情報組織化研究グループ月例研究会報告(2010.5)

情報組織化をめぐる最近の動向

渡邊隆弘(帝塚山学院大学)


日時:
2010年5月15日(土) 14:30〜17:00
会場:
大阪市立市民交流センターなにわ
発表者 :
渡邊隆弘氏(帝塚山学院大学)
テーマ :
情報組織化をめぐる最近の動向
出席者:
江上敏哲(国際日本文化研究センター)、大場利康(国立国会図書館)、川瀬綾子、河手太士(静岡文化芸術大学図書館)、川畑卓也(奈良県立図書情報館)、佐藤久美子(国立国会図書館)、塩見橘子(立命館大学非常勤)、田窪直規(近畿大学)、谷航、槻本正行(神戸松蔭女子学院大学)、服部繁彦(愛知県図書館)、堀池博巳(大阪芸術大学非常勤)、米谷優子(園田学園女子大学)、松井純子(大阪芸術大学)、村井正子(日本アスペクトコア)、村上浩介(国立国会図書館)、村上幸二(奈良学園登美ヶ丘ライブラリー)、山野美贊子(帝塚山学院大学非常勤)、山中秀夫(天理大学)、吉田暁史(大手前大学)、渡辺斉志(国立国会図書館)、和中幹雄(同志社大学)、渡邊<23名>

 図書館目録に関する最近の動向と変革を目指す議論の焦点を整理する発表であった。

1.図書館目録「変革」の背景

 インターネットの発展の中で、ネットワーク情報資源の爆発的増大を背景として様々なシステムが登場して「検索」が身近なものとなったこと、またネットビジネスの普及を背景として様々なメタデータ(出版物においては書誌データ)がネット上に露出されるようになったことによって、図書館目録はシステム面でもデータ面でも競争環境にさらされるようになった。また、いわゆるWeb2.0環境下では、シームレスな情報流通とシステム連携に高く評価されるが、図書館目録は長い歴史があるぶんオープンな標準化という視点が欠けている。

 今後の目録は、他のシステムとの競争(差別化)のための「付加価値性」と、他のシステムとの連携のための「開放性」をともに追求していかなくてはならない。

2.目録サービスの変革

 2006年ごろに北米ではじまった「次世代OPAC」の動きは、世界的に急速な広がりを見せている。明確な機能定義はないが、簡単な検索画面やレレバンスランキングなどウェブ環境下にある利用者の期待に沿ったユーザビリティを備えるとともに、ファセット型ブラウジングやFRBR化表示など図書館目録の持つ付加価値性をアピールできるシステムという志向ももっている。他地域に比べ大きく立ち遅れた状況にあった日本でも、2010年に入って慶應大、筑波大などようやく本格的導入例が現れてきた。

 RSSやWeb APIなどによる目録データの外部開放も進んでいる。例えばOCLC WorldCatは、参加館向けの提供を経て、2009年12月には一般開放を開始している。目録データの視認性向上が期待でき、データの付加価値性をアピールするものといえる。

 一方、AmazonのAPIを利用しながら全国の公共図書館の所蔵検索を単一システムで行う「カーリル」(2010.2)など、図書館界の外側でのシステム創成も行われており、図書館目録の付加価値性をどこに見出すかが問われている。

3.書誌コントロール政策、目録業務の変革

 書誌コントロールの将来をめぐっては、米国議会図書館(LC)によるOn the Record(2008.1)が、外部データの活用による効率化、目録作業に関わる協働の推進、ユニークコレクションの可視化の重視などを唱え、北米の図書館界では重要な指針文書となっている。また、OCLCは各国の国立図書館等のデータの取り込み、各種データベース等との連携、クラウド版図書館システム構想の発表など、積極戦略をとっているが、一方でWorldCatデータの利用・再配布ポリシーをめぐる議論が2008年秋以来続きまだ結論をみていない。

 日本では、2008年に国立国会図書館が「書誌データの作成・提供の方針」を公表した。本方針に沿ってOPACの改善や記述作成業務への民間MARCデータの活用などが進められたほか、最近になって2012年からのMARC21データフォーマット採用が表明されている。一方国立情報学研究所では、2009年に「次世代目録所在情報サービスの在り方について」を発表したが、中期的な考察を中心としており具体的対応はこれからである。また、2010年2月に日本図書館協会が「JAPAN/MARCによる書誌データの一元化」を提言する文書を出している。

 焦点をあげるとすれば、「図書館外のメタデータの活用」と「集中と分散のバランス」であろう。前者は米国でも日本でも強調されているが、後者については米国が責任分散を志向する一方、日本は集中化を志向しているという違いがみられる。

4.目録法の変革(目録規則を中心に)

 現在の目録法の基本的な枠組みは1960〜70年代に確立されたもので、対象資料と情報組織化環境の両面で進むデジタル化・ネットワーク化への対応のために抜本的な見直しが必要と言われて久しい。さらにはOPAC高度化要求(目録データの付加価値性の向上)、メタデータの相互運用性(目録データの開放性の向上)といった視点も重要である。

 1997年に発表されたFRBR(書誌レコードの機能要件)は今後の目録法の基盤となる概念モデルの位置づけを確立し、これに基づく「国際目録原則」が2009年2月に刊行された。国際目録原則は、書誌レコードと典拠レコードから成る、現状とも比較的親和性の高い原則である。ISBD(国際標準書誌記述)は、各資料種別を一本にまとめた「統合版」のWorldwide Reviewが2010年5月に開始されている。

 一方、英米目録規則の抜本改訂となるRDA(Resource Description and Access)が2010年6月に刊行予定である。紆余曲折の改訂作業を経たRDAは、FRBRに密着した、これまでとは全く異なる構成の規則となっている。ただ、実体・属性・関連からなる構造は、NACSIS-CATと相通ずる面を持っているように思われる。その他、意味的側面と構文的側面の分離、資料の物理的側面と内容的側面の整理、機械可読性と相互運用性の向上、もRDAの特徴といえる。

 実体間のリンク構造(「関連」)を中心とするFRBRモデルが基盤となることで、典拠データが目録規則に明確に位置づけられた。相対的には書誌記述よりも典拠コントロール、アクセスポイント管理が重視されていく流れにあり、目録データの付加価値性を高めることにつながる。

質疑応答

 発表後、件名法の今後、民間MARCの今後、典拠コントロールと書誌記述の軽重などについて質疑があった。

参考資料
当日配布レジュメ(PDF)

(記録文責・渡邊隆弘)