情報組織化研究グループ月例研究会報告(2016.7)

書誌的宇宙の概念モデルの再構築:FRBR-LRM(FRBR,FRAD,FRSADの統合案)の概要とその意義

和中幹雄(大阪学院大学)


日時:
2016年7月30日(土) 14:30〜17:00
会場:
大阪学院大学
発表者 :
和中幹雄氏(大阪学院大学)
テーマ :
書誌的宇宙の概念モデルの再構築:FRBR-LRM(FRBR,FRAD,FRSADの統合案)の概要とその意義
出席者:
石田康博(名古屋大学)、蟹瀬智弘、川崎秀子、木下竜馬(国立国会図書館)、佐藤翔(同志社大学)、塩見橘子、高畑悦子(追手門学院大学)、田窪直規(近畿大学)、田村俊明(紀伊国屋書店)、津田深雪(国立国会図書館)、堀池博巳、松井純子(大阪芸術大学)、宮田怜(京都大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中<15名>

 2016年2月28日に,IFLAが策定してきた書誌的世界に関わる3つの概念モデルFRBR,FRAD,FRSADを統合したモデル案FRBR-Library Reference Model (FRBR-LRM)が公表され,5月1日までワールドワイドレビューに付された。その概要と問題点が報告された。

1.FRBRとは何(だった)か

 FRBRを策定した国際図書館連盟書誌レコードの機能要件研究グループが1992年に発足した背景には,増大する目録作成コスト削減と目録簡略化への要望があった。そのため,策定された報告書のタイトルは,ISBDのようなStandardやRules(目録規則)やGuidelineやModel(データモデルや参照モデル)ではなく,Requirements(要件)となっている。すなわち,目録簡略化への対応として全国書誌における最低限必要な書誌データの要件は何かに関する勧告を行う枠組みとして,利用者の観点からのモデル化が利用されたのである。その後,FRBRは「要件」よりも目録および目録作成の「モデル」として普及してゆくことになる。今回の3つの概念モデルを統合したモデル案は,この方向性での一つの到達点を示していると思われる。

2.FRBR公開後のIFLAの活動

 1998年にFRBRが公開されて以降の活動としてIFLAの国際目録原則の成立(2009年),FRBRを基礎とした国際目録規則RDAの成立(2010年)が特記できるが,概念モデル自体の検討の成果には次のようなものがあった。

(1) FRBR Review GroupによるFRBRの一部修正

 ① 2007年:FRBR 3.2.2 Expression(表現形)の本文の修正(日本語訳も公開済み)

 ② 2011年:Working Group on AggregatesのFinal Report

   FRBR本文の「3.3 集合的実体と構成的実体」の改訂案の提示

(2) 概念モデルの拡張 1):FRBR Familyの形成

 ① 典拠データの機能要件(FRAD)の策定(2009年)

 ② 主題典拠データの機能要件(FRSAD:)の策定

  FRBR Familyと呼ばれる3つの概念モデル(FRBR,FRAD,FRSAD)は,IFLA内の組織により策定されたERモデルに基づく要件(Requirements)という共通点はあるが,その検討主体も承認主体も異なり,その実体関連の概念も微妙に異なる。そのため,3つのモデルに基づくシステム構築には困難が伴う。この問題を解消するのが,モデル統合化の契機となっている。

(3)概念モデルの拡張 2)Harmonisation

 統合化のもう一つの契機は,図書館以外のコミュニティとの調和を図る活動である。図書館コミュニティの概念モデルFRBRと国際博物館会議(ICOM)国際ドキュメンテーション委員会(CIDOC)の概念参照モデルCRMを調和させるために,FRBR : object-oriented definition and mapping to FRBRer(FRBRoo version 1.0)が2003年に策定された。さらにFRAD,FRSADも取り込んだ改訂版FRBRoo version2.2のワールドワイドレビュー(2015年3月〜4月)を経て,2015年11月にFRBRoo version2.4が公表されている。

3.書誌的宇宙の概念モデルの再構築の試み

 統合モデル構築に向けた活動が開始されたのは2010年である。その後Consolidation Editorial Groupが発足し,2016年2月28日にFRBR-LRM(FRBR, FRAD, FRSADの統合案)が公開され,5月1日までワールドワイドレビューが実施された。その統合モデルの概要は以下のとおりである。

(1)統合モデルの名称

 この統合モデルのタイトルは,Requirements(要件)ではなくModel(Library Reference Model)である。タイトル中にFRBRという頭字語が含まれているが,編集長Pat Rivaによると,FRBRという語は図書館界に浸透しているので,一種の符丁として使用しているとのことである。

(2)統合のねらい

 • 高次レベルの概念モデルを構築する。

 • ERモデルの枠組みで表現するが,FRBROOの最終的な更新をめざす。

 • 書誌的宇宙(bibliographic universe)に関連したもののみを対象とする。

(3)利用者タスク

 • Find(発見),Identify(識別),Select(選択),Obtain(入手)にExplore(探索)を追加。

 • エンドユーザとそのニーズに焦点を当て,FRADの図書館内部プロセスに必要な管理メタデータは対象外とする。

(4)実体

 • 著作,表現形,体現形,個別資料はモデルの核として存続.するが,「第1グループ」としての指定は廃止。

 • FRBRの第2グループの実体としてAgent(スーパークラス)を新設。そのサブクラスとしてCollective Agent(家族と団体)とPerson(個人)を定義。Personは現実の人間に限定し架空の実体は除く。これについては批判あり。

 • FRBRの第3グループの実体はすべて廃止。

 • FRADの実体では,IdentifierとControlled Access Pointは後述するNomenの一タイプとして定義。
 RulesとAgencyはモデルの範囲外。

 • FRSADの二つの実体では,ThemaはRes(唯一のトップレベルの実体,英語のthingに相当,書誌的宇宙のあらゆるもの)となり,主題の関連とは関係させず再定義される。

 • NomenはFRADのNameと統合される。

 • 新規の実体 には,主題に限定せず,空間の一定の範囲として定義されるPlace(場所)および始まりと終わりと期間をもつ時間の範囲として定義されるTime-spanが加わった。

 • Resを最上位として,実体は階層化された。

(5)属性と関連

 • 実体を記述するデータとして定義される。

 • 属性を網羅的に収録しているわけではない。

 • 定義されている属性は,全部で37個である。

 • 共通的な属性としてCategoryがある。

 • 構造化されていないテキスト情報としてNote(注記)が用意されている。

 • 関連は二つの実体をリンクするものである。

 • IsA関連と相互関連(1対多,多対多)がある。

 • 属性より関連が強調されている。(Linked Data では属性は関連として実装される)

 以上の報告を受けて,FRBRooとの関連,モデルの有効性等について,質疑があった。

(記録文責:和中幹雄 大阪学院大学)