情報組織化研究グループ月例研究会報告(2015.9)
これからの書誌データ作成事業モデル
佐藤義則(東北学院大学)
- 日時:
- 2015年9月5日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪学院大学
- 発表者 :
- 佐藤義則氏(東北学院大学)
- テーマ :
- これからの書誌データ作成事業モデル
- 共催:
- 書誌コントロール研究会(科学研究費基盤研究(C) 課題番号25330391 研究代表者:和中幹雄)
- 出席者:
- 石田康博(名古屋大学)、大西賢人(京都大学附属図書館)、尾松謙一(奈良県立大学附属図書館)、川崎秀子、河手太士(静岡文化芸術大学)、川畑卓也(奈良県立図書情報館)、黒木瞳(堺市立中央図書館)、篠田麻美(国立国会図書館)、田窪直規(近畿大学)、田島克実(株式会社トッカータ)、飛明奈(慶應義塾大学)、灘井雅人(大阪府立中之島図書館)、野間口真裕(京都大学)、日吉宏美(神戸大学附属図書館)、堀池博巳、前川敦子(神戸大学附属図書館)、松井純子(大阪芸術大学)、山上朋宏(京都大学)、横谷弘美(大手前大学)、和中幹雄(大阪学院大学)、佐藤<21名>
今月は、国公私大学図書館協力委員会と国立情報学研究所との連携・協力推進会議の下に設置された「これからの学術情報システム構築検討委員会」委員長でもある佐藤義則氏に、現在のNACSIS-CATを中心とした書誌データ作成事業について、新たな枠組みが必要であるとする提言内容を詳細にお話しいただいた。
1."Environmental Scan"
1.1 知識インフラとメタデータ基盤
- 文科省が策定した「第4期科学技術基本計画」(2011年)に、「知識インフラの構築」が記されている。また国立国会図書館の「第3期科学技術情報整備基本計画」にも「知識インフラ構築の推進」が掲げられている。知識インフラの構築には、書誌データ(メタデータ)の作成が基本となる。
- C. Borgmanは「知識インフラ」について、1)障害が発生したり存在が消滅した場合にのみ可視化される。2)知識インフラの維持には目に見えない作業量が相当程度あると指摘している。知識インフラへの依存度や機能維持のための努力は気づきにくいが、これをふまえて構築を進める必要がある。
1.2 大学図書館のコレクションの変化
- 近年の大学図書館のコレクションは、Web情報資源や機関内で生産された資料が増え、従来に比べて対象範囲が大幅に拡大している。
- R. Atkinsonは、大学図書館のコレクションに関連する機能として、報知、資料、歴史、教育、書誌の五つをあげたが、資料のデジタル化およびネットワーク上での流通によっては、これらの機能はいずれも大きく変化している。
- 1998年〜2013年の国立大学図書館の資料購入費の変化を見ると電子ジャーナルの経費が大幅に増大した一方で、資料購入費は総額で約30億円減少し、図書購入費の割合も39.1%から23.4%に減少した。電子書籍の購入は低調であり、出版社側のライセンス設定や機能制限が障害になっている。
- こうした状況に対して、「集合的コレクション」(shared printと同義) の取り組みが注目される。HathiTrustなどのデジタル化資料の利用を前提に、図書館所蔵の利用度の低い図書について重複を排除して共同保管化するというものである。
- Atkinsonが指摘したネットワーク環境の進展に伴う大学図書館コレクションの外部依存性の増大の中で、他館との連携による集合的コレクションの構築と集合的意思決定がより重要となっている。
1.3 大学図書館の利用の変化
- ここでは、SCREAL(学術図書館研究委員会)が実施した調査結果1)について説明が行われた。
- 自然科学系の研究者は、雑誌の最新号・バックナンバーとも電子ジャーナルだけでよいとの回答が60%を超える。特にバックナンバーは66.2%が、電子ジャーナルがあれば印刷媒体は不要と回答した。最新号は印刷媒体で読み、バックナンバーは検索・入手のために電子ジャーナルが必要なのであろう。
- 学術論文をPCやモバイル端末の画面で読む研究者の割合が増加している。
- 必要な論文が電子ジャーナルや印刷媒体で利用できない時は図書館のILLを通じて入手するとの回答が、おおむね7割を超えている。しかしNACSIS-ILLの利用件数は、洋雑誌・和雑誌とも減少している。電子ファイルで入手したいというニーズに対応できていないためと考えられる。
- 必要な情報を探すために図書館目録を月1回以上利用するとの回答は、自然科学系でも約半数を占めるが、最近は利用していないとする回答も3割に達している。同様の場合にWebの検索エンジンをほぼ毎日利用するとの回答は、半数近い。
- 出版物等の公的なコミュニケーションとその他の非公式なコミュニケーションの境界は、コンテンツのデータ化に伴い曖昧になっている。
- メタデータのあり方が変化している。図書館内のコレクションだけでなくWeb上のすべての情報資源が対象となるとともに、同じ内容の情報でも置かれている場所や媒体が異なれば別情報と認識されるようになった。また、章単位・論文単位で利用されるようにもなり、メタデータが量的に拡大している。
2.これからの学術情報システム:検討状況
2.1 検討経緯
- ・これまでの経緯は、以下の報告書2)を参照のこと。
「電子的学術情報資源を中心とする新たな基盤構築に向けた構想 」(2012年3月)
「次世代目録所在情報サービスの在り方について(最終報告)」(2009年3月)
2.2 目録方式の変化
- 印刷媒体資料と電子情報資源では、目録のあり方が異なる。前者は共同分担目録作業の形態が可能だが、後者は現物が手元にないため目録作業の必然性が認識されにくい。したがって、その作業は集中的な方式となり、作業内容は典拠データの作成やデータ間の関係性の把握と表現が中心となる。データ品質の確保という共通の課題があるが、永続的アクセス管理は後者に特有の課題である。
2.3 新たな「目録規則」における変化
- RDAや現在策定中の新NCRでは、「著作」「表現形」「個人・家族・団体」による典拠形アクセスポイントの作成が必要とされる。
- 従来の目録は「体現形」「個別資料」レベルで行われてきたが、「著作」「表現形」レベルのデータ作成は従来にない新たな作業を生じさせる。この作業を誰が担うのか、また作成方法においても変化が必要である。
2.4 総合目録と共同分担目録
- これまでは<総合目録の構築>イコール<共同分担目録方式>だったが、現在ではNDLサーチやカーリル、BIBFRAMEなど多様な選択肢が存在する。
2.5 これまでの書誌レコード作成方式の実際
- 現在のNACSIS-CATは、少数の書誌レコード作成機関と多数の利用機関とに二極化している。書誌登録件数の49.7%は20機関のみで作成され、書誌登録件数が10件以下の機関が348、0件の機関が178となっている。
- 各図書館では目録担当者の減少と外部委託化が進行し、国立大学図書館でさえ目録担当正規職員は平均2名という状況である。不正確な書誌データの修正に時間とコストがかかっている。
- 対象となる電子情報資源は増大しているが、目に見えないため書誌レコード作成の必要性を実感しにくい(不可視化)、という問題点がある。
2.6 どのような事業モデルが必要か?
以下のような試案が検討されている。
- 書誌レコード作成機関の限定 一定の範囲で責任を持って書誌レコード作成を行う機関を限定する一方、金銭的(または非金銭的)インセンティブを与える。一般の図書館には負担金を求める。
- 外部作成データの活用 Japan/MARCなどをNACSIS-CATのフォーマットに変換せず活用する。CAT-Pプロトコルを見直し、外部データとの互換性・相互運用性を高める。出所の異なるレコード間の調整はプログラムによる名寄せを活用する。
- 館種(業種)や国を超えた協調 これまでの書誌データ作成においては、NDLやNACSISがそれぞれ独立に作業を行ってきたが、今後は連携協力(役割分担)が重要となる。典拠データや書誌データ共有化のしくみを構築する必要がある。
2.7 課題
- 信頼の枠組みの確立 典拠データ作成において情報源が限定されない場合、責任の所在をどう明確にするかが問われる。また、DOI付与済みの情報資源については恒久的アクセス保障(保存)が前提となる。
- コスト問題 知識インフラを支える費用を誰が負担するのか。集合的意思決定が不可欠である。
- 今後は、目録規則だけではなく書誌データ作成・利用環境、構築システムを含め、組織間の全般的な連携協力のあり方が問われることになろう。
注
1) SCREALは、学術情報の利用環境の変化が及ぼす影響等を明らかにすることを目的に2007年に設立された研究者グループであり、これまでに次の3つの調査を実施している。「学術情報の取得動向と電子ジャーナルの利用に関する調査(電子ジャーナル等の利用動向に関する調査2007」「同 2011」「学術情報の利用に関する調査 2014」http://www.screal.jp/を参照。
2) http://www.nii.ac.jp/content/archive/pdf/content_report_h23_with_glossary.pdf ; https://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/archive/pdf/next_cat_last_report.pdf
(記録・文責:松井純子 大阪芸術大学)