以下では、発表の要点を“つまみ食い”的に要約する。
博物館・図書館・文書館の連携が注目されている。日本では、この三者の英語の頭文字をとって、MLA連携と呼ばれている(以下、博物館をM、図書館をL、文書館をAと略して書くことが多いので、注意されたい)。今回は、情報組織化面をも意識しながら、これについて多角的に論じる。
欧米では、21世紀に入る前後から、主にネット上の連携を中心に、おびただしい数のMLA連携の事例が出現し出している。
2008年には、IFLAとOCLCから相次いで、MLA連携に関する報告書が出され、2008年から2010年にかけては、MとLとAの専門誌が連携して、それぞれMLA連携の特集を刊行している。
日本でも、これは注目されており、2000年代の後半以降、これに関するシンポジウムなどが頻出している。しかし、連携事例が多出しているとはいえない。MLA連携には、ウェブ(の検索エンジン)への対抗戦略という意味合いもある。これの出現により、M、L、Aは少々地盤沈下している。しかし、M、L、Aがウェブを利用して、これら三者によるポータル・サイトを構築すれば、この三者の情報が積極的に利用される可能性がある。その理由は、次の3文の通りである。検索エンジンによる検索では、ノイズの山になることがあり、検索される情報資源も玉石混淆であり、しかも表層ウェブしか検索できない。これに対して、MLA連携によるサイトなら、信頼できる情報資源を、深層ウェブにあるものも含めて検索できる。それも検索はメタデータを利用することになるので、高精度なものとなる。
上述のことは、検索エンジンに代表される非情報組織化的検索手法のみでは限界があり、情報組織化的検索手法も必要とされているということを意味している。セマンティック・ウェブの動きといい、近年、情報組織化的検索手法が見直されつつあるのではないか。
上述のことはまた、現在注目されているのは、実体としてのMLA連携というよりは、ネット上のMLA連携ということをも意味している。実体としての連携では、組織原理の違いが前面に出て、連携の推進が難しくなるが、ネット上の連携なら、組織原理の違いが緩和されるので、連携を推進しやすくなる。
制度的・組織的な連携基盤を持つ国がある。例えば、英国には博物館・図書館・文書館評議会という組織があり、米国には博物館・図書館サービス機構という組織がある。
情報組織化面の基盤に目を向けると、図書館界のFRBRと博物館界のCRMの調和プロジェクトが進行しており、その一方で、図書館界は文書館界を意識して、著者に「家(family)」を加えている。また、仏では、MLAの相互運用性を意識した典拠ファイル標準が検討されており、ノルウェーでは、博物館と図書館の典拠が合体している。
連携連続体というのは、次の5つのレベルで連携を捉えるというものである。すなわち、接触(会話開始のレベル)、協力(情報共有のレベル)、協調(アドホクな連携のレベル)、協同(深い依存関係のレベル)、収斂(連携なしではやって行けないレベル)の5つである。
連携の触媒とは、連携を促進させるもののことである。MLA間の信頼関係の構築や、連携活動をスタッフ評価に加えることなど、9つのものがあげられている。
組織の目的、その専門職、そのメディアという三つの観点からは、AはMとLの中間に位置し、MとLは対極に位置する。したがって、AとM、AとLは親和性が高いが、MとLは親和性が低い。MLA連携を検討する時には、これらの位置関係を理解する必要がある。
日本の問題点としては、次の3つをあげることができる。一つは、Aが弱く、その数も少ないということである。そのため連携相手になりにくい(下手をすると、連携というより吸収ということになる)。二つは、日本では社会教育という点から、MLK(Kは公民館)がグルーピングされるということである。これに対して、欧米では、文化(遺産)機関、記憶機関という点から、MLAがグルーピングされる。三つは、MLAのデジタル・コンテンツが弱いということである。ネット上の連携を考えるのであれば、コンテンツの充実が望まれる。
発表者は、MLA連携について、何度も原稿を書いたり、発表してきたが、実はこれの信奉者ではない。今注目されているMLA連携は、デジタル空間上での連携といえる。デジタル空間では、MLAの情報資源のみならず、あらゆる情報資源を統合的に扱える。したがって、MLAの情報資源のみならず、あらゆる情報資源を統合的に扱う枠組みを検討すべきである。
その際には、デジタル空間における、情報資源の生産・流通・消費の一体化や、デジタル情報資源のハイパ・メディア的性格による、我々の認識系の変容を考慮に入れねばならない。
(記録文責:田窪直規)