かつてアーカイブ資料(群)の情報をその階層的構成に沿って電子的に生成し編成し公開することは,困難とおもわれていた.そのため,資料整理支援や公開情報検索といった,アーカイブ資料管理の各部分に対応する情報システムを発展させてきた.いずれ,アーカイブ資料管理の部分的情報システムから,それらを統合するアーカイブ資料管理情報システムが生まれてきた.いま無償で利用できるオープンソースのシステムでは,つぎの4つをあげる.
これらのうちArchivists' Toolkit(AT)は,日本で紹介されている(Kelcyほか2006).
そこで,日本では紹介のないArchonを検討することにした.
すでに各種のアーカイブ資料情報管理システムを比較検討している報告書(Spiro 2009,同wiki版)があり,その比較の項目に沿って前掲4つのシステムの優劣を確認した.
その項目は,つぎのとおり.A. 全般(7項目),B. メタデータインポート[取り込み]/エクスポート[出力]支援(17項目),C. コレクション管理(15項目),D. 資源記述(12項目),E. 管理機能(6項目),F. ユーザインターフェース[接触界面](8項目).
ICA-AtoMは,とくにCの領域のコレクション管理に関して,報告書当時は実装がなく,業務システムとしての体をなしていない.また,データのインポート・エクスポートの機能は,相当に貧弱で,既存データの活用を望むべくもない状況にあった.
ATは,もっとも優れているが,web公開機能がない.Archonは,web公開機能とコレクション管理とをバランスよく備えていた.
なお,オープンソースのシステムは,アーカイブズのコミュニティとの結び付き,ソフトウェア導入の経費に利点がある.ただし,サーバ・ネットワーク構築の最低限の知識が必要で,無保証(問題の自力またはコミュニティでの解決)であることは,欠点かもしれない.
Archonにおける英語以外の言語の利用は,閲覧検索画面ではテンプレート,入力編集画面(システム管理画面)では語句ファイルにより実現していた.2010年ころから日本語化に取り組みはじめたが,版の更新スピードが速く,日本語化したテンプレートが古くなってしまう.版の更新の影響範囲が大きくない語句ファイルの日本語化を優先した.
語句ファイルのデータは,XML形式で,Archonシステムの構成パッケージ毎に存在した.分担作業と,用語の調整・統一との両立のため,Excelの表へ展開し,作業後にXMLへもどした.
Archonは,ブラウザを介して利用する.その動作環境は,Linux,Apache,MySQL,PHP(LAMP)で,いずれもオープンソースの基本ソフトウェア類である.
インストール,アップデートはブラウザから実施する.管理システムの構成パッケージのいくつかを追加選択できる.
管理者ユーザ,基本の収蔵者等を決め,必要なばあい,別にサーバのディレクトリ等にパスワードを設定する.
資料管理の機能としては,受入から編成整理,検索手段構築,電子図書館(デジタルアーカイブ)までが揃っている.コレクション中の図書資料の書誌データもあつかえる.
資料整理開始前に,関連文献,人名・団体名,話題・術語を蓄積できる.ただし,人名辞典,用語辞典として独立に利用しづらい.記述データ連動,用語統一には便利である.
検索手段は,基本的に全文表示型で,詳細部分(コンテナリスト,ファイルリスト等)の表示・非表示やPDF等別ファイル参照も設定できる.索引には,アルファベット文字以外の詳細区分(仮名50音,文字画数等)のオプションがない.
デジタルアーカイブシステムとしては,基本的にデジタルデータをダウンロード形式で提供する(ストリーミング機能はない).別サーバに保存したデータへは,URLで参照できる.どの記述レベルへもデジタルデータを設置できる.
かつてアーカイブ資料のオンライン総合目録を構想したとき,EAD/XMLデータを中心に据えた(五島2008).日本では,EADデータ作成・出力ツールがあってもEADデータが資料管理実務の生きたデータとならない,という反応があった.総合目録や公開デジタルアーカイブシステムは,しばしばデータを手元のデータから吐き出すだけの一方通行だ.
オープンソースのアーカイブ資料情報管理システム(とくにArchon)の利用は,生きたデータとEAD等標準データによるアーカイブ資料情報共有・交換をともに実現するのではないか.
(記録文責:五島敏芳)