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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2023.5)

「国立国会図書館の典拠データの拡充―著作とジャンル・形式用語を中心に」

村上 一恵氏(国立国会図書館収集書誌部)


日時:
2023年5月27日(土)14:30〜16:00
会場:
(Zoomミーティング)
発表者:
村上 一恵氏(国立国会図書館収集書誌部)
テーマ:
国立国会図書館の典拠データの拡充―著作とジャンル・形式用語を中心に
出席者:荒木のりこ(大阪大学附属図書館)、石田友梨(岡山大学)、石橋進一、浦部幹資、江草由佳(国立教育政策研究所)、大野綾佳、大野理恵(筑波大学生命環境系技術室)、小野塚由希子(国立国会図書館)、神谷信武(チューリッヒ大学図書館)、工藤彩(久留米大学御井図書館)、坂下直子(神戸女子大学)、柴田正美(三重大学名誉教授)、下山佳那子(八洲学園大学)、下山朋幸(国立精神・神経医療研究センター図書館)、高野真理子(大学図書館支援機構)、高橋努(関西外国語大学)、高柳紅仁子(トッカータ)、田島克実(トッカータ)、徳原靖浩(東京大学附属図書館U-PARL)、村岡和彦、村上健治(広島大学)、森原久美子(秀明大学図書館)、、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄、他13名、村上<38名>

1. 国立国会図書館(以下、NDL)の典拠データ

NDLでは以下の3種類の典拠を作成しており、Web NDL Authorities (https://id.ndl.go.jp/auth/ndla)ですべて公開している。

  1. 名称典拠:著者名やタイトルなどを表す典拠(個人名、家族名、団体名、地名、著作、統一タイトル)
  2. 普通件名典拠:資料のテーマとなっているものごとを表す典拠
  3. ジャンル・形式用語典拠:資料の内容や様式を表す典拠

また、「著者名検索」「件名検索」「ジャンル検索」ボタンをクリックすると、国立国会図書館オンライン(https://ndlonline.ndl.go.jp/)でそれぞれの典拠にリンクしている書誌データを検索することができる。 逆に、国立国会図書館オンラインからWeb NDL Authoritiesへのリンクもあり、典拠データの詳細を確認することもできる。

典拠コントロールをおこなうメリットは、生年や付記事項などで同名異人を区別したり、同じ実体の異なる表記をまとめたりすることができる点にある(例:作家の村上春樹と国文学者の村上春樹を区別、異なる日本語訳タイトルとなっている同じ小説をまとめる)。

本発表では、1 名称典拠の「著作」と3 ジャンル・形式用語典拠について説明する(2021年1月から運用を開始)。

2.著作典拠データ

JAPAN/MARC MARC21フォーマットだと、書誌データの「730(著作)」に著作典拠データ、「700/710(創作者等)」に個人・団体典拠データについて記述する。また、著作典拠データの「500/510(関連リンク:個人/団体)」に創作者である個人・団体典拠データについて記述する。そのため、実際に国立国会図書館オンラインでも、リンクから典拠データ詳細を見ることが可能となっている。 なお、著作典拠一覧(https://id.ndl.go.jp/information/work/work_list/)では、2023年5月27日時点で511件のデータを確認することができる。

著作典拠コントロールのメリットとして、典拠ID、付記事項などで同タイトルの異なる作品を区別できる点、同じ作品の異なる表記(翻訳タイトルを含む)をまとめられる点が挙げられる。

NDLではどのような著作を典拠形アクセス・ポイントとするか、「著作に対する典拠形アクセス・ポイントの選択・形式基準」(参考文献4)で以下のように定めている。

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2-2. 典拠形アクセス・ポイントとする著作
(1) 復刻・翻刻または翻訳(現代語訳・口語訳を含む)された古典作品の原著作
(2) 日本語訳のタイトルが複数存在する近現代の作品の原著作
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(1)の古典作品とは、原語が日本語の場合は「慶応4年以前」、中国・朝鮮語の場合は「宣統3年以前」、それ以外の言語の場合は「1830年以前」のものである。(2)は、(1)の時代以降の著作で、日本語訳のタイトルのバリエーションがあると判明したものが対象である。(1)と(2)では、作成方法が異なる部分がある。優先タイトルについて、(1)は日本語のタイトル、(2)は原語のタイトルを採用している。また、部分で構成される著作について、(1)では、全体の単位、(2)では、よく知られている部分の単位で典拠データを作成している(例:「魏書」 「魏志倭人伝」の典拠データは作成せず「三国志」の別名として記述、「ナルニア国物語」では各巻のタイトルで典拠データを作成)。

NDL著作典拠データのリンク対象範囲は、NCR2018適用資料群(和図書、国内刊行洋図書、和洋逐次刊行物、和非図書資料、中国語・朝鮮語・国内刊行のその他のアジア言語資料)のうち「図書」である。ただし、外国刊行洋図書、和古書等も既存典拠データにリンクしている場合がある。 また、識別子を利用して、外部のデータベースにもリンクしている(国書データベースVIAF米国議会図書館のLinked Data Service )。

通常の書誌データ作成時、資料(≒体現形)ごとに、資料受入→記述(資料からの転記)→アクセス・ポイント(著者標目)付与→分類・件名付与・著作典拠付与といった流れで作業している。遡及リンクプロジェクトとして、2020年12月までに作成した書誌データへの著作リンクの登録作業もおこなっている。NDC・NDLCに項目がある古典作品を中心に、作品ごとに順次調査して、典拠作成した後で該当する書誌にリンクする作業を進めている。2023年3月現在、32件の著作典拠を1,937書誌にリンク済みであるが、著作リンク(730追加)を除き、書誌データ全体のNCR2018対応は行っていない。

3.ジャンル・形式用語

ジャンル・形式用語とは、何についての資料なのか(資料のテーマ)ではなく、その資料が何であるのか(資料のジャンル・形式)を示す。例えば、普通件名の「アニメーション」で件名検索すると、アニメーションについて書かれた図書がヒットするが、ジャンル・形式の「アニメーション」でジャンル検索すると、形式がアニメであるDVD等がヒットする。

分類記号でなく用語で表現しているので、分類記号を知らなくても検索できること、特定の主題における、形式細目による細分化とは異なり、ジャンル・形式用語は様々な主題についての資料を共通のジャンル・形式でひとまとめにできることが利点である。

「国立国会図書館ジャンル・形式用語表(National Diet Library Genre/Form Terms; 以下、NDLGFT)」には2023年5月現在、「議会資料」「漫画」「児童図書」「児童雑誌」「LLブック」「楽譜」「アニメーション」「コンピュータゲーム」「住宅地図」の9件登録されている。2021年1月、和および国内刊行洋資料のうち、図書に「議会資料」、「漫画」、「児童図書」、「LLブック」を付与から始まり、2022年4月以降は、それぞれの語によって逐次刊行物や映像資料・電子資料等へも広がっている。

NDLGFTには、資料の選択に有用なもの、資料種別をまたぐもの、NDC・NDLCでは発見し難いもの、分類記号などから効率的に付与が可能なものといった、検索に効果的かつ効率的に付与可能な用語が、今後も順次追加されていく。なお、ジャンル・形式用語の書誌データへの付与は、「国立国会図書館ジャンル・形式用語作業指針」(参考文献5)に従っておこなわれる。

2020年12月までに作成した書誌へ機械的に入力している。システム上の制約により、毎週1万件前後ずつ作業している。以下、作業の進行状況である。

※和図書はいずれも国内刊行洋図書を含む

なお、NDLGFTの同義語にあたるものがあれば、米国議会図書館のLCGFTにリンクしているが、LCGFTのように、細分化や上位語と下位語といった用語どうしの関連付けはしていない。 また、「LLブック」は国立国会図書館サーチ(https://iss.ndl.go.jp/)の障害者向け資料検索の検索対象に追加している。

4.今後の取組

今後の取組予定は「国立国会図書館書誌データ作成・提供計画2021-2025」(参考文献1)にまとめられており、典拠データについては、「6 取組事項 (1) 書誌データ機能の強化 ?典拠データの拡充」を参照のこと。

また、国立国会図書館オンラインと国立国会図書館サーチを統合する次期サービスシステムを検討中である。Web NDL Authorities と国立国会図書館オンラインの連携を踏襲し、ジャンル・形式用語も検索項目に追加予定である。典拠を使った関連する資料の提示等も検討している。

参考文献

  1. 国立国会図書館. 国立国会図書館書誌データ作成・提供計画2021-2025https://www.ndl.go.jp/jp/library/data/bibplan2025.pdf
  2. 国立国会図書館. 典拠データを使った資料検索:Web NDL Authoritiesガイドhttps://www.ndl.go.jp/jp/data/data_service/authorities/ndla.html
  3. 木村千枝. Web NDL Authoritiesの拡充:著作とジャンル・形式用語. カレントアウェアネス-E. 2022, (435)https://current.ndl.go.jp/e2494
  4. 国立国会図書館. 著作に対する典拠形アクセス・ポイントの選択・形式基準(2021 年 1 月)https://www.ndl.go.jp/jp/data/catstandards/accesspoint/pdf/work_202101.pdf
  5. 国立国会図書館. 国立国会図書館ジャンル・形式用語作業指針(2023年4月)https://www.ndl.go.jp/jp/data/catstandards/classification_subject/pdf/genre_manual_202304.pdf
  6. 国立国会図書館. 令和4年度書誌調整連絡会議報告https://www.ndl.go.jp/jp/data/basic_policy/bib_control/conference/2022_report.html

以上の発表を受けて、以下の質疑があった。

なお、今回の月例研究会については、Zoomの映像を録画し、開催後一週間に限り、出席を申し込んだものの欠席された方にも、映像を配信した。

(記録文責:荒木のりこ)