情報組織化研究グループ月例研究会報告(2012.12)
典拠形アクセスポイントの諸相
古川肇(近畿大学)
- 日時:
- 2012年12月15日(土) 14:00〜17:00
- 会場:
- キャンパスポート大阪(大学コンソーシアム大阪)
- 発表者 :
- 古川肇氏(近畿大学)
- テーマ :
- 典拠形アクセスポイントの諸相:著作に対する典拠形アクセスポイントおよび団体に対する典拠形アクセスポイントを中心として
- 共催:
- 目録法研究会(科学研究費基盤研究(C) 課題番号22500223 研究代表者:渡邊隆弘)
- 出席者:
- 池須安希(大阪音楽大学)、石田康博(名古屋大学)、井原英恵(神戸大学)、上野芳重(大阪市立大学)、上山卓也(京都大学)、大塚栄一(樹村房)、河手太士(静岡文化芸術大学図書館)、北克一(大阪市立大学)、忽那一代(京都大学)、塩野真弓(京都大学)、塩見橘子、杉本節子(相愛大学)、田窪直規(近畿大学)、田村俊明(紀伊國屋書店)、津田深雪(国立国会図書館)、長池圭子(紀伊國屋書店)、中村友美、平形ひろみ(愛荘町愛知川図書館・秦荘図書館)、堀池博巳、松井純子(大阪芸術大学)、村井正子(日本アスペクトコア)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄(大阪学院大学)、古川<24名>
著作と団体に対するものを中心に、「典拠形アクセスポイント」(以下、AAP)に関わる諸課題を発表された。
1.著作に対するAAP
- 著作に対するAAPには、優先タイトル(統一タイトル)を単独で用いる「単独形」と、creatorに対するAAPと優先タイトルから成る「複合形」の2種類がある。両種類とも、必要に応じて識別要素を付加する場合がある。
- 複合形において、AACR、RDA、NCRのいずれもcreatorに対するAAPを優先タイトルの前に置くが、優先タイトルの後ろとすることも考えられる。NACSIS-CATでは、音楽作品に対するAAPにおいてはcreatorのAAPを前置するのに、著者を有する古典作品(2011年に新たにルール化)においては後置する形をとっており、統一がとれていない。
- creatorに対するAAPの数について、1に限定する(RDA本則)、主要なものに限定する、同一役割の全員を列挙する(RDA別法)、役割が異なる者をも全員列挙する、などの方式が考えられる。主たるcreatorの役割(原則として1種)を選択し、その役割を果たす者全員を列挙するのが妥当ではないか。
- RDAでは、creator(対著作)とcontributor(対表現形)に関する一部の用語の位置づけがAACR2とは大きく変わっている。creatorの一種であるcompilerは、RDAでは辞典や書誌の作成者を指すようになった。AACR2におけるcompiler(複数の著作を集めて集合的著作を編纂する者)はRDAではeditor of compilationとされ、contributorの一種と位置づけられている。
- RDAでは著者性の状態を6つのカテゴリーに整理している。著作に対するAAPが複合形になるものとして、1のcreatorによる著作、共著(相互に異なる役割を果たす場合をも含む)、複合形または単独形になるものとして、既存著作の改作など、既存著作とそれへの注釈・挿絵などから成る著作がある。 そして単独形になるものとして、様々なcreatorによる著作から成る編纂資料(合集)と、creatorが不明な著作がある。なお、編纂資料に関しては、著作とみなす、という位置づけである。
- RDAにおいては、Worksなどの 集合タイトルを一著者の著作集に対してのみ用いるが、複数著者に拡大してもよいのではないか。
- 音楽資料は、検索の便を考えると和資料と扱うのが望ましく、そのためには国内標準が必要である。
- 外国語によるタイトルの読みをどう扱うかも問題である。
2.個人に対するAAP
- 著述の分野等によって複数の名前を使い分ける個人については、複数のAAPに分離するが、分離したまま放置しておいてよいか。何らかの集中手段をも考えるべきではないか。
- 多作の著者の書誌レコードのクラスタリングとディスプレイへの関心が、日本では希薄である。
3.団体に対するAAP
- NCRでは新版予備版以降、団体の内部組織を省略してAAPを作成するという規定を設けている。NCR1965年版まではこのような規定はなく、これは著作行為の主体の所在をあいまいにする改悪である。どれほど下位の内部組織であろうと、その組織が著作行為の主体であるならば、その名称がAAPの中核となるべきである。
- 政府機関に対するAAPの形について、NCRと国際目録原則やRDAの間には大きな乖離がある。必ずしも完全に一致させる必要はないと考えるが、独自性への自覚をもつ必要がある。
- 著作行為の主体の名称を、直接に単独でAAPとするのが原則である。その上で、上位組織名を冠することが必要な場合を整理するのがよい。なお、上位組織名を冠する場合には、ピリオドで区切る形をとるべきである。
4.その他
- 逐次刊行物の識別によく用いられるissuing bodyのRDAでの定義がわかりにくい。その原因は、我々が この語を「刊行団体」とのみ理解しているからではないだろうか。
- RDAに規定された資料間の関連のうち、記述(descriptive)関係は、固有名件名と重複する。また、「記述」の名称は、目録法におけるこの語の従来の用法に照らして好ましくない。
5.総論とまとめ
- AAPは、アクセスポイントという側面に加え、固有名件名、識別子という側面をももっている。個人や団体のAAP=著者標目、といった既成の枠を超えて考える必要がある。
- 固有名件名を付与するには、著作・表現形に対するAAPだけでなく、体現形・個別資料に対するAAPも必要である。RDAはこの点の規定を欠いており(補充の提案がなされている段階)、また国際目録原則でも規定に齟齬をきたしている。また、固有名件名を付与するには、架空の個人等に対するAAPも必要である。
- AAPは、利用者に理解できる文字列による識別子として有益である。
- NCRでは識別要素に関わるルールが整備されておれず、改善の必要がある。
- 本来、目録は、利用者がそれを検索しはじめた時点では予期していなかった豊富な検索結果を提供すべきツールである。それを可能にする手段がAAPであり、これによって蔵書がもつ潜在的な利用可能性を十分に顕在化させることができる。
(記録文責 渡邊隆弘)
- 当日の資料
- 配布資料(PDF 318KB)