情報組織化研究グループ月例研究会報告(2010.4)
統制形データの概念モデル(FRADとFRSAD)の概要について
和中幹雄(同志社大学)
- 日時:
- 2010年4月24日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 東大阪市立市民会館
- 発表者 :
- 和中幹雄氏(同志社大学)
- テーマ :
- 統制形データの概念モデル(FRADとFRSAD)の概要について
- 出席者:
- 石定泰典(神戸大学図書館)、川崎秀子(佛教大学)、川畑卓也(奈良県立図書情報館)、佐藤久美子(国立国会図書館)、佐藤毅彦(甲南女子大学)、塩見橘子(立命館大学非常勤)、杉本節子(相愛大学)、田窪直規(近畿大学)、田村俊明(紀伊国屋書店)、堀池博巳、松井純子(大阪芸術大学)、村井正子(日本アスペクトコア)、村上健治(大阪大学図書館)、山野美贊子(帝塚山学院大学非常勤)、横谷弘美(大手前大学図書館)、吉田暁史(大手前大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中<18名>
今後の典拠コントロールの基礎となる概念モデルである、FRAD及びFRSADについて発表された。
1.FRAD(典拠データの機能要件)
- 1999年、IFLA書誌調整部会はFRANARワーキンググループを発足させた。同WGの検討課題は、典拠レコードの機能要件の定義、ISADN(国際標準典拠データ番号)の実現可能性の研究等であった。
- 当初はFRAR(典拠レコードの機能要件)と呼ばれていたが、2005年に実施された草案公表・意見募集の過程で、モデルを作成し概念化する対象はあくまで「典拠データ」であるとして、名称を変更した。その後の検討を経て、FRADは2009年に刊行され、現在までに英語版に加えて中国語版、スペイン語版が公開されている。
- FRADはFRBR(書誌レコードの機能要件)を拡張するものである。FRBRには3グループの実体が定義されているが、詳細なモデル化は第1グループ(著作〜個別資料)についてしか行われていなかった。第2,3グループ、すなわち「典拠レコードに通常記録される付加的なデータ」について、FRBRと同様の実体関連分析の手法を用いてモデル化を行ったのがFRADである。ただし、主題に関わる第3グループについてはFRSADで別途定義されることとなった。
- 典拠データの利用者は、データ作成者とデータ利用者(図書館職員、一般)に大別されている。利用者タスクとしては、FRBRと同じfind,identifyに続けて、実体を文脈に当てはめて関連を明らかにするcontextualize、データ作成者が名称や形式を選んだ理由を文書化するjustifyが定義されている。
- FRBRは10個の「書誌的実体」を定義しているが、そのうち第2グループの二つの実体「個人」と「団体」に加えて「家族」が追加定義され、書誌的実体は11個となった。加えて、書誌的実体を表す「名称」「識別子」とそれらを基盤として作られる「統制形アクセスポイント」、典拠作業の基礎となる「目録規則」「データ付与機関」が、関連する実体として定義されている。
- 書誌的実体に対応する統制形アクセスポイント作成の流れがハイレベルの関連として示されている。また、個人・家族・団体・著作の相互の関連、それらの名称間の関連、統制形アクセスポイント間の関連も、各種のものが定義されている。
2.FRSAD(主題典拠データの機能要件)
- FRANARに続いて、2005年にFRSARワーキンググループが発足した。検討課題は、主題に関わる実体の概念モデルの構築などである。2009年6月にFRSADのドラフト第2版が公開され、意見募集が行われた(8月に終了)段階である。
- 著作と主題の関連(aboutness)をどのようにカテゴリー化するかについて、いくつかのシナリオが検討された。FRBRの第3グループを受け入れるもの、ランガナタンのPMESTを実体とするもの、Eコマース分野のを基礎とするもの、などである。
- しかし、検討の結果ドラフト第2版では、抽象的ではあるが実践に制約条件を課さない方式として、主題のカテゴリー化に関する勧告は行わないというシナリオが採用された。このため新たな実体として定義されたのは、「著作」の主題として使用される「thema」とそれを表す記号列である「nomen」のみである。thema間の関連として階層的関連や連想的関連などが、nomen間の関連として等価関連などが定義されている。
- 主題典拠レコードの潜在的利用者として、メタデータ作成者、レファレンス担当者等、統制語彙作成者、エンドユーザーが挙げられている。利用者タスクとしては、find,identify,select,exploreが定義されている。exploreは目録作成時に用語間の関連を調査・探索するタスクを指す。
3.ISADNの実現可能性とVIAF
- FRANARは、FRADと並ぶ検討課題であったISADN(国際標準典拠データ番号)について、2008年に勧告を行った。内容は、IFLAはISADNの考え方をこれ以上追求せず、ISNIやVIAFなど他で行われている活動を注視すべきとするものである。
- VIAF(バーチャル国際典拠ファイル)は、複数の国立図書館の典拠ファイルをマッチングさせリンクさせ、その情報をウェブ上で利用可能とするプロジェクトであり、OCLCが主催・実行している。米国とドイツの国立図書館が参加してはじまったが、現在では14カ国の典拠データがマッチングされている。
発表後、「典拠レコード」ではなく「典拠データ」に変更した名称の意味合い、統一標目の位置づけ、利用者の多様性と利用者タスク、「家族」実体の位置づけなどについて、質疑応答があった。
なお、本研究会は、科学研究費補助金基盤研究(C)「情報環境の変化に適切に対応する目録規則の在り方に関する研究」(課題番号:22500223)の研究会を兼ねて開催された。
- 参 考:
- 和中幹雄「目録に関わる原則と概念モデル策定の動向:動向レビュー」『カレントアウェアネス』303, 2010.3 http://current.ndl.go.jp/ca1713
(記録文責・渡邊隆弘)