂口貴弘氏 (国文学研究資料館)
- テーマ :
- EAD,EAC,EAG,そしてDACS:アーカイブズ情報の共有・交換は実現するか
- 出席者:
- 石道尚子、大場利康(国立国会図書館関西館)、川崎秀子(佛教大学)、川畑卓也(奈良県立図書情報館)、古賀崇(京都大学図書館研究開発室)、塩見橘子、清水善仁(京都大学)、末田真樹子(神戸大学図書館)、杉本節子(相愛大学)、田窪直規(近畿大学)、谷航、鳥谷和世(神戸大学図書館)、平松晃一、堀池博巳、松井純子(大阪芸術大学)、村井正子(日本アスペクトコア)、村上健治(大阪大学図書館)、村上泰子(関西大学)、横谷弘美(大手前大学図書館)、吉川直樹(元・京都府)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、五島、坂口<23名>
- 後援:
- 記録管理学会、情報知識学会関西部会
アーカイブズの記述標準のうち、図書館の世界でいうとMARCフォーマットにあたるデータ構造(符号化記述)の標準(EAD, EAC, EAG)について五島氏から、目録規則にあたるデータ内容の標準(DACS)について坂口氏から、発表があった。
1.EAD, EAC, EAGの概要(五島敏芳)
1.1.はじめに:なぜEADなのか?
- アーカイブズとは、組織体や個人の活動に関わる記録のうち、活動の証拠としての価値により永久保存された記録を指す。こうした性格から、資料管理においては一体性(出所)や原秩序が尊重されてきた。
- 原秩序を尊重するため、アーカイブズ資料は階層構造モデルでとらえられる。すなわち、何らかの機構単位の第1レベル(fond、collection等と呼ばれる)、業務種別など機能単位の第2レベル(series等と呼ばれる)、実物を識別する第3レベル(file)及び第4レベル(item)である。
- 膨大な下位レベルを最初からすべて記述することは困難なため、上位レベル(群単位)の記述をまず作成し、必要に応じて下位レベルの情報を追加していくのが一般的である。
- アーカイブズの記述レコードは複数レベルの記述データによる階層構造(入れ子構造)を表現できるものでなくてはならない。すなわち「マルチレベル記述」が求められる。マークアップ言語(最初はSGML、後にXML)の出現により、マルチレベル記述を実現する道が開けた。
1.2.EAD(符号化永久保存記録記述)
- EAD(Encoded Archival Description)は、アーカイブズ資料の記述をSGML/XMLを用いて符号化する標準である。1998年に第1版が作られ、現行版は2002年版(第2版にあたる)である。
- EADはデータの構造・形式の標準である。意味的側面を扱うISAD(図書館界のISBDにあたる)が一方にあり、これを意識している。
- 上位レベルから下位レベルまでを包含した、入れ子構造の表現ができることが特徴点である。
1.3.EAC(符号化永久保存記録脈絡)
- EAC(Encoded Archival Context)は、アーカイブズの典拠レコードを符号化するための標準である。EADと同様、データの構造・形式の標準であり、対応する意味的側面の標準ISAAR(CPF)がある。
- アーカイブズの作成者である団体・個人・家の記述を扱う。データ構造は平板であって、複数の団体・個人・家相互の関係を階層的に表現しない。
- 2009年にいたって、新標準EAC-CPFの策定が行われ、EACは廃止された。EAC-CPFでは、EADシリーズ標準としての共通的要素名からの脱却など、大きな変更が行われている。
1.4.EAG(符号化永久保存記録機関便覧)
- EAG(Encoded Archival Guide)はアーカイブズ資料収蔵者のデータを扱う標準であり、EAD,EACと共通の要素・構成をもっている。
1.5.おわりに
- EAD等は構造・形式の標準であり、内容面の品質を担保することはできない。内容面の品質を揃えるには、DACSのような別途の標準が必要である。
2.米国におけるアーカイブズ記述規則:AACR2との関係を中心に(坂口貴弘)
2.1.はじめに:アーカイブズ記述とは
- アーカイブズ記述には、基本的な記述単位が個別資料ではなく集合体であること、資料自体からは得られない情報が多いこと、資料が作成・管理された背景の記述が重要であること、といった特徴がある。なお、アーカイブズ界における「記述(description)」の語は資料についての情報を分析・組織化・記録するプロセスの総称であり、図書館界での用法よりも広い意味合いで使われる。
2.2.DACS制定の経緯
- AACR2には手稿を扱う章があったが、資料の基本的性質を無視した規則だとしてアーカイブズ界では受入れられなかった。米国では1983年に、AACR2の構成・内容を援用しながらアーカイブズ学的考え方を組み込んだ規則APPMが作成され、英国やカナダでもそれぞれ標準記述規則が作られた。1994年にはISADも制定された。
- こうした動きを受けて、米国とカナダで共通の記述規則策定の動きが起こり、2004年にDACS(Describing Archives: a Content Standard)が制定された。
2.3.DACSの構成と内容:AACR2との比較
- 「第1部 アーカイブズ資料の記述」「第2部 作成者の記述」「第3部 名称の形」の3部構成である。第1部で資料自体の記述を扱う点はAACR2と同じであるが、対象メディアごとの規則は設けず記述要素別の章立てとなっている。個人名・地名・団体名の形を扱う第3部に先行して「作成者の記述」を扱う第2部を設けていることも特色である。全体として、APPMよりもAACR2との差異が大きい。
- 第1部では25の記述要素を7エリアに区分している。ISADとの対応性が高い一方、AACR2と明らかに対応するのはタイトル・日付・数量・注記の4要素のみである。
- DACSにおけるタイトルは、一般的には、資料の作成等を担った個人・家・団体の名称に記述単位の性質を示す語(records, papersなど)を加えたものである。「転記の原則」を持つAACR2とは大きく異なり、補記タイトルが通常である。
- 日付に関する規定をAACR2と比較すると、角カッコや略語を用いないこと、期間(日付の範囲)に関する規定が豊富なこと、などの特色を持つ。
2.4.おわりに
- 米国では、アーカイブズ界と図書館界は親密な関係にある。例えばアーカイブズが図書館の一部門となっている場合が多く、アーキビスト教育課程も約半数が図書館情報学専攻に属している。
- わが国ではNCR1987年版改訂版で「書写資料」(第3章)の章が作られたが、写本・手稿が中心で、文書・記録類は事実上対象外とされている。図書中心の目録法に組み込まれることへの伝統的な警戒感もあり、アーカイブズ独自の整理・記述法の標準化は進んでいない。
- アーキビストとしては、目録規則の標準化と普及に至る過程、諸外国の規則と日本独自の規則との関係、などを図書館界から学びたい。
発表後、図書館目録との目的の違い、「原秩序」と階層構造のとらえ方、アクセスポイントの範囲等について活発な質疑応答があった。
- 発表資料(全てPDF)
- 五島氏:レジュメ(650K)、付表(600K)、プレゼン(2350K)
- 坂口氏:レジュメ(140K)、プレゼン(170K)
(記録文責:渡邊隆弘)