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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2019.4)

「ビデオゲームの主題アクセス―未知ゲームの情報要求分析から考える―」

毛利仁美氏(立命館大学大学院文学研究科文化情報学専修)


日時:
2019年4月6日(土)14:30〜17:00
会場:
京都大学
発表者:
毛利仁美氏(立命館大学大学院文学研究科文化情報学専修)
テーマ:
ビデオゲームの主題アクセス―未知ゲームの情報要求分析から考える―
出席者:
荒木のりこ(国際日本文化研究センター)、飯野勝則(佛教大学)、今野創祐(京都大学)、岡田大輔(相愛大学)、金井喜一郎(相模女子大学)、蟹瀬智弘(紀伊国屋書店)、川崎秀子、佐藤久美子(国立国会図書館)、田窪直規(近畿大学)、田村俊明(紀伊国屋書店)、福田一史(立命館大学)、藤倉恵一(文教大学)、堀池博巳、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄、毛利<16名>

1.はじめに

 ビデオゲームのデータベースとして、立命館大学ゲーム研究センターの所蔵目録(RCGS-OPAC)やメディア芸術データベース(開発版)のゲーム分野が挙げられる。ゲームに対するIFLA-LRM、RDA適用の動きや、福田(2018)i)による先行研究からゲーム記述の枠組みの研究が進んでいる。しかし、現状のビデオゲームの目録では、どのようなビデオゲームなのかが分かりづらく、目録の利用者タスクのうち新たな資料の「探索」がとりわけ困難である。研究目的として、ビデオゲーム資料に必要な主題を検討するため、利用者は何を手掛かりに知らないビデオゲームを探すのか、つまり未知ビデオゲームの情報要求の一部を明らかにすることであることが示された。本研究における「ビデオゲーム」にはボードゲーム等やカードゲームは含まない。

2.利用者情報要求研究

 利用者情報要求の研究として、日本では金井(2016)ii)による音楽分野の研究がある。金井は、音楽資料に有効なメタデータ要素を明らかにするため、利用者情報要求を調べる際の手法を先行研究を踏まえてまとめ、そのうちの一つとしてQ&Aサイトのクエリ分析を挙げている。ゲーム分野では、Leeら(2015a)iii)による、半構造化インタビューから得た43項目から、新しくプレイするビデオゲームを探す際に有用なメタデータを選択させるアンケート調査がある。この研究の結果、利用者の情報要求は上位から値段(79.4%)、プラットフォーム(76.1%)、ジャンル(74.0%)などであることが明らかとなったが、日本において要求が見られると想定できるキャラクターに関する分析はなかった。また、Leeら(2015b)iv)は性差とゲームプレイ経験の度合いに重点を置いて分析したが、分析対象の属性の性差とプレイ経験の度合いの割合が不正確であり、この点での分析は不十分であった。

3.分析手法と仮説

 本研究では、利用者は未知のビデオゲーム作品を探す際に、どのような情報を求めるのか、Q&Aサイトのクエリ分析による手法で分析する。データの収集方法は以下の通りである。

 分析方法はKH Coder(樋口2004)v)を用いた計量テキスト分析である。分析に際して、ゲームジャンル毎に要求の種類が異なる(仮説1)、要求に米国との差が見られる(仮説2)、メディアミックスの影響により、キャラクターの要求が見られる(仮説3)の3つの仮説を立てた。

4.分析結果と考察

 まず、全質問を対象とする共起ネットワークを作成し、ゲームジャンルとしては頻出語上位3位であり、クラスタが見られた「RPG」「FPS」「乙女ゲーム」の3ジャンルについて、それぞれ共起ネットワークを作成し、その特徴を分析したところ、以下の傾向が見られた。
 次にコーディングによって32個のコードを作成し、ジャンルごとの頻出語の比較をクロス集計にて行った結果、以下が明らかとなった。

 最後にコロケーション統計による「キャラクター」の分析を行ったが、その結果、キャラクターに対しては性別、容姿、性格、自由度に関する情報要求があることがわかった。
 以上より仮説を検証し結論を導く。仮説1については、ゲームプレイの重点(アクション性・物語性)と複数人とのプレイの有無によって情報要求に差異が発生すること、特定のジャンルでのみ高い要求があることが明らかとなった。各ジャンルごとに求められる要求は、クロス集計より得られた表で確認できた。仮説2については、まず乙女ゲームというジャンル自体が海外ではあまり見られないものであること、さらに比較は困難であるものの、Leeのメタデータエレメントにはなかった要求「初心者」「プレイ人口」「飽きない」が日本ではあることがわかった。仮説3については、乙女ゲームやRPGではFPSよりもキャラクターに関する情報要求が高く、キャラクターの性別、容姿、性格、多さ、自由度への情報要求が明らかとなった。

5.おわりに

 今後の展望として、ジャパンサーチにおける横断検索や、展示などの社会的利活用を想定したメタデータ設計も必要である。今回の結果をメタデータに反映させていくためには、語彙の検討や典拠が必要となる。web上のテキストやRCGSでも所蔵するゲーム資料、画像を用いた分析から、キャラクターや物語設定などの語彙の検討が行えるのではないかと考えられる。
 また、おもしろさや飽きないことなどに関する情報要求においては従来の目録には含まれてこなかった観点である。目録には含まないことは考えられつつも、これらをどのように表現するかも今後の課題となるだろう。
 今回は文字数の制限もあり、図表を割愛した。図表については以下の論文を参考にされたい。

•毛利仁美, 福田一史, and 細井浩一. 「主題付与方針の提案に向けたビデオゲームの利用者要求に関する研究:質問応答サイトの計量テキスト分析」『REPLAYING JAPAN 』1 (2019): pp.118-35.
参考:立命館学術成果リポジトリ
   http://r-cube.ritsumei.ac.jp/repo/repository/rcube/11686/

(記録文責:今野創祐 京都大学)


参考文献:
i) 福田一史.「ビデオゲームの目録作成とメタデータモデルを巡る研究動向」『カレントアウェアネス』, no. 336 (2018):pp.23-27.
ii) 金井喜一郎.「利用者の音楽資料検索要求とメタデータ:音楽検索に有効なメタデータ要素」『日本図書館情報学会誌』62, no. 2 (2016):120-130.
iii) Lee, Jin H., Rachel I. Clarke, and Andrew Perti. "Empirical Evaluation of Metadata for Video Games and Interactive Media." Journal of the Association for Information Science and Technology 66, no. 12 (2015a):2609-2625.
iv) Lee, Jin H., Rachel I. Clarke, and Kim Yea-Seul. "Video Game Information Needs and Game Organization: Differences by Sex and Age." Information Research 20, no. 3 (2015b):1-24.
v) 樋口耕一.「テキスト型データの計量的分析:2つのアプローチの峻別と統合」『理論と方法』19, no. 1 (2004):101-115.