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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2018.3)

「ビデオゲームの目録とメタデータモデリング」

福田一史氏(立命館大学衣笠総合研究機構)


日時:
2018年3月10日(土)14:30〜17:00
会場:
大阪学院大学
発表者:
福田一史氏(立命館大学衣笠総合研究機構)
テーマ:
ビデオゲームの目録とメタデータモデリング
出席者:
荒木のりこ(日文研)、飯野勝則(佛教大学)、今野創祐(京都大学)、蟹瀬智弘(紀伊国屋書店)、川崎秀子、塩見橘子、田窪直規(近畿大学)、田村俊明(紀伊国屋書店)、堀池博巳、松井純子(大阪芸術大学)、和中幹雄(大阪学院大学)、福田<12名>

1.はじめに

 立命館大学ゲーム研究センターにおいては、日本初のゲーム研究拠点として、ゲームソフトウェアを1万点、ゲームハードウェアを80点、書籍や雑誌といった関連資料を4千点収蔵している。資料の管理はQRコードをベースに行っており、各資料はLCのPreservation Careの情報を参考に、温度は摂氏24度、湿度は50%という環境下で保存されている。発表者は、当センターにおいて、ゲームの目録を構築する作業に従事している。

2.立命館大学におけるゲーム保存・目録作成の取り組み

 日本国内の図書館ではゲームの所蔵は少ないが、海外、とくに米国の図書館では比較的多いことから、カタロギングに関する先行研究がいくつか見られ、概念モデルとしてFRBRやOAISの記述ポテンシャルを検討したものや、メタデータセット、あるいはファセット分析に基づく主題記述のあり方を扱ったものなどが見られる。またウェブ上ではワシントン大学のGAMER (GAME Research) Groupが、資料としてのゲームの組織化とアクセスの提供を目的とするプロジェクトとして、統制語彙の提供を始め、さまざまな情報発信を行っている。
 立命館大学におけるカタロギングは、ゲームとその参考資料を包括的に対象としており、これらの先行研究を十分に参考にしたうえで、RDAをベースとしたメタデータモデルを採用している。データ入力は、学部学生や大学院生が中心となっており、1日に6〜8人程度が作業に当たっている。効率的かつ正確な入力を行えるよう、独自にカタロギングマニュアルを製作し、ドロップボックスにおいて内部公開しているほか、ファイルメーカーにより設計、構築した入力フォームを利用している。
 一方、近年ではオンラインリソースとして提供されるゲームが著しく増加している。このような資料のカタロギングには、ウェブからのメタデータ取得が不可欠である。なおゲームを配信するApp Storeなどのウェブデータベースにおいては、JSON-LDによるメタデータの提供が急速に普及しているが、これはいわゆるSEO(Search Engine Optimization)を目的として、構造化データを提供する重要性が認識されるようになったからである。ただしメタデータの取得や再利用の際には、その著作権について留意しなくてはならない。
 また、立命館大学ゲーム研究センターの所蔵品オンライン閲覧目録として、RCGS-OPACを開設し、所蔵品のうちゲームの現物と図書・雑誌などの冊子体を対象に体言形レコードをベータ版として公開しているが、次年度以降にJSON-LDによるLOD化を検討している。なお文化庁のメディア芸術データベース(開発版)のゲーム分野については、当センターが構築を担当しており、ここではオンラインリソースのメタデータも収録している。

3.ビデオゲーム目録作成のためのメタデータモデリング

 ビデオゲームに対する知的興味が増大する一方で、資料としてのゲームにアクセスする手段は乏しい。それゆえウェブ上でのデータ共有を加速するLOD(Linked Open Data)や国図書館のジャパンサーチ構想などに適応する、再利用性の高いメタデータモデルが必要である。2007年に発表されたIFLA LRMは、抽象化が進んだことで記述ポテンシャルが向上していることから、WEMI(著作・表現形・体現形・個別資料)についてIFLA LRMの適用モデルを策定、検討を行った。要件は次のようなものである。

  1. 著作と版とその関連が記録できる
  2. ゲーム内容の同じ版と違う版が区別できる
  3. ビデオゲームの書誌レコードを記録するにあたり必要な関連が記録できる
  4. シリーズの関連が記録できる

 ゲームの目録にとって書誌的関連は重要である。IFLA LRMのほか、RDAや日本目録規則2018年度版で書誌的関連が準備されているが、一般の資料をベースに考えられていることもあり、ビデオゲームなどの関連記述には不足があることが明らかになってきた。それゆえ、これらを参考としつつも、レコードを本モデルのWEMIに落としこみ、ゲームに生じる関連をできる限り抽出した。
 関連記述の事例をいくつか挙げる。著作の関連で言えば、「メインシリーズの関連・非メインシリーズの関連」がある。これは著作を、その一部であるメインシリーズ(非メインシリーズ)である著作に関連付けることを示す。これに従えば「ポケットモンスター」はメインシリーズであり、「ポケモンスナップ」は非メインシリーズ(サブシリーズ)として関連付けることになる。
 また「ドラゴンクエスト11」はプレイステーション3及びニンテンドーDSという異なるプラットフォーム上でリリースがなされているが、どちらのプラットフォームの場合も、そのストーリーやシステムは同じである。ただし、前者はリッチな表現がなされているのに、後者は持ち運びを意図するプラットフォームのために、表現はプアに抑えられている。後者は前者から派生したものであり、この場合の両者は、著作を、同じ意味や内容を別の表現で置き換えた著作に関連付けることを示す「パラフレーズの関連」として、捉えることができる。
 表現形の関連と言う点でも、プラットフォームやシステムの違いを記録することができる。例えば「同時に創作された別プラットフォームの表現形との関連」は、一方が他方から事後に派生した場合ではなく、複数のプラットフォームで同時にリリースされることを前提に、マルチプラットフォームのゲームエンジンを用いて、創作されたゲームに適用できる。
 また、「移植の関連」は、当初ファミリーコンピュータでリリースしたゲームを、後にそのままMSXに移植して従属的にリリースした、というような場合に適用できる。同一のゲームであっても、プラットフォームが違えば操作に必要なボタンの指定も変わる。動作環境が異なることで、異なる表現がなされていると考えれば、表現形のレコードで記録することは妥当である。
 その他、ゲームはさまざまな国で展開されることで、言語だけではなく、文化に基づいて内容表現を変更する場合がある。例えば日本国内の「ドラゴンクエスト」では、人が死ぬと十字架の付いた教会で生き返らせることができるが、アメリカに移植されると十字架が消えた集会所がその役割を負うようになる。これらの表現形は「ローカライズの関連」として関連付けることができる。
 体現形の関連としては「特典つきの版の関連」のような、ある体現形に対し、ゲーム内容は同じであるが、何らかの特典が付与された豪華版や特典版を関連付ける、あるいは「オンラインリソース化の関連」として、物理的パッケージの体現形をオンラインリソースのパッケージに関連付ける、といった事例が挙げられる。
 個別資料は資料の現物そのものであり、各所蔵者が管理する基準や形式に基づき記録される。一方、別実体との関連はFRBRやIFLA LRMと同様である。すなわち、著作は表現形により「実現」され、表現形は体現形により「具体化」され、個別資料は体現形により「例示」される。
 本研究ではIFLA LRMによるモデル設計を通じて、ゲーム目録に必要な機能要件は満たすことができたと考えている。

4.今後の課題と展望

 さまざまに存在するため、全てに言及することはできないが、メタデータモデリングに関する課題としては、とくに主体とWEMIの関連に関する統制語彙の作成をどう行うか、主題・件名のファセットをどのように適用するのか、といった点を整理していかねばならない。また、データ作成に関する課題では、主体の典拠ファイルについて、他分野との共同構築を行うための必要性があるが、それをどのように進めていくのかを検討することなどが求められる。その他、システム構築に関する課題としては、IFLA LRMで記録したデータを利用者にどう見せるのか、視覚化という観点からウェブサービスを考えることなどが必要となる。

5.質疑応答

 発表後の質疑応答では、現状のカタロギング作業に関する質問が相次いだ。これらについて、発表者からは「カタロガーに体現形と個別資料と比べて著作と表現形の概念を理解させることは難しい」、あるいは「体現形、個別資料の関連の語彙の体系化はすでに目録作成を進めている段階であることから、事後に適応しなければならない」といった回答がなされるなど、参加者と発表者間で、活発な意見交換が行われた。

(記録文責:飯野勝則 佛教大学図書館)