情報組織化研究グループ月例研究会報告(2014.12)

図書館情報学と博物館情報学:両者の目録に注目して

田窪直規(近畿大学)


日時:
2014年12月13日(土) 14:30〜17:00
会場:
大阪市立市民交流センターなにわ
発表者 :
田窪直規氏(近畿大学)
テーマ :
図書館情報学と博物館情報学:両者の目録に注目して
出席者:
井原英恵(神戸大学)、石村早紀(樹村房)、大塚栄一(樹村房)、尾松謙一(奈良県立大学附属図書館)、蟹瀬智弘(IAAL)、鎌田均(京都ノートルダム女子大学)、川崎秀子、河手太士(静岡文化芸術大学図書館)、坂口貴弘(京都大学)、佐藤紀子、塩見橘子、杉本重雄(筑波大学)、杉山緑、楢本順子、西田紀子(国立国際美術館)、堀池博巳、松井純子(大阪芸術大学)、水野翔彦(国立国会図書館)、横谷弘美(大手前大学)、和田康宏(LODチャレンジ2014実行委員会)、渡辺斉志(国立国会図書館関西館)、和中幹雄(大阪学院大学)、田窪<23名>

1.図書館情報学と博物館情報学

 図書館情報学は、図書館学と情報学との複合分野であり、1960年代後半に出現する。一方、博物館情報学は、博物館へのコンピュータの応用分野として、1990年代に確立されていく。図書館情報学はひとつの学問分野という側面が強いのに対して、博物館情報学は博物館学の一分野という側面が強い。
 なお、図書館情報学の情報学はドキュメンテーションを母体とするinformation scienceであるが、博物館情報学の情報学はinformaticsであり、これはコンピュータ科学とその応用領域と考えられている。

2.図書館資料と博物館資料

 資料(メディア)は何らかのメッセージを伝えるためのものと考えられる。メッセージは記号(列)で表現されるが、記号は単なるパターン(形)にすぎず、実体がない。そこで、これを実体化させるキャリヤーが必要になる。それゆえ、資料はメッセージとキャリヤーが複合したものとなる。例を挙げれば、新聞という資料は新聞記事というメッセージと新聞紙というキャリヤーの複合体ということである。
 図書館資料は以下の特徴を持つ。(1)メッセージとキャリヤーの結びつきがルーズで様々に結びつく(ある作品が一冊で出版されたり、上下二冊で出版されたりする)。(2)利用者はキャリヤーではなく、メッセージに興味の中心がある。(3)図書館資料のメッセージは言語によるものが多く、それも日本の図書館の場合、日本語のものが多いので、ほとんどの人が読める。(4)言語はコードが強いので、メッセージの意味が明確になる。(5)サブジェクト性が強い。(6)複製メディアであり、基本的に、安価・非貴重。
 博物館資料は以下の特徴を持つ。(1)メッセージとキャリヤーの結びつきが強く、一体化しており、キャリヤー即メッセージとなる。(2)キャリヤー中心の資料である。(3)博物館資料のメッセージは通常、その道の専門家でないと読み解けない(例えば、土器片の発するメッセージは考古学の専門家でないと読み解けない)。(4)コードは弱く、専門家でも人によって解釈が異なる。また、学説が変わることもあり、コードは一定していない。(5)キャリヤーの様々な属性が重要な意味を持つので、オブジェクト性(物性)が強い。(6)唯一メディアであり、基本的に高価・貴重。このように、博物館メディアは図書館メディアとまったく対照的である。なお、博物館資料の場合、(7)資料の関連情報、例えば、出所、伝来、使用者なども重視される(同じ茶碗でも、誰が使用したのか不明のものと、千利休愛用のものとでは、価値がまったく異なる)。

3.図書館の目録と博物館の目録

 図書館では閲覧目録が重視される。また、目録を業務上の位置づけから見ると、分類業務とともに目録業務がハウスキーピング業務の中で別格的に扱われる。一方、博物館の目録の中心は、学芸員が資料を管理するための事務目録となる。博物館にもハウスキーピング的な業務があるが、目録業務が別格的に扱われるというわけではない。
 図書館の目録に関する国際的な標準化関連の動きは比較的活発である。図書館資料は複製資料であり、同じ資料の目録情報が異ならないようにするため、あるいはこれを流用できるようにするため、標準化の必要性が高い。その上、冊子体資料が圧倒的に多く、標準化しやすかったものと考えられる。これに対して、博物館資料の国際的な標準化関連の動きは、図書館の場合と比べて活発ではない。博物館資料は唯一資料であり、標準化の必要性が低く、また資料は様々であり、標準化が難かったものと考えられる。
 図書館資料と博物館資料の情報について、以下、記述とアクセス・ポイントに分けて述べる。
 図書館資料の記述はISBDの枠組みに従うことになるが、これには図書館資料で重要になるメッセージに関する記述項目、例えば内容概要や目次などを記述する項目が設定されていない。この点、疑問が残る。
 博物館資料は、その特色から、物的な面の情報や資料の関連情報が重視されるが、博物館資料の記述標準類にはこれらを記述する項目が設定されている。また、コードが弱いことから記述を作成した人物とその日付が重要になるが、これを記述する項目も設定されている。さらに、博物館目録の性格に対応して、資料の管理情報を記述する項目も設定されている。博物館資料やその目録の性格にあった記述項目といえる。
 図書館目録では、著者、タイトル、主題という重要なアクセス・ポイントは、記述とは別途が設定される。図書館資料はサブジェクト性が強いと述べたが、アクセス・ポイントで、主題が著者、タイトルとともに重視されているのは、その現われといえよう。
 一方、博物館資料はオブジェクト性が強く、その物的な性質や形状やその他の様々な角度からの検索要求があり、少数のアクセス・ポイントのみが特に重視されるというわけではない。様々な項目がアクセス・ポイントとなるので、これが記述とは別途設定されることはない。
 図書館の目録情報も博物館の目録情報もLOD化の方向にある。将来は、文書館の目録情報も含めて、MLAの目録情報がLODの世界で相互に関連付けられていくと考える研究者もいる。

(文責: 田窪直規)

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