情報組織化研究グループ月例研究会報告(2012.9)

オープンソースのアーカイブ資料情報管理システムの日本語化と試用

五島敏芳(京都大学総合博物館)


日時:
2012年9月29日(土) 14:30〜17:00
会場:
大阪学院大学
発表者 :
五島敏芳氏(京都大学総合博物館)
テーマ :
オープンソースのアーカイブ資料情報管理システムの日本語化と試用
共催:
情報知識学会関西部会、目録法研究会(科学研究費基盤研究(C) 課題番号22500223 研究代表者:渡邊隆弘)
出席者:
稲葉洋子、井原英恵(神戸大学)、上山卓也(京都大学附属図書館)、太田仁(福井大学)、大西賢人(京都大学)、川崎秀子(佛教大学)、甲田彰(科学技術振興機構)、古賀崇(天理大学)、塩野真弓(京都大学)、田窪直規(近畿大学)、田村俊明(紀伊國屋書店)、研谷紀夫(関西大学)、中村友美、前川和子、益本禎朗(神戸大学附属図書館)、松井純子(大阪芸術大学)、村川猛彦(和歌山大学)、村並秀昭(八尾市立山本図書館)、山下俊介(京都大学総合博物館)、山田美雪、和中幹雄(大阪学院大学)、五島<22名>

1.経緯

 かつてアーカイブ資料(群)の情報をその階層的構成に沿って電子的に生成し編成し公開することは,困難とおもわれていた.そのため,資料整理支援や公開情報検索といった,アーカイブ資料管理の各部分に対応する情報システムを発展させてきた.いずれ,アーカイブ資料管理の部分的情報システムから,それらを統合するアーカイブ資料管理情報システムが生まれてきた.いま無償で利用できるオープンソースのシステムでは,つぎの4つをあげる.

CollectiveAccess(Whirl-i-Gigほか.2003年開発開始,2006年オープンソース化,2007年0.5版公開.)
Archivists' Toolkit(カリフォルニア大サンディエゴ校図書館・ニューヨーク大図書館ほか.2004年開発開始,2006年ベータ版,2008年公開版.)
Archon(イリノイ大アーバナシャンペーン校図書館・大学文書館.2003年開発開始,2006年公開,以降更新.)
ICA-AtoM(国際文書館評議会ICA.2008年ベータ版公表,2010年以降正式版.)

 これらのうちArchivists' Toolkit(AT)は,日本で紹介されている(Kelcyほか2006).
 そこで,日本では紹介のないArchonを検討することにした.

2. オープンソースのアーカイブ資料情報管理システムの評価

 すでに各種のアーカイブ資料情報管理システムを比較検討している報告書(Spiro 2009,同wiki版)があり,その比較の項目に沿って前掲4つのシステムの優劣を確認した.
 その項目は,つぎのとおり.A. 全般(7項目),B. メタデータインポート[取り込み]/エクスポート[出力]支援(17項目),C. コレクション管理(15項目),D. 資源記述(12項目),E. 管理機能(6項目),F. ユーザインターフェース[接触界面](8項目).
 ICA-AtoMは,とくにCの領域のコレクション管理に関して,報告書当時は実装がなく,業務システムとしての体をなしていない.また,データのインポート・エクスポートの機能は,相当に貧弱で,既存データの活用を望むべくもない状況にあった.
 ATは,もっとも優れているが,web公開機能がない.Archonは,web公開機能とコレクション管理とをバランスよく備えていた.
 なお,オープンソースのシステムは,アーカイブズのコミュニティとの結び付き,ソフトウェア導入の経費に利点がある.ただし,サーバ・ネットワーク構築の最低限の知識が必要で,無保証(問題の自力またはコミュニティでの解決)であることは,欠点かもしれない.

3. Archonの日本語化

 Archonにおける英語以外の言語の利用は,閲覧検索画面ではテンプレート,入力編集画面(システム管理画面)では語句ファイルにより実現していた.2010年ころから日本語化に取り組みはじめたが,版の更新スピードが速く,日本語化したテンプレートが古くなってしまう.版の更新の影響範囲が大きくない語句ファイルの日本語化を優先した.
 語句ファイルのデータは,XML形式で,Archonシステムの構成パッケージ毎に存在した.分担作業と,用語の調整・統一との両立のため,Excelの表へ展開し,作業後にXMLへもどした.

4. Archonの試用

 Archonは,ブラウザを介して利用する.その動作環境は,Linux,Apache,MySQL,PHP(LAMP)で,いずれもオープンソースの基本ソフトウェア類である.
 インストール,アップデートはブラウザから実施する.管理システムの構成パッケージのいくつかを追加選択できる.
 管理者ユーザ,基本の収蔵者等を決め,必要なばあい,別にサーバのディレクトリ等にパスワードを設定する.
 資料管理の機能としては,受入から編成整理,検索手段構築,電子図書館(デジタルアーカイブ)までが揃っている.コレクション中の図書資料の書誌データもあつかえる.
 資料整理開始前に,関連文献,人名・団体名,話題・術語を蓄積できる.ただし,人名辞典,用語辞典として独立に利用しづらい.記述データ連動,用語統一には便利である.
 検索手段は,基本的に全文表示型で,詳細部分(コンテナリスト,ファイルリスト等)の表示・非表示やPDF等別ファイル参照も設定できる.索引には,アルファベット文字以外の詳細区分(仮名50音,文字画数等)のオプションがない.
 デジタルアーカイブシステムとしては,基本的にデジタルデータをダウンロード形式で提供する(ストリーミング機能はない).別サーバに保存したデータへは,URLで参照できる.どの記述レベルへもデジタルデータを設置できる.

5. まとめ

 かつてアーカイブ資料のオンライン総合目録を構想したとき,EAD/XMLデータを中心に据えた(五島2008).日本では,EADデータ作成・出力ツールがあってもEADデータが資料管理実務の生きたデータとならない,という反応があった.総合目録や公開デジタルアーカイブシステムは,しばしばデータを手元のデータから吐き出すだけの一方通行だ.
 オープンソースのアーカイブ資料情報管理システム(とくにArchon)の利用は,生きたデータとEAD等標準データによるアーカイブ資料情報共有・交換をともに実現するのではないか.

参考文献(抄)
Spiro, Lisa. Archival Management Software: A Report for CLIR. Council on Library and Information Resources, 2009, 119p. Online, http://clir.org/pubs/reports/spiro/spiro_Jan13.pdf (Wiki, http://archivalsoftware.pbworks.com/ )
Kelcy, Shepherd ; Bradley, D. Westbrook ; Lee, Mandell 他 (村井しのぶ 訳). Archivists' Toolkit : アーカイブズの記述/管理のための統合システム(小特集 : 図書館におけるアーカイブズ). 『大学図書館研究』. 77, 2006-08, p.35-40.
Archon 公式サイト. URL. http://www.archon.org/
五島敏芳. 日本におけるアーカイブズのオンライン総合目録構築にむけて. 『記録と史料』. 18, 2008-03, p.1-17.
当日配布資料
配布資料-1(PDF 574KB) 配布資料-2(PDF 1.1MB) 配布資料-3(PDF 179KB) 参考資料(PDF 121KB)

(記録文責:五島敏芳)