情報組織化研究グループ月例研究会報告(2010.11)
RDAの完成とこれからの目録
古川肇(近畿大学)
- 日時:
- 2010年11月13日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立総合生涯学習センター
- 発表者 :
- 古川肇氏(近畿大学)
- テーマ :
- RDAの完成とこれからの目録
- 出席者:
- 石田康博(名古屋大学)、井上昌彦(関西学院大学聖和短大図書館)、川崎秀子(佛教大学)、河手太士(静岡文化芸術大学図書館)、川畑卓也(奈良県立図書情報館)、故選義浩、杉本節子(相愛大学)、田窪直規(近畿大学)、田村俊明(紀伊国屋書店)、槻本正行(神戸松蔭女子学院大学)、中村恵信(大阪府立大学羽曳野図書センター)、中村友美、堀池博巳(大阪芸術大学非常勤)、松井純子(大阪芸術大学)、村井正子(日本アスペクトコア)、村上健治(大阪大学)、山野美贊子、吉田暁史(大手前大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄、古川<21名>
- 共催:
- 目録規則研究会(科学研究費基盤研究(C) 課題番号22500223 研究代表者:渡邊隆弘)
古川氏には、当グループにおいて2000年以降、AACR及びRDAに関する発表を5度お願いしてきた。2010年6月のRDA刊行を受けた今回の発表は、その完結編ともいうべきものであった。なお、当日の配布資料はRDAの概要・評価を包括的に述べたものであるが、時間的制約により、口頭発表は直近の発表である2009年6月月例研究会「RDA全体草案に見る目録の諸問題」を前提とし、これの追補を中心として行われた。本記録は、配布資料(PDF)及び2009年6月分の報告と併せてお読みいただきたい。
1.RDAの概要
- 国際化にあたって、補記等の言語をラテン語から英語に変更し、英語圏以外の目録作成機関は自らの言語や文字に置き換える方針とした。現在のNCRと整合するのは幸いである。
- resourceの語に多義性があり出現箇所によって意味が異なるが、自覚的に行われており、曖昧と非難する理由はないように思われる。
- 情報源上の誤表示の取扱いについて、情報源通りとの方針が徹底され、NCRとの食い違いがさらに大きくなった。
- 2章(体現形と個別資料の識別)は、刊行頻度等若干のものを除いて、転記の原則に従ったlabel(ラベル情報)を入力するエレメント群で構成されている。資料の識別の基盤及び情報源に関する規定がなされているが、角括弧を使用して補記する場合の規定がない(資料内と外が一線か)。
- 1997年にISBD(ER)が行った、異版とみなさない相違に関する規定を、AACR2の2002年版に続いてRDAも採用していない。書誌レコードの増大を抑制することはせず、著作や表現形による括りで対処する方針であろうか。
- 3章(キャリアの記述)では、転記ではなく、用意されたリストをもとに入力するエレメントが多い。資料をカテゴライズする役割を果たすエレメントが多いのは、RDAの特徴の一つである。
- システム要件(3.20)が電子資料以外にも、縮尺(7.25)が地図資料以外にも適用可能となり、AACR2よりも柔軟な扱いと評価できる。
- 体現形・個別資料以外の実体を識別する属性を扱う各章は、(1)名称(著作・表現形ではタイトル)、(2)それへの付加要素など、(3)名称と付加要素によるアクセスポイントの合成、という構造となっている。アクセスポイントには、典拠形(authorized)と異形(variant)があるが、前者は全体草案(2008.11)までは優先(preferred)と呼ばれており、国際目録原則にならって変更された。
- 6章(著作と表現形の識別)も前項の構成をとるが、2つの実体を対象とし、また典拠形アクセスポイントに著作に責任をもつ個人等に対する典拠形アクセスポイントも含むため、複雑な章構成となっている。
- 基本記入標目の選択を扱ったAACR2の21章は6.27に継承されているが、大幅に簡素化された。
- 7章(内容の記述)は3章とならんで、AACR2における注記等のエレメント化が顕著な章である。明示されていないが、著作に対する属性と表現形に対する属性に二分できる。
- 9章(個人の識別)等の章の実質は、AACR2の標目に関する規定とそれほど変わっていない。ただ、典拠形アクセスポイントの付加事項になり得るエレメント以外に、伝記情報(9.17)など典拠レコードのみに現れるエレメントも設定されていることは、書誌レコードだけでなく典拠レコードをも扱うRDAの方針を表している。
- セクション5以下(17章以下)は、実体間の関連を扱う。関連の記録方式としては、識別子(ISBNなど)の記録、関連先の典拠形アクセスポイントの記録など、複数の方式が規定されている。
- 資料と行為主体との関連を扱うセクション6では、行為主体の役割を示す関連識別子(付録I)が用いられる。著作と結びつく行為主体は、creator(19.2)とそれ以外(19.3)に二分されている。
- 資料相互の横の関連を扱うセクション8では、関連の種類を表す関連識別子(付録J)が用いられる。派生、記述、全体・部分などティレット(B. Tillett)の研究に依拠した枠組みだが、等価などその詳細が曖昧と思われるものもある。また、体現形間の全体・部分の関連が、NCRの書誌階層構造に当たると推測される。
2.RDAの批判的検討
- 発表者は2000年段階で、(1)構成部分の記録の作成、(2)それへの著者基本記入標目の付与、(3)それを手がかりとする書誌的関連の表現、をあるべき目録の構想の核心と表明した。これは、RDAを評価するにあたっての個人的尺度でもある。
- 評価できる点はいくつかあるが、タイトル標目を他の標目と対等の地位に引き上げ、著作の位置づけを明確化したことが最大の評価点である。
- 優先タイトルに冠する、著作に責任を有する個人等に対する典拠形アクセスポイント(基本記入標目に相当)の選択に関する規定が、AACR2の21章を合理的に簡素化している点も評価できる。
- 一方、問題点としては、粒度に関する規定の不十分さが特に大きい。NCRにおける基礎レベルに相当する概念の不在、関連規定と例示が単純なイメージで複雑な実態に対処できていないこと、上位レベルに比べて下位レベルの記録に関するエレメントが貧弱であるという不均衡、などである。
- 複雑な構成にも関わらず、見出し、インデント等の表示が不足しているという、編集上の難点がある。
- タイトルと責任表示の分離などに関して、エレメント別に入力した後で常に復元が可能か(エレメント相互の対応が明確に示せるか)という疑問がある。
- その他、0章(序論)が平板で不十分なことなど、いくつかの問題点が指摘できる。
- 問題点は多いが、タイトル標目の統一標目化の推進と関連の規定の整備によって、目録の構造の緊密化を図ろうとする点で、将来の目録への正しい方向性を示していると総評する。
3.これからの目録:著作を検索できる目録
- 発表者は、著作をきちんと検索できる目録の必要性を唱えてきた。すべての著作に対して典拠形アクセスポイントが与えられるとともに、資料の構成部分に対しても記述が行われているのが、理想の姿である。
- しかし、著作の認定の困難さ、記述対象とする著作の限定の困難さ、等の問題も大きい。すべての著作を明確に識別する理想型の代替として、関連の設定によってグルーピングする手法も考えられるかもしれない。
- いずれにせよ、構成部分に関して、現行システムにおける「内容細目」がきちんと入力されていることが必須の前提となる。この点について現状は到底十分とはいえないが、NDLにおける内容細目記録基準の修正(対象の拡大)やTRC MARCにおける取扱いなど、実践上の前進もみられる。
発表終了後、内容的側面と物理的側面の分離の可能性などについて質疑があった。
- 参考資料
- 配布資料(PDF)
- 注)
- 第1部は、雑誌『資料組織化研究-e』第59号の論文「書誌レコードおよび典拠レコードに関する規則の成立 −RDAの完成−」(2010.12刊行)の原稿を編集したものであることを、お断りする。