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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2019.10)

「米国型文書整理法の形成と図書館界:「目録いらず」の検索手段をめぐる模索」

坂口貴弘氏(創価大学)


日時:
2019年10月26日(土)14:30〜17:00
会場:
同志社大学新町キャンパス
発表者:
坂口貴弘氏(創価大学)
テーマ:
「米国型文書整理法の形成と図書館界:「目録いらず」の検索手段をめぐる模索」
出席者:
荒木のりこ(国際日本文化研究センター)、飯野勝則(佛教大学)、石井幸雄(記録管理学会)、今野創祐(京都大学)、江上敏哲(国際日本文化研究センター)、金井喜一郎(相模女子大学)、蟹瀬智弘(紀伊国屋書店)、川崎秀子、古賀崇(天理大学)、阪田美枝(同志社大学)、佐藤明俊(奈良県立図書情報館)、嶋田典人(香川県立文書館)、田窪直規(近畿大学)、長瀬広和、中道弘和(堺市立図書館)、福田一史(立命館大学)、松井純子(大阪芸術大学)、御前友実(同志社大学)、和中幹雄、坂口<20名>

1. はじめに

 アーカイブズの資料整理法と図書館界の情報組織化手法とは別物であることが強調されるようになって久しいが、この違いが意味するものを考える上で、米国におけるアーカイブズ検索手段の形成過程は多くの示唆を与えてくれる。米国のアーカイブズ資料の組織化に決定的な影響を及ぼしたのは、図書館界のカード・システムの応用から始まった事務文書のファイリング・システムであった。

2. アーカイブズの検索手段とは

 米国では、アーカイブズの分類において、文書群の内容のみならず背景に関する情報を提供することを重視してきた。「検索手段」とは「目録」や「ガイド」などを包括する用語として、1940年前後の米国国立公文書館において生み出された。アーカイブズ検索手段の類型として、インベントリ、カタログ、ガイド、索引、編年目録、その他のアクセスツールがあるが、まず作成されるべきはインベントリ(組織体の文書群全体について、その概要や利用上留意すべき点を簡略に記載したもの)である。

3. 本発表について

 本発表の目的は、1934年設立の米国国立公文書館における資料検索手段の開発に際して、20世紀初頭以降に普及をみた米国型の事務文書整理法が及ぼした影響について分析することである。研究素材として、ハーキマー郡歴史協会が所蔵するライブラリー・ビューロー文書、米国国立公文書館文書等を用いた。

4. ファイリング・システムの成立

 米国では、ファイリング・システムとはフォルダを綴じずに垂直に配列する方式(バーティカル・ファイリング・システム)を指すのが一般的である。19世紀末に誕生したファイリング・システムは、記録の配置単位、検索手段、配列、保管容器・用品といった点で、それ以前のレジストリ・システムとは異なるものである。米国国立公文書館における検索システム成立の背景として、それ以前に起こったこの文書整理法の技術革新を考慮する必要がある。米国では1854年にボストン公共図書館で初めて書誌情報のカード・システムが採用された。1868年には数字式索引を介さない直接式検索手段(自己索引型)のファイリングケースが開発されている。図書館用品会社ライブラリー・ビューローは図書館を対象に培ったカード・システムの技法を事務文書に応用するようになった。同社が生み出したバーティカル・ファイリング・キャビネットは、多様な配列方式の普及をもたらす。具体的には、カード索引型を用いる方式(数字順と主題別)のほか、それらを必要としない「自己分類型」(アルファベット順、地域別、日付順など)である。

5. ファイリング・システムと米国国立公文書館

 米国国立公文書館は設立直後、既存のアーカイブズ目録・索引類の調査・収集を開始したが、文書そのものの調査よりも、文書の検索手段の調査が先行して進められた。まず食糧庁事務所の文書の調査・分類を行ったが、受け入れつつある文書の数量は膨大であり、未整理資料が累積することは明らかな状態であった。そのような中で資料の公開が開始され、利用者数、レファレンスの件数はともに増加していく。この時点では検索手段がほとんど作成されておらず、移管元機関において整備されたファイリング・システムや索引などが活用された。1941年、国立公文書館検索手段委員会の勧告に従い、比較的簡略な「予備インベントリ」を主体とした検索手段の作成が開始された。これは、各文書群の整理に用いられているファイリング方式について記述していることが一つの特徴であり、記述の単位も、基本的に同一のファイリング方式で整理された文書群単位(シリーズ)ごとになっていた。現用段階の文書分類・整理方式が検索手段に記述されることによって、国立公文書館は大量の受入れ文書の再分類や詳細な目録作成の手順を省略し、公開の迅速化を図った。これはファイリング・システム担当者とアーキビストの巧まざる連携プレーの産物であったといえる。

6. おわりに

 検索手段とは文字通り文書の発見のための検索を補助する手段であり、必ずしも全ての対象資料について目録を作成しなければならないわけではない。目録を作らずとも、対象資料の検索が容易になりさえすればよい。米国国立公文書館の検索手段は、現用段階におけるファイリング・システムの整備を前提としており、個別資料の詳細な編成・記述の完了を待たずに資料の迅速な公開を可能にしていた。アーカイブズ組織化の基本的考え方(原秩序尊重の原則)に従うならば、分類や整理をアーカイブズ機関がすべて独自に行うのではなく、文書作成機関が行った整理や分類の体系を尊重し、その成果を最大限活用することが望ましい。これは膨大かつ多様なアーカイブズ資料の整理・公開を効率よく進めるための現実的な解決策でもある。日本でも今後、公文書管理やアーカイブズへの関心の高まりに伴い、公文書館等へ移管される資料が増加する局面も想定される。少ない人員や予算の中でそれに対処するには、文書作成者との連携プレーによる組織化方式を積極的に実践していくことも必要ではないかと考えられる。

以上の発表を受けて、ファイリング・システム担当者とアーキビストの役割の差異について、ライブラリー・ビューローがファイリング・キャビネットを売り込むことに成功した秘訣について、当時の文書整理の業務において女性労働者の果たした役割について等の質疑があった。

(記録文責:今野創祐 京都大学)