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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2018.4)

「FRBRからLRMへ:書誌情報に関わる新たな概念モデルについて」

和中幹雄氏(大阪学院大学)


日時:
2018年4月28日(土)14:30〜17:00
会場:
大阪学院大学
発表者:
和中幹雄氏(大阪学院大学)
テーマ:
FRBRからLRMへ:書誌情報に関わる新たな概念モデルについて
出席者:
荒木のりこ(日文研)、今野創祐(京都大学)、岡田大輔(相愛大学)、蟹瀬智弘(紀伊国屋書店)、川崎秀子、川畑卓也(奈良県立図書情報館)、塩見橘子、末田真樹子(神戸大学)、杉本重雄(筑波大学)、高野真理子(大学図書館支援機構)、高畑悦子、田窪直規(近畿大学)、竹村誠(帝塚山大学)、田辺浩介(物質・材料研究機構)、田村俊明(紀伊国屋書店)、中道弘和(堺市立図書館)、西田紀子、堀池博巳、松井純子(大阪芸術大学)、安松沙保(国立国会図書館)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中<22名>

 1997年にFRBRが策定されてから20年が経過した2017年8月に、書誌情報に関わる3つの概念モデルFRBR、FRAD、FRSADを統合した新たな概念モデルIFLA Library Reference Model(略称IFLA LRM)が国際図書館連盟(IFLA)専門委員会により承認され公表された。この新しい概念モデルの策定経緯を概観した上で、いくつかのトピックから見た本モデルの具体的な特徴を明らかにするとともに、わが国においてこの概念モデルの普及を図る方策として、日本語訳をめぐる課題について議論が交わされた。

1.新しい概念モデル策定の経緯

 新たな概念モデルを策定したIFLA FRBR Review Groupは、2005年以降、FRBRの改訂作業に取り組むとともに、メタデータスキーマや統制語彙等のレジストリであるOpen Metadata Registry(OMR)のそれぞれの名前空間の中で、FRBR、FRAD、FRSAD がそれぞれ定義している実体、属性および関連を、クラスないしプロパティとして登録する作業を行ってきた。この登録の過程において、テキスト形式で定義されているFRBRの定義の曖昧さや3つのモデルの異同が明確になった。このことが統合化を促す契機となった。
 また、FRBRファミリーを形成する3つの概念モデルと他のコミュニティとの調整、すなわち、FRBRoo(博物館のモデルCIDOC-CRMとの調和を目的としたFRBRオブジェクト指向版)、PRESSoo(ISSNネットワークによる逐次刊行物モデル)およびISBDとの対応テーブルの作成などの調整が統合化作業と同時に進行した。

2.新しい概念モデルの概要

 モデル全体の特徴は次のような点に求められる。
 ① オブジェクト指向分析設計と密接に関連した概念も一部導入した拡張実体関連モデルである。
 ② 抽象的な概念に基づくハイレベルの概念参照モデルである。
 ③ モデリングの対象は広義の書誌データであり、書誌レコード利用者の主要な関心対象である実体の摘出から始まる実体関連分析の技法を用いるFRBRのモデリングのプロセスを踏襲している。
 ④ FRBRとの大きな相違は、モデリングにおける実体、属性、関連の定義を厳密に行う手法を採用し、システム設計における概念設計書としてそのまま使用できる仕様書形式で記述されている。

3.Users(利用者)およびUser Tasks(利用者タスク)

 IFLA LRMではエンドユーザーとそのニーズに焦点を当てることとし、FRADにおける図書館内部プロセスに必要な管理メタデータは対象外としている。FRBRが定義する4つの利用者タスク,Find(発見),Identify(識別),Select(選択),Obtain(入手)に加えて、新たな利用者タスクとしてExplore(探索)が追加された。

4.Entities(実体)の定義とAttributes(属性)およびRelationship(関連)

 3つのモデルを統合した結果として、11個の実体が階層化されて定義された。最上位の実体として定義されているResは、英語のthingに対応するラテン語で、書誌的世界に関連するとみなされる物理的事物および概念的客体のすべてが含まれる。
 第2レベルの実体には、FRBRの第1グループの実体、Work(著作)、Expression(表現形)、Manifestation(体現形)、Item(個別資料)が定義され、情報資源をこの4タイプの実体で捉えるFRBRの基本コンセプトに変更は加えられなかった。
 一方、FRBRの第2グループの実体全体に対応し、「意図的な行為が可能で、権利が与えられ、行為に責任を負うことができる主体」と定義される実体Agentが新設されることにより、個人や団体の位置づけに大きな変更が加えられた。すなわち、実体Agentの下位レベル(第3レベル)の実体として、PersonとCollective Agentが、個人と集団という行為主体として位置づけられることになった。その結果、例えばPersonは、「生きている、または生きていたと思われる実在の人物」に限定され、文学上の人物、伝説上の人物、神、および文学上の人物、役者、演者として名づけられた動物などは除かれることになった。
 Agentの他に、Nomen(名称)という実体が第2レベルの実体として定義されている。情報資源(著作、体現形等)や個人という実体とは別に、それらの名称自体を独立した実体として定義することにより、著作名(著作のタイトル)や個人名を、「著作」や「個人」と複数のNomen(名称)との関連として捉えることが可能となり、典拠コントロールのモデル化を明確化できることとなった。さらに、PlaceとTime-spanが実体として定義され、各種の実体と場所や時間との関連を表現することが可能となった。
 実体の階層化を行うことにより、上位レベルの実体において定義された属性や関連は、下位レベルの実体において同種の属性および関連の定義を繰り返すという冗長さを避けることが可能となった。また、実体を記述するデータとして位置づけられている属性は網羅的に収録しているわけではなく、最も重要な属性として、11個の実体に対して全部で37個の属性のみが挙げられている。その中には、体現形のタイトルや責任表示や版表示など、いわゆる転記情報の多くを統合したManifestation statementという一般化された属性が加えられている。
 is-A関係と相互関連の2種類からなる関連は36種類が定義されているが、関連の多くは相互関連なので、逆関連も含めると、69種類の関連となる。

5.今後の課題

 2018年6月13日に、RDA Toolkitは、このIFLA LRMを実装した再構成が行われる予定である。これにより、FRBRやFRADを基礎としたRDAは、IFLA LRMを基礎としたRDAに変貌を遂げてゆくことになり、NCR2018年版にも影響を与えることが予想される。この新しい概念モデルの我が国における理解と普及のためには、なんらかの形での邦訳の実現が望まれる。
 IFLA LRMで定義されている実体、属性、関連は、クラスないしはプロパティとして英語名を用いた識別子が与えられる。そのため、情報技術的な観点から見れば、これらの用語は英語を使用する方がベターとも考えられるという観点から、邦訳が果たして必要かどうかという議論が行われた。しかし、概念モデルの意味内容を私たちが十分に理解するためには、なんらかの形での邦訳は必要ではないか、その場合、図書館用語と各種メタデータスキーマの用語との調整も必要となるのではないかといった議論が交わされた。

(記録文責:和中幹雄)

配布資料:当日配布資料 (追加 6/18 PDFファイル 約0.5MB)

参考文献:
和中幹雄「IFLA Library Reference Modelの概要」
    『カレントアウェアネス』No.335, p.27-31, 2018.3(CA1923)
    http://current.ndl.go.jp/ca1923
和中幹雄「FRBR-LRM(FRBR,FRAD,FRSAD の統合案)の概要メモ」
    『資料組織化研究-e』No.69, 2016.10, p.27-41.
    http://techser.info/wp-content/uploads/2016/10/69-20161027-3-PB.pdf
千葉孝一「FRBR再考3:Representative Expressions」
    『資料組織化研究-e』No.72, 2018.3, p.1-22.
    http://techser.info/wp-content/uploads/2018/03/72-201803-1.pdf