情報組織化研究グループ月例研究会報告(2010.7)
ネットワーク文化情報資源で活用する人名典拠情報構築に関する研究とその成果
研谷紀夫(東京大学)
- 日時:
- 2010年7月17日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大手前大学いたみ稲野キャンパス
- 発表者 :
- 研谷紀夫氏(東京大学)
- テーマ :
- ネットワーク文化情報資源で活用する人名典拠情報構築に関する研究とその成果
- 出席者:
- 上田洋、上野芳重(大阪市立大学)、河手太士(静岡文化芸術大学図書館)、川畑卓也(奈良県立図書情報館)、佐藤毅彦(甲南女子大学)、塩見橘子、田窪直規(近畿大学)、中村恵信(大阪府立大学羽曳野図書センター)、中村友美、平松晃一(名古屋大学大学院)、藤元直樹(国立国会図書館)、堀池博巳、松井純子(大阪芸術大学)、村井正子(日本アスペクトコア)、村上健治(大阪大学図書館)、村上浩介(国立国会図書館)、吉川直樹、吉田暁史(大手前大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄、研谷<21名>
- 共催:
- 目録規則研究会(科学研究費基盤研究(C) 課題番号22500223 研究代表者:渡邊隆弘)
ネットワーク文化情報資源を対象とした人名典拠情報の構築と相互運用性への取り組みに関する発表であった。
1.研究の背景
- MLA(博物館・図書館・文書館)の世界では多くの人名・組織名典拠情報が構築されてきたが、その多くはアクセスと情報取得に制限のある個別データベースとして提供されてきた。一方、ネットワーク環境の進展につれて、よりオープンに公開される人名情報の構築が、内外の様々なサイトで独自に行われつつある。MLAの典拠情報についてもオープン化の流れがあり、Google BooksによるMARC利用などの動きもある。
- もう一つの流れとして、ウェブオントロジへの対応という方向性がある。MLAの世界でもセマンティックウェブに対応したデータ公開が志向され、また北米を中心にウェブオントロジ言語を用いて独自に人名情報を構築する動きもある。
- 発表者の研究プロジェクトでは、研究ベースで作成された様々なデジタルアーカイブを持続的に公開していくために、ネットワーク文化情報資源における人名典拠情報の独自構築(具体的には、華族・写真師を対象とするデータを作成した)に取り組んできた。さらに、幅広い利用のための各規格へのデータ出力、既存の人名典拠情報との連携といった機能も備え、既存・新規のデータを統合的にオンライン上で共有できる人名・組織情報のプロトタイプ構築を目指している。
2.基本設計
- 典拠データ仕様の策定にあたっては、MLA連携を可能とするエレメントセットをめざし、既存の各種人名典拠情報と対応させながら基本設計を行った。ID・名称・別名・生没年・略歴等が主要な記述項目である。また、その他の人名との社会的関係性も記述を行う。
- シンタックス面では、特定の記述言語に依存するのではなく、どのような記述言語にも対応可能な仕様としている。
3.データの構造化と各種規格に則った出力
- 文書館コミュニティの典拠データ符号化標準であるEAC-CPF、米国議会図書館(LC)による典拠情報スキーマであるMADSへのマッピングを行った。MADS対応においては、姉妹編の書誌情報スキーマMODSのエレメントも一部加えた形としている。カナ情報の取扱い、注記部分のタイプ分けなど、いくつかの課題がある。
- 情報や知識を体系化するための表現手法としてISO標準にもなっているトピックマップ(Topic Maps)による出力も試みた。各典拠レコードをトピック(Topic)とし、相互の関係性を関連(Association)として表現する。関連のタイプ(親子関係、師弟関係など)と、個々の役割(父、師匠など)によって関連の表現を行う。トピックマップ表現されたデータは、グラフィカルな関連表示などが可能である。
4.既存データの活用
- 国立国会図書館の典拠データJAPAN MARC(A)を用いて、既存のデータが標準的なデータに移行できるかを確認した。MARC形式データの主要な項目は、MADS+MODSなどで表現可能なことがわかった。プロジェクトで独自に作成した典拠データとの統合などは今後の課題である。
5.おわりに
- 東京大学大学院情報学環社会情報研究資料センターの「文化情報資源統合アーカイブ 2010年度試験開発版」において、トピックマップ化した典拠情報の一部を利用している。また、人名典拠情報の公式サイト設置とデータ公開を準備している。
- 継続プロジェクトとして、ウェブサービスによる典拠情報の提供・活用に関する研究にとりかかっている。
発表後、MADSへの変換、「関連」の種類、持続的構築に関わるビジネスモデル、MLA連携の可能性、等について質疑があった。