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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2020.09)

「手品と目録のあいだ−いつか記憶からこぼれ落ちるとしても−」

岡村真衣氏(皇學館大学文学部国文学科4年)


日時:
2020年9月12日(土)14:30〜16:00
会場:
Zoomミーティング
発表者:
岡村真衣氏(皇學館大学文学部国文学科4年)
テーマ:
「手品と目録のあいだ−いつか記憶からこぼれ落ちるとしても−」
出席者:
荒木のりこ(大阪大学)、今野創祐(京都大学)、梅田優歩(皇學館大学)、浦山英記(マジックコレクター)、岡田大輔(相愛大学)、岡野裕行(皇學館大学)、蟹瀬智弘(紀伊国屋書店)、川崎秀子、キシタカ(マジシャン)、久野木裕子、阪田美枝、ささきせつお(TAMC、YMG)、塩見橘子、下村知行(下村教育企画)、SUZY、田窪直規(近畿大学)、谷合佳代子(エル・ライブラリー)、ツカハラシンタロウ(手品ワールド)、コ田恵里(紀伊國屋書店関西ライブラリーサービス部)、中村安夫(MN7)、西口宏太(皇學館大学)、能勢裕里江(MN7)、濱谷堅蔵(TAMC)、福田一史(立命館大学)、藤城亜砂、蓬生裕晃(プロマジシャン)、水谷長志(跡見学園女子大学)、光富健一(INFOSTA)、村上篤太郎(東京農業大学)、森下洋平(MN7)、森原久美子(島根県立大学)、山田征礼(MN7)、綿田敏孝、和中幹雄、他2名、岡村<37名>

1.はじめに

 手品は、タネや秘密が広がっては成り立たない芸能である。それゆえ保存が難しいとされてきた。手品は現代まで手品師たちのあいだで密かに伝統技術や文化の継承が行われてきた。そのため、それらの情報が記録されることは少なく、過去の技術や手品文化を振り返ろうとしても、なかなか情報にアクセスしづらい状況であった。また、たとえ資料に出会えたとしても、その情報の真偽を確かめることが困難であった。それらの悩みを解消すべく、現存する手品資料を網羅的に収集、記録、保存することによって、個々の資料の関係性を明らかにし、体系的に見れるようにすることを目的とする。

2.手品の保存とは

 手品の保存とは、今ある手品資料に新たな価値を見出し、それを後世に残すことで手品文化の発展に寄与することである。また、手品の表現に必要な資料だけでなく技術を継承するために残すことである。手品に限らず、人に依存型の無形のモノやコトは、技術の後継者がいなくなれば、その技が次の世代に受け継がれることなく消えてしまう。失われた技術を復活させるのは難しく、業界全体から見ても大きな損失となる。それらを防ぐためにも、今記録できること・記録しなければ失われてしまうものは同時代のうちに記録すべきである。
 保存の目的は以下のとおりである。

  1. 現存する手品資料を網羅的に収集、記録、保存することによって、個々の資料の関係性を明らかにし、体系的に見れるようにすること。
  2. 手品資料の収集・整理・保存し後世に伝えること。
  3. 手品資料の所在を明らかにし、手品文化の発展に寄与すること。
  4. それらの活動をすることにより、手品自体に新たな価値を付けること。
    保存の意義は、手品に対する新たな価値の付与である。

3.組織化するにあたって

 参考としたモデルは東京文化財研究所『WordPressで作る文化財情報データベース』である。

  1. 手品資料の特徴は以下のとおりである。
    • 形が一定でない
    • 技術の継承の場合、人に依存しやすい
    • 収集が困難
    • 継続的に収集しないと価値が見えづらい
  2. 収集するモノの定義・コレクションになり得るモノは以下のとおりである。
    • 手品師が演技中に使用したモノ
    • イベントや大会で使用されたパンフレットやチラシなど、そのときにしか発行されない資料やグッズなど
    • 道具や現象をつくる過程でできたモノ(試作品など)
    • その他、手品に関するさまざまな資料
  3. 対象者は手品師である。
  4. 共通項目一覧の私案として、以下の項目を考えた。
    必須項目:管理番号(ID)、整理番号、タイトル、保存場所、最終更新日、登録日
    準必須項目:タイトル(英)、法量、個数、制作年、演じた年、制作者、使用者、備考、カテゴリ、重さ、材質
    任意項目:入手経路、入手者、表記ゆれ(候補)、解題、資料画像、PDF化の有無

 結果として見えた課題は以下のとおりである。

  1. 手品の分類法がない(主題・区分が明確でない)
  2. 資料を保存する場所がない
  3. 保存する場所があっても運営していく人がいない

 今後の展開として以下を考えている。

  1. 手品分類をつくる
  2. 手品資料の保存先を見つける
  3. ネットワークを広げる
  4. 自分たちで記録化できるようにする
  5. 手品アーカイブは価値のあるものだと言い続けることにより、社会的地位の確立を目指す

4.他業界を巻き込む

 メリットとして以下の点が挙げられる。

5.そのほかに伝えたいこと

〔MN7(マジックネットワーク)について〕
MN7とは、2013年に「マジック文化の継承と発展」を目的に発足した、マジシャン(奇術家)およびマジックファン(奇術愛好家)のネットワークである。現在、メンバー8名、会友11名の合計19名。 主な活動は、@奇術史、A資料保存(文献・写真・映像)、B舞台研究を中心に資料を整理・収集・保存を行う。そのほか定期的に研究会やイベントの開催、独自にアンケート調査を実施しマジック人口調査などを行っている。

〔誤解されやすいこと〕
「手品の保存」はタネ明かしにつながるのではという疑問があるが、実際には所蔵資料の所在の公開なので、タネ自体の公開をするわけではない。公開や非公開は厳重に管理し、あくまでも利用者と情報をつなぐ役割を目標としている。

6.おわりに

 「手品の保存」は誰かが突出して行うのではなく、多くの人を巻き込むことによって実現するものであると考える。
 各所で収集される資料は間違いなくその時代の手品師たちの心性を物語り、生きた証として後世に受け継がれていくだろう。
 今後は、データの管理や情報発信に関するモラルを構築し、各有識者との連携を深め、さらなるネットワークの発展に歩みを進めていきたい。

以上の発表を受けて、手品のシソーラスについて、分類の私案について、公開の範囲について等の質疑があった。

(記録文責:今野創祐(京都大学))